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ITAKURA’s EYE 「相場動向と週中の徒然」

<相場動向>

先週末(2008年10月10日~)のG7のアナウンスメント、および、それを受けて各国の「ある程度」具体的な金融危機対策が発表された結果・・・

「金融危機」の最悪のシナリオは回避された・・・といった各種メディアに載ったいわゆる識者の見解にはある程度納得できます。

しかし、政策対応が遅すぎ、既に「金融危機」ではなく、実態「経済危機」に波及していることを考えれば、パニックは避けられたものの、今度は各投資対象の「バリュエーション」に影響が出てくることは必至だと思います。

「トヨタさえPBR1倍割れ!」

などと報道されていますが、そもそもバリュエーション(=企業価値評価)上では、PBR(=株価純資産倍率)とは、「大した重要性の無い一つの指標」に過ぎません。

企業の(投資家から観た)価値は、将来にわたり、「どれほどの投資家に帰属するキャッシュフローを生み出すと予測するか(=事業価値)」および、「事業に無関係に所有する経済価値(=非事業価値)」によって決定されるわけです。

たとえば、将来生み出すであろうキャッシュフローが「ジリ貧だ」と市場が予測すれば、事業価値がマイナスになる恐れもあり、「現在のバランスシートの純資産」がどれほど潤沢にあろうとも、それを事業価値が食いつぶす可能性もあるわけです。

したがって、将来にわたり経済状況が好ましくなく、当該企業のキャッシュフローもしばらくの間「ジリ貧」だと予測されれば、PBR1倍割れも、市場の「合理的な判断」だということになります。

更に言えば、PBRの分子に当たる「純資産」についても、そもそも現在公表されているバランスシート(主に2008年3月末時点)に記載されている純資産が、現時点でも「本当に記載されているほどの経済価値があるのか?」という疑問もあります。

したがって、PBR1倍割れだからといって、必ずしも「割安」というわけではない、ということを十分認識すべきだと思います。

更に、さらに言えば、バリュエーション上、将来キャッシュフローの「割引率」にも相当な変化があると思われます。

「割引率」とは、要するに「(当該企業に対する)投資家の期待収益率」ですが、わかりやすく表現すれば、「(当該企業に対する)投資家のリスク認識」です。

投資家が、「この企業に対する投資はリスクが大きい(=大化けするかもしれないし紙切れになるかもしれない不確実性が高い)」と認識すれば、期待収益率は当然ながら高くなります。

信用の低い人にお金を貸す際に比較的高い金利を設定することがこれに当たります。

株式の場合、有利子負債と違い「金利」という概念が無い代わりに、「より低い株価での投資によって高い利回りを得る」という行動が、有利子負債の「金利増」と同じ効果をもたらしますが、それは即ち、株価下落圧力を意味します。

以上から、実体経済の悪化を前提とすれば、金融危機は避けられ「つつ」あるが、世界的な経済後退を前提にすれば、今後の更なる株価下落の可能性を否定できないのだと思います。

<公的資金注入の本質>

言うまでも無く、お金がどこからか石油のように沸いてくるわけではありません。

公的資金とは、要するにその国で暮らす人々のお金ですから、公的資金注入をルックスルーすれば、「国民全体で(過去にリスクをばら撒き現在の危機を作った張本人である)金融機関を救済保有すること」を意味します。

これ、まさに「人質作戦」です。

公的資金を預かる政治家が、票田を意識し、「公的資金注入などして国民の負担を増やしたくない」と否決したとすれば、その結果金融危機が再燃し、その結果国民の普段の生活にもマイナスの影響が出てしまうわけですから、公的資金を注入することは「やむをえない」ということになるわけです。

では、多額の公的資金注入にはどのようなマイナス面があるのかといえば・・・

その国の通貨価値の下落」ですし、
それはすなわち、将来の「インフレ」を意味しますし、
その対策として、さらに将来の政策金利の上昇という可能性も出てきます。

この辺り、「とにかく金融危機に歯止めを!」ということでほとんど議論されていません。

そもそも・・・

支払い能力の無い人に多額の資金を融資し、
住宅を購入させ、
その住宅の価格がバブルによって高騰することをいいことに、
更なるローンを組ませ、消費させ、
世界経済をバブル化させ、
その崩壊によって生じた経済危機を、

