板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「日本国モデル」

衆議院議員選挙では民主党が圧勝しました。
国民の大部分が、(積極的にであろうが排他的にであろうが、とにかく)民主党に政権交代をして欲しいという意思表示をしたにもかかわらず、「民主党のバラマキ政策って実現難しいのではないか」と今さらながらメディアを通して議論されているようです。
おかしな話だと思います。

議論の焦点は、「足元の配分論(とその財源)」に偏っていると感じます。
確かに、政治が実行する手段は、「税の徴収とその配分」に集約されることは間違いありません。
しかし、その手段の是非を評価する上で、「10年後、20年後の日本がどのような国になっているべきか」、というヴィジョンがなければ、足元で実行する手段・・・つまり配分改革が合理的であるか否かの判断はできないわけです。
ヴィジョンなくして配分を議論すれば、「あっちの分をこっちによこせ」という「配分戦」に陥るだけではないでしょうか。

日本のヴィジョンを考える上で、現状の日本国モデルがどのようなものであるかを認識することは非常に重要です。
このところ問題になっているいくつかの事象のなかで、日本国モデルに起因する最も重要な設問を一つ挙げるとすれば・・・

「2008年金融ショックの影響を、日本が他の先進国に比べ最も大きく蒙るのはなぜか?」

です。

この設問に対するこのところの一般的な答えは・・・

「輸出依存だから」

となっています。
この答え、間違っては居ないのですが、日本国モデルの実態を評価する上では、極めて網羅性に欠ける答えだといわざるを得ません。

「輸出依存だから」という答えから導き出される解決策は、「内需拡大」ということになり、すると、バラマキの強化、更なる金融緩和、子育て支援、福祉充実・・・とまさしく現在掲げられる「票取り文句」が並ぶことになります。

さて本当に、「輸出依存」が、本質的な日本国モデルの問題なのでしょうか。
そもそも「輸出依存」に成らざるを得なかった原因はどこにあるのでしょうか。
といった議論はほとんど聞いたことがありません。
聞いたことありませんが、この設問を突き詰めてゆくことがいわゆる「源流対策」へのアプローチに成り得ると思います。

つまり、「輸出依存」は、根本的な日本国モデルの問題点に起因した「一つの現象」に過ぎず、世界経済の影響を他の先進国に比べ強く受け、そのたびに一喜一憂し、政策がコロコロ変わり、格差が拡大し、国民が将来に対する不安を常に抱えている状況に陥っている「原因」ではない、と主張したいわけです。

日本モデルが輸出依存に成らざるを得なかった原因、それは何度も書いている通り・・・

「様々な物資の自給率の低さ(≒国土が許容する人口以上の人口)」

によるものです。

様々な物資とは、我々が生活するうえで絶対に必要な、(水を含む)食糧、(原油をはじめとする)エネルギー資源、そして様々なモノの原材料となるその他の資源です。

自給率の低さこそ、日本モデルが他の先進国と決定的に異なる要素であり、したがってそれらの資源を諸外国から調達し続けなければ日本モデルの継続性は保証されません。
それらの資源を調達するためには、何らかのモノやサービスを諸外国に輸出し、輸出によって得られた通貨を支払うことによって輸入しなければならないわけです。

かくして、「輸出依存」が日本モデルの「結果」として現れているというわけです。

世間で言われている「輸出依存だから諸外国の経済に日本経済は翻弄される。したがって内需を拡大しなければならない。」なんていう短絡的な発想では、状況は益々「他国依存」に傾くだけです。
なぜなら、自給率が低いままで内需を拡大させれば、様々な資源の消費は増大し、益々諸外国からの資源などの輸入を行わなければならなくなるからです。

つまり、自給率を高めることによってしか、根本的な日本モデルの改革はできず、常に諸外国への依存状態が続き・・・

1、雇用問題・・・輸出依存であるから諸外国の経済状態に国内の(主に製造業の)雇用情勢が翻弄される。
2、資源価格・・・いわずもがな為替や諸外国の資源需要などにより資源価格が翻弄され、しいては物価変動要素となる。
3、内政限界・・・どれほど国内での「配分論」を積み上げても、そもそも輸出によってしかその源泉が得られないのだから限界がある。
4、安全保障・・・資源国との関係を良好に保ったとしても、その資源の輸入経路における様々なリスクが常に付きまとう。

といった現在問題になっている様々な事象の根本的原因が自給率の低さにあるわけです。
逆に言えば、自給率アップというヴィジョンによって、合理的な政策が実行されることになれば、必然的に・・・

「自給率アップを伴う内需拡大」

という道が開けるはずです。

これまた何度も書いていることですが、「自給率アップによる日本モデルの安定性確保」というヴィジョンの下、配分論をはじめとする様々な政策の評価、実現が合理的に推進される「はず」と思うわけです。

第一次産業から第三次産業まで、あらゆる企業や個人において自給率アップにおけるビジネスチャンスが生まれるはずですから、すなわち内需拡大になりえます。
内需拡大が進む中で、諸外国依存が徐々に解かれるわけですから言うこと無し!なわけです。

そして何より、合理的なヴィジョンの提示は、国民が将来に対する希望を持つことができる一つの重要な要素です。
日本(の民間)には、お金が無いわけではありません。
しかし、お金がどれほどあっても、将来の不安は、足元の消費を控えるバイアスになります。
10年後、20年後の日本の未来がどうなるべきであるか、をはっきり示すことが、国民の将来に対する不安を払拭し、長期的視点に立った(消費税増税を含む)配分論に対する理解につながるのではないでしょうか。

現在行われている「ヴィジョンなし、足元の配分論ばかり」では、根本的な日本国モデルの改革にはたどり着けないのではないでしょうか。

 

民主党の圧勝の影には、「民主党のマニフェストに賛成!」という意思表示による票より、「とにかく現状は嫌だ、変化を!」という排他的な票によるものだと感じます。
その原因こそ、「ヴィジョン無き配分論」しか示せなかったことではないかと思います。

 

2009年9月1日 板倉雄一郎

 

PS:
この夏休みは、「風邪引き休み」でした。
ふと思いつき友人を誘い、福島県は裏磐梯桧原湖畔に3泊4日のキャンプ旅行に出かけたのですが、かの地の気候は、昼間30度オーバー、しかし朝方は10度!なんていう一日の寒暖の差が激しく、まんまと鼻風邪を引いてしまったというわけです。
熱が出るわけではなかったのですが、ジュルジュル鼻水と気管支炎のような咳は、あらゆる行動を消極的にさせるのに十分でした。
さらにそれを治療するために医師に処方いただいた抗生物質やら感冒薬やらは、それを服用すること自体が体調を悪くしますから、蒸し暑さも手伝って、結局寝込んでいるばかりでした。

で、夏休みも終わる昨日あたりからようやく体調も回復し、あらゆることに前向きになろうとしているところです。

病は気から、でも、気は健康から。

読者の皆様も、新型インフルエンザの流行っているようですから、体調管理には十分注意してください。
特にこれからの季節の変わり目には要注意ですね。

 

PS^2:
今週末には具体的にお知らせいたしますが、久しぶりに(恐らく1年ぶりぐらい)、オープンセミナーと企業価値評価セミナーを開催することになりました。
オープンセミナーを9月下旬に、企業価値評価セミナーを10月中旬にそれぞれ実施する予定です。
なお、企業価値評価セミナーは、これまでのような合宿形式ではなく、1日コースに短縮し、その代わり講義に該当するDVDを事前配布(既に購入済みの方にはその分をセミナー料金からディスカウント)する形式になります。
ご案内まで、もう少しお待ちください。





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