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ITAKURA’s EYE 「株安?高配当利回り?低PER?」

本日(2008年12月19日)の日本経済新聞の一面トップ記事は・・・

「個人、18年ぶり買い越しへ。高配当、割安感、株安下で積極姿勢」

という見出しの記事があります。
事実として、個人の買い越しはあるのでしょうし、
PER、PBR、配当利回りは、「計算上の事実として」割安といえると思います。

しかし・・・

株安とは一体何に比して「安い」というのでしょうか?

正しくは、「一株あたりの価値に対して株価が安い」場合に初めて、「安い」と表現できるわけですが、この記事によるとその根拠は、前出の通り、「配当利回り」、「PBR」、「PER」あたりの割と簡単に理解できる指標にあるようです。

(記事へ対する批判ではなく、個人の投資に向き合う姿勢に関する疑問です)

1、PER(=Price Earnings Ratio)

株式市場では、「予想PER」を用いる場合が多いのですが、

 PER = Stock Price/EPS

という式からも分かるように、分母であるEPSが今後も「維持されるであろう」と予測するのであれば、「安い」といえると思いますが、本当にそうでしょうか?

2、PBR(=Price Book-value Ratio)

こちらも、「現在の会計基準に基づいたバランス・シート上の資産」を因数にしているわけですが、その資産には、「工場設備」だとか、「在庫」だとか、「事業用・非事業用の不動産」だとか、「貸付金」だとか、「現預金」など、要するにバランスシートの左側のすべてが含まれます。

現預金はともかく、他の資産は、「本当にバランス・シートに載っている程度の価値があるのか」ということを考慮しなければなりません。

現在のように「世界的」かつ「業種を問わず」の業績悪化の中では、多くの場合、「バランス・シートに載っているほどの経済価値が無い」場合が多く、特に、「工場設備」などは、それが稼動して初めて経済価値として認められるわけですが、自動車産業などを見ればわかるように、その稼働率は極めて低い状態です。

上場企業の中には、

 「現預金(←流動性)」>(時価総額-有利子負債)

という状態の企業も確かにあります。
しかし、この企業が「赤字垂れ流しの経営を続ける」とすれば、それは将来にわたり現預金を食い潰すことを意味しますから、この状態でも安易に「割安だ」と判断することはできません。

その上、「時価会計こそ現代の会計基準!」などと世界に強要したアメリカでさえ、自らが時価会計による不都合を感じれば、「時価会計やぁ~めた!」と言い出すほどですから、なおさらブックバリューを信頼できないとなるわけです。

本当に、バランス・シートに記載されているほどの経済価値があるのでしょうか?

3、配当利回り

こちらも1のPER同様、「その(一株あたりの)配当が将来にわたり減少しない」と予測するのであれば、配当利回りも重要な投資基準になりえますが、本当に、これまで続けてきた配当を、今後も継続できるのでしょうか?

つまるところ、株価がその価値に対して安いかどうか?は、「その価値の把握」がどうしても必要ということになります。

株価を担保する株主価値とは、今年や来年「だけ」の業績によるのではなく、現在から遠い将来にわたり、「株主に帰属するキャッシュフローの割引現在価値」が「その大部分を占める」わけですから、今期や来期の業績は、「その先の業績の参考にはなり得ますが」・・・

「単独期の業績を因数にした指標を頼りにすべきではない」

とはっきり申し上げておきます。

 

「ダメダメ、全部ダメ、株式投資なんてするな!」

といいたいわけではありません。

大切な資金(←今となっては非常に大切な円資金)を上手に運用する上で、極めて重要なことですから、しつこく書かせていただきました。

「そんなの難しくてわからない!」という方にお勧めすることがあります。

「だったら自らの運用をすべきではない」

ということです。

消費でも、投資でも、「その価値がわからない対象へ大切な資金を支払うこと」は、極めて馬鹿馬鹿しいことです。

金融危機から始まった世界的な景気後退は、「今始まったばかり」です。

まだまだ、これから実体経済に悪い影響が出てくるわけです。

その点を、「織り込んだ上での妥当な株価」を把握できる者が、自信を持って投資すべきです。

わずか、2つや3つの「指標」を頼りに投資で儲けられるなら、誰も仕事しなくなっちゃいます。そんな簡単なことではないですから。念のため。

以上、個人投資家の皆様のお財布を心配してのエッセイでした。

読者の皆様も良い週末を!

2008年12月19日 板倉雄一郎

PS:
確かに、アジア経済は「比較的」悪くないと思います。
その上、成長余力はたっぷりあります。
けれど、欧米の消費落ち込み分を、アジアが吸収するには時間がかかります。
その点、どうかお忘れなく。

PS^2:
「どうしたらいいのでしょうか?」
という話をよく聞きます。
答えは常に一つ、

「自分で自分の脳みそを鍛えましょう」

それ以外の逃げ道はありません。

PS^3:
「就職できない!」という若い方々へ・・・

「だったら自分で事業を始めたら良いじゃないですか。
 だれもそんなこと考えない時期ですから、逆に言えばチャンスですよ。」

実際僕は、セミナー卒業生と共にいくつかの事業をスタートさせています。
当然、「不況型」のビジネスモデルですが、経済状態に合致したビジネスモデルであれば、どんな経済状況でも事業は行えるわけです。
問題は、「過去の世界のビジネスモデルにしがみついたビジネスモデルではダメ」ってことです。

不況型のビジネスモデルとは、要するに、バランス・シートを大きくしないビジネスモデルのことです。

PS^4:
連日のパーティー、お食事会、デートで、結構疲れています(笑)
けれど、この慌ただしさも、あと10日ほど。

今年いっぱい、ガンガンいきますよぉ~~

 





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