「公的資金の注入で解決!!!」

なんてことが本当にあるのなら、「誰も働かなくても経済は回る」ってことを意味します。

んなこと絶対にあるわけないのです。

長期的には、欧米通貨は、対円に対して安く推移するでしょうし、したがって、輸出主導経済の日本の場合も、輸出国の経済状態の悪化と円高による業績の悪化は必至でしょう。

以上を前提にした、輸出企業のバリュエーションは、「現在の株価水準であろうとも割安とはいえない」という場合が多々あると思います。

<すべての企業がだめなのか>

決してそんなことは無いと思います。
「将来の収入に不安がある 」となれば、人は、現在どれほどの純資産を持っていようとも、現在の支出を抑えようとします。

しかし、いわゆる「生活必需品だけで悶々と我慢する」なんてことは到底不可能です。

何らかの比較的安い「遊び」に支出をシフトする傾向があります。

僕は、「日本が世界でも最もお得意とする遊び分野」に注目しています。
このところの一連のパニックによって、株価もかなり「割安水準」になっています。

そろそろ「次を見据えたロング」のタイミングでもあるようです。
あくまで、「個別企業」の話ですが。

<中川昭一氏はいい>

僕は、衆議院議員・財務大臣の中川昭一氏のことを見た目だけで、「政治より女に興味がありそうなオヤジ」だと思っていました。

しかし、先日(2008年10月13日)のワールドビジネスサテライトの出演を観ていて思いを新たにしました。

「この人、かなりイケテル!」

1、自らのはっきりした政治経済に対する「主張」がある。
2、経済を考えるとき、常に「ルックスルー思考」を持っている。
3、どんな質問にも明確に答える。
4、なにより力強さがある。

そう感じました。

ものすごく期待しています。

結論:「英雄色を好む」(笑・・・僕はこういう人大好きです)

<TX番組の質の向上>

テレビ東京の各種経済番組が、2008年秋の番組編成によって、かなりその質が向上したと思います。

ワールドビジネスサテライトは相変わらず質が高いですが、デイトレーダー向けと思われる「てんでトンチンカンな番組」もその姿を消し、 新たに質の向上した番組に入れ替わりました。
かなり進歩したと思います。

良かったです。

<チャンスは日本にあり!>

日本で生まれ、日本で育ち、日本語を話し、日本円のポーションが高く、日本文化と日本経済に慣れ親しんでいる自分が嬉しいです。

この3年~3年を政治がうまくやってのければ、「日本の時代」が間違いなくやってくると思います。

たとえば、世界の金融の中心が、ロンドンからニューヨークに移転したように、

「次は東京だ」

となりえる「可能性」は十分にあります。
でも、政治が馬鹿だと、日本を吹っ飛ばしてシンガポールとかに取られちゃいます。
地理的にも、ヨーロッパにおけるロンドンのような東京がありますし。
今、一番のチャンスです。

製造業を捨てることはありえません。
しかし、輸出製造業だけでは、常に世界に翻弄されるばかりです。
金融サービスをもっと充実させ、世界の金融センターになりえる戦略を!と思います。

なぜなら、
1、お金たくさんあるし(持っているのはご老人ばかりですが・・・これ将来の相続税という国債返済原資だったりするわけですけれど)
2、勤勉な国民性だし
3、純資産国だし、
4、金融機関は「比較的」傷ついていないし

断っておきますが、以上の「日本論」がすなわち、「今が買いだ!」ということに直結するわけではありませんので、あしからず。

最後までお読みいただきありがとうございました。

2008年10月15日 板倉雄一郎

PS:
2007年に始まった金融ショックは、結果として、「世界が一つ」になっていく良い機会になるかもしれませんね。
同時に、しつこいようですが、日本のチャンスでもあります。





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