基本的に、誰だって通貨を発行することはできます。
地域振興券やら、商店街のポイントやら、量販店のポイントやら・・・
もちろん政府にも通貨を発行する権利があり、事実、私たちになじみの深い1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉などは、日本銀行ではなく、日本国政府が発行しています。
問題は、その通貨に「通用力」があるか/ないか。
それはすなわち、その通貨に「経済価値」があるか/ないか、ということになります。
ちなみに、日本銀行券は法律により、その強制通用力が謡われています。
(日本銀行法第46条
(日本銀行券の発行)
第四十六条 日本銀行は、銀行券を発行する。
2 前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。)
ご存知のように、上記の「~玉(硬貨)」には価値があります。
日本国政府が発行しているという「お墨付き」および、「通貨自体の金属の価値」が、「おおよそ」通貨に記載された数値の価値を持っているというわけです。
つまり、通貨に刻まれた数値を、通貨自体の物質的価値が担保して(バランスして)いるわけです。
したがって、「通用力」が生じるわけです。
通貨であれ、株式であれ、とにかく、「それって何によって担保されてんの?」が無ければ、価値を持たないわけです。
さて、政府紙幣についてですが、この紙幣を担保するのって何でしょうか?
印刷機回して印刷するだけですから、紙幣それ自体の価値は、上記の貨幣と違い、ほとんどありませんし、日本銀行券のように、それをバランスする国債などの「何か」も特に無いわけです。
あるのは、「日本国政府発行」というだけです。
そして、実際の流通を考えたとき、通貨の価値を支える上で忘れてはならないのが、「インフラ」です。
現在の政府発行の硬貨も、日本銀行券も、飲料水やら電車の切符やら自動販売機で使えますし、銀行のATMに入れたり出したりできます。
しかし、そのようなインフラは、政府紙幣には対応していません。
つまり、政府紙幣の場合、事実上の通用力が、日本銀行券に比べ、極めて低いわけです。
もし、読者の皆さんが、政府紙幣を受け取ったらどうしますか?
もし、飲食店などの事業をされている方が、飲食代として政府紙幣を受け取ったらどうしますか?
僕だったら、何らかの方法で、さっさと日本銀行券に変換します。
皆さんもそうじゃないでしょうか?
(以上は合理性から考えられる想定ですが、世の中「ポイント貯めるの大好き!」な非合理的な人が溢れていますから、実際にはどうなるかわかりませんけれど(笑・・・ポイントは政府どころか一民間企業が発行する通貨ですから、本来蓄積する意味など全く無いのですが・・・))
僕はここで、政府紙幣に「経済活動における効果が全く無い」と主張したいのではありませんし、また、シルビオ・ゲゼルの論に異を唱えようとするものでもありません。
そもそも、今アイデアとして出されている政府紙幣が、具体的にどんなものなのかさっぱりわかりませんから、現時点で政府紙幣について書くことはいささか早急だとも思います。
しかし、(先日も朝日新聞系列のくだらない番組で議論されていたのですが)、「政府紙幣を発行すれば、何のデメリットも無く、ヘリコプターマネーを実現できる!」という考え方に引っかかっているわけです。
1日本銀行円=1政府紙幣円
が(どうして実現できるのかさっぱりわかりませんが)実現できるとするならば、上記のくだらないテレビ番組の出演者が言っているような効果はあるかもしれません。
けれど、「現実的」には、通用過程で、
1日本銀行円>1政府紙幣円
という交換レートになることが容易に推測できます。
少なくとも、日本銀行券によるX兆円のバラマキ効果と、政府紙幣によるX兆円のバラマキ効果を同等に扱うべきではないと思います。
<人は金があるから、金を使えるのではない>
ここからが僕にとって重要な主張なのですが・・・
そもそも、人がお金を使う条件とは、(それが真っ当な人間であれば)、
「お金があるから、バンバン使う」のではなく、
「お金が継続的に入ってくるから、使える」わけです。
どれほど純資産を持っていようが、「明日以降のキャッシュフローが見込めない状況なら、使わない」という選択をする傾向にあると思います。
つまり、将来の継続的なキャッシュフローが見込めなければ、いくら純資産を持っていたとしても、消費を控えるものです。(もちろん真っ当な人間の場合の話ですが)
皆さんもそうではないでしょうか?
政府紙幣に一定の効果があるとしましょう。
しかし、政府紙幣は「単発のキャッシュフロー」であることに疑いの余地はありません。
(だって、毎月延々と政府紙幣が支給されるわけじゃないですから)
純資産が「一度」増える効果があったとしても、そのキャッシュフローに継続性が無いとなれば、人は消費を抑えるものです。
事実、この国には、たとえば「タンス預金」だけでも30兆円はあると推測されています。
つまり、消費しない原因は、「金が無いからではない」のです。
足りないのは、将来のキャッシュフロー(の予測)なのです。
この点、全く見過ごされていて、全くぅ・・・
<経済システムの問題じゃない>
今、議論されている「経済浮揚」策のほとんどすべてが、極めて「テクニカル」なものです。
「お金をばら撒けば、皆が使う。」とか、
「金利を下げれば、お金が流れやすくなる」などなど。
それらには、確かにマクロ的にそれなりの効果があります。
でもそんなのは、それが専門の日本銀行に任せて置けばいいのです。
本質的に、人が持てるお金を消費に回すためには、経済の仕組み上のテクニカル策だけでは無く・・・
1、将来の収入に対する継続的な安心感があること
2、生活必需だけではなく、「エロく」魅力的な商品があること
が必要なのではないでしょうか。
しつこいようですが、今、消費が滞る本質的な原因は、手元に金があるか/無いか、ではなく、将来のキャッシュフローに対する不安が、消費を滞らせているわけです。
今、政治が行うことは、日本国民が「将来に希望を持てるような政策」なのであって、「足元のバラマキ」ではないのです。
(バラマキそのものを否定しているわけではありません。)
その点、(それがどの程度効果があるかわからないという問題もありますが、バラマキとセットで)「グリーン・ニューディール政策」を打ち出すアメリカの方が、(足元はひどい状況で、益々悪くなると思いますが)少なくとも、「希望」を持てるように思います。
もう一度しつこく書いておきます・・・
消費が抑えられるのは、足元のお金のある/なし、では無く、将来にわたるキャッシュフローの継続性のある/なし、に依存するのです。
2009年1月28日 板倉雄一郎
PS:
上記のエッセイの内容は、ミヒャエル・エンデやシルビオ・ゲゼルの論のレイヤーの話ではなく、「今の政治」のレイヤーの話ですので、レイヤー違いの突っ込みは止めてねぇ
その辺、僕の持論もありますが、書き出すと、めちゃくちゃ長くなってしまって、印税もいただけないエッセイではちっと・・・(笑)
PS^2:
年率数パーセントのインフレって、要するに「劣化する通貨」という効果があるわけで、したがって消費がされるのですが、デフレって、「通貨価値がいつまでも保たれる」わけですから、経済回んなくなっちゃうんですよね。
グリーンスパンが金利を下げまくった理由もここにあります。
PS^3:
経済価値って、つまるところ企業活動が生み出すんですよ。
だから、今の経済環境にあった事業を生み出すことしか本質的な経済浮揚策は無いんですよ。