板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「本質的価値は何?」

ITによる合理化とは、すなわち、「人減らし」に他なりません。
「機械に出来ることは機械にやらせて、その分人を削減しよう」・・・つまり、

「IT化のための初期投資」+「その後の維持コストの割引現在価値」が、
「IT化によって削減できる人件費の割引現在価値」より小さい場合に、IT化の経済的合理性があるということになります。

加えて、機械にやらせることによって、人が対応する場合に比べ、顧客の利便性が高まり、結果として収入増になるというメリットもあります。

それらは、現実に多くのケースにおいて有効であったがゆえに、IT化は世界で進化しました。

経済全体で観れば、単純作業を行っていた人に対する配分を、IT関連の技術者に対する配分に移行するということになろうかと思います。
(もちろんIT機器の製造などに単純作業が伴いますが、それらは安い単純労働力をもつアジアの国々の方が遥かに優位性が高いでしょう。)

幸い、小さいころからゲームやネットに触れていた若い世代ほどIT関連分野に向いていたがゆえに、IT化によるIT関連労働需要増が若い世代の労働力を吸収することによって、IT化による単純労働需要減が、直ちに失業率の増加には至らなかったのだろうと推測します。

しかし以上は、ITを単なる作業効率アップの道具としてみなしていた90年代のことです。

その後のITとネットは、経済力に依存しない表現メディアとして進化し、情報共有手段としても進化し、人と人が何らかの理由によって出会うためのメディアとしても進化し、そして、「モノや情報を売るためのメディア」としても進化しました。

そこに、Apple iシリーズ、Amazon Kindle、そしてGoogle Androidを搭載した数々のスマートフォン・・・これらのネットの仕組みを利用するための端末の登場。

今起こっていることは、IT化ではなく、ネット化ともいえると思いますが、90年代のIT化時代に起きたことと同じように、「ネット化による人減らし」は、当事者が望もうが望まなかろうが今後益々加速することになるのだろうと予測します。

たとえば出版業界・・・

すでに、ネット化に伴い、著名作家やアーティストによる「出版社飛ばし」が現実になりはじめています。
(↑ それこそネットで調べれば複数のケースを見つけることが出来るはずです)
そして、作家としての僕自身も、同様の動きをはじめています。

すると、これまでの業界構造が変化します。
印刷屋、紙屋、本という物体の流通屋、リアル店舗、新聞などの配達屋・・・これらネット化によって、なくならないまでも需要が大きく減少する仕事に携わる者への配分は、自ずと絞られることになるでしょうし、いわゆる出版社のなかの業務でも、在庫管理や流通との橋渡し業務は、相当減少することになるはずです。

出版業界に限らず、ビデオも、ゲームも、教育も・・・とにかくネット化によって置き換え可能なサービスは、遅かれ早かれ、変化を迫られることになります。

90年代と違い、ネット化によって減少する労働需要を吸収するに十分な新らしい労働需要は、もしかしたら見つからないかも知れません。
否定的に表現すれば、失業率の高まりと富の格差は、ネット化によって益々進むのだろうと予測します。

しかし、今更言うまでもないことですが、社会はその昔から常に変化し続けてきました。
そして、その変化にいち早く乗れたものが生き残り、変化を恐れた者が淘汰されてきました。
社会は変化しても、このことは、今後もなんら変わらないでしょう。

自らが市場変化に合わせて合理的な変化を模索する時、最も大切なことの一つが、これまで稼ぐことが出来た「本質的価値」が何であるかについて、当事者が十分に理解することだと、僕は思います。

つまり、「俺たち何を売ってるんだっけ?」、であり、「俺たちの顧客は何に対してお金を支払っているのだろう?」、ということを掘り下げることです。

すると、何を維持して、何を捨てる(か、または他人に譲る)かが具体的に見えてきて、合理的な変化による進化が可能になるのだと思います。

わかりやすいたとえ話として、新聞社を取り上げれば、その本質的価値は、取材力であり、分析力であり、表現力であることに疑いがありません。
それらの「力」を長期にわたって維持してきたことによる「信頼感」=「ブランド力」こそが彼らの本質的価値です。

間違っても・・・
新聞社の地下に印刷機器があるからといって、印刷力ではありませんし、
販売と配達を行う新聞配達所のネットワークでもありません。
それらは、ネットに置き換え可能なばかりではなく、ネットの方が即時性、検索性が優れているわけですし、数々のケータイ端末の出現によって、もはや携帯性や閲覧性の高さすら持ち合わせてしまったわけですから。

だからこそ、足元のリスクをとって、将来の収益増につなげるための新聞のネット化が現実に起こっているわけですよね。

ネット化によって必要なくなるであろう数々が、全く無くなるわけではありませんが、少なくとも成長分野では無いことは明らかですし、新聞社にとっての本質的価値ではありませんから、投資を抑制するか、他人に譲るか、もしくは捨てるという選択が合理的となります。

