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IR物語 第47回「2008年の株式市場を振り返って」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

いよいよ2008年もあと少しですね。
私のエッセイも年内は今回で最後です。

今年の株式市場は投資家だけでなくIR担当者にとっても大きな変化がありました。

そこで、今回のエッセイでは、IR担当者の視点から今年印象に残ったトピックについて振り返りたいと思います。

【1.インサイダー取引規制】

2008年はインサイダー取引の摘発ラッシュで幕を開けました。
今年の1~4月に発覚した主な事例は下記のとおりです。

印刷会社 : 宝印刷社員を摘発
メディア : 日本放送協会(NHK)記者を摘発
監査法人 : 公認会計士(新日本監査法人)を摘発
証券会社 : 野村證券M&A担当社員を摘発
上場会社 : サンエーインターナショナル(3605)社長を摘発
 
上記のメンバーは株式市場の関係者の中でも特にインサイダー情報を入手しやすい立場です。さも「見せしめ」かのようにこれらを一斉に摘発するあたりに、証券取引等監視委員会の本気度合いを強く感じました。

(余談ですが、インサイダー取引の監視は本当に強化されており、メディアに出ていなくても調査・摘発されている事例は多々ありますので、皆さんもくれぐれもご留意ください。)

また、上場会社が自社株買いを実施する際にインサイダー規制違反を問われるケースも散見されました。

自社株買いがインサイダー規制に該当するかどうかの判断基準にはグレーな部分もあり、多くのIR担当者はこの判断に悩まされたと思います。

【2.投資家の姿勢】

ご存知のとおり、今年の株式市場は過去にないスピードで大幅な下落となりました。

まぁ、IR担当者は株価が上がろうが下がろうが粛々と「足元の状況と将来戦略」を説明するしかないのですが、IR活動を通じて投資家が少なくなっていく&元気がなくなっていくのを肌で感じました。

IR活動をしていて皮肉に感じたのは、機関投資家は事業会社に対して事業を継続させるための内部統制を強く要求する割には、自分達は意外とそうでもないということです。

株式市場が大幅に下落した後にこれまでお付き合いのあった機関投資家に対してIR活動のアポ入れを行った際、「担当者の○○は退職しましたので、IRミーティングは結構です」という返事をいくつか受けました。

通常、事業会社であれば、ある担当者が退職したら別の担当者に仕事を引き継いで業務を継続しますよね?

しかし、機関投資家による銘柄調査は非常に属人的な仕事で、ある銘柄を担当していた方が退職すると、特に引継ぎもなく終了してしまうケースがけっこうあります。

お付き合いのある証券会社の方に話を伺うと、

「あるアナリストが退職後、それまでレーティングを付与してレポートを書いていた銘柄に対するフォローもなく、いきなりレーティングが終了してしまう。」

「ある銘柄に投資をしていたファンドマネージャーが退職後、当該銘柄はフォローされないまま別の担当者によって売却されてしまう。」

といった事例もあるとのこと。

もちろん、きちんと引継ぎがなされているファンドも知っていますし、こうした事例は一部だと思いますが、「他人のお金を預かって運用している割には結構行き当たりばったりだな」という印象を持ったのも事実です。

【3.新規公開と上場廃止】

今年は新規公開(IPO)が大きく減少した一方で、上場廃止が増えた1年でした