さて、ここからが本題ですが・・・

どうやら黒船船団に市場を奪われやしないかと、「日本製」の電子出版規格(と言ったらいいのかなぁ?)がいくつかのところで検討されているようです。

僕は、これらのニュースを見るたびに思います・・・

「えっ!そんなところで勝負するの???ばっかみたい!」

たとえばAppleのシステムでアプリや文章を売った場合、アップルに30%「も!」搾取(?)されることが一つの「日本独自規格」の動機のようですが、それを言ったら、

「あんたらこれまで印刷会社や流通にどれだけ払ってたのよ!」

って言いたくなりますし、さらに、

「おかげで在庫リスクをなくせるじゃない!」

って言いたくなるわけです。

その結果、顧客の支払いは少なくなり、顧客が求める本質的価値を提供するコンテンツホルダーに対する配分の絶対額も増えるわけです。

いやいやそんなことより、もっと大切なのは、

「彼らのおかげで、マーケットが全世界に広がったじゃないか!!!」

っと言いたくなります。
iシリーズだけでも全世界の販売数は何台でしょうか。
今後どれほど増えるでしょうか。

それらの潜在的市場規模は、(言語の問題を除けば)、ヒュージ!!!
(注・日本語を使う人口は決して多くはありませんが、iシリーズに関しては、最初から様々な言語と対応するキーボードがプレインストールされていますから、海外でも日本語環境がすぐに手に入るというメリットもあります。)

そんな機会を作ってくれた会社に対して、30%「しか」払わずにその環境を利用できること、そして彼らに対する配分は、常に「変動費」であること・・・僕はなんて素晴らしいことだろうと思うと当時に・・・

「そんなインフラは、彼らに任せておけばいいじゃないかよ!」

と思うわけです。
そもそも彼らにそのレイヤにおいて勝てるわけないですしね(笑)

そこで考えるべきは、「本質的価値」が何であるかを掘り下げ、その部分を強固にすることに時間や能力やお金をかけるべきなのだと思うわけです。

そりゃやっぱり、コンテンツでしょう。

世界に誇る漫画あるじゃないですか。
ゲームソフトあるじゃないですか。
素晴らしい文章を英語、中国語、ロシア語、スペイン語、フランス語、ドイツ語に翻訳して、彼らのプラットフォームを「利用して」売ればいいじゃないですか。

そもそも日本って、「規格統一化」とか、「プラットフォーム作り」とか、下手なんですから^^

彼らがせっかくリスクをとってくれて、せっかく作ってくれた機会を、「少々の配分を渡す代わりに利用すればよい」だけの話だと僕は思います。

石田純一や郷ひろみに対抗するために、美容整形に通っても意味無いっつーの^^


2010年7月16日 板倉雄一郎


PS:
梅雨明けのようですね^^
毎年恒例の「夏季長期休暇(梅雨明けから8月末まで)」ですが、今年は、特に休暇宣言いたしません^^
ただし、エッセイの執筆頻度を下げます。
(↑ つまり特に予定がないってことに過ぎないのですけれど(笑))

皆様の夏も、素晴らしい体験に満たされた夏になりますように^^


PS^2:
かなり余談ですが、僕の音楽視聴環境について書いてみます。
それは、一つの機器の提案でもあるのですが・・・

僕は自宅に居るとき、当然ながら自宅のオーディオ(←アンプとスピーカ)でiPadによって再生される音楽を聴いています。

最初は、iPadのイヤホンジャックと自宅のオーディオを、一端がステレオミニプラグで、もう一端がRCAジャック(←オーディオに繋ぐ赤と白と、映像がある場合には黄色のジャックがあるアナログのやつ)の長がぁ~いコードで繋いで聴いていたのですが、これだとベッドに寝転んでネットサーフィンしたり、iPad持ちながら隣の部屋に移動したりするときに不便ですよね。

そこで、Bluetoothによってワイアレスで再生できれば便利だよなぁと思い、早速近所の電気屋(といってもヤマダ電気テックランドなど大型店3店)に探しに行ったのですが、都合の良い製品が「無い!」のですよ。

僕が理想とするのは、Bluetooth機器で、ミニプラグや光プラグの音声出力ジャックが付いていて、ACから電源を取れるモノです。

オーディオのRCAジャック(または光ジャック)<=ケーブル=>Bluetooth機器のRCAジャックやステレオミニプラグジャック(または光ジャック)<~BlueTooth電波~>iPad

としたいだけの話なのです。

なんてことないモノなのですが、僕が探した限りでは見当たらないし、電気屋の店員も、「そういうのは無い」っていうわけです。

なので仕方ないから、ミニプラグによってヘッドフォンを交換できるタイプの携帯用Bluetooth機器を買ってきて、ヘッドフォンの代わりに自宅オーディオを繋ぎ、同様の環境を実現しているのですが、どういうわけか携帯Bluetooth機器は、「充電中は電源が切れる」のですよ。
これも僕が調べた限りではすべての製品が同じ。

そんなことだから、充電繰り返さなければならないし、充電中は音楽聴けないし・・・
ACから電源を取ってくれるだけでいいのに、それが無い。
電源を、車のシガーソケットから取れれば、車の中でも同じことが出来るのに、カー用品店に行っても、携帯音楽プレーヤーからFM電波を飛ばしてカーラジオのFMで聴くタイプのものばかり。
いまどき、そんなの音悪いっつーの^^

どこかのメーカーが作ってくれるとうれしい^^
(もしかしたら、僕や電気屋の店員が知らないだけなのかもですが)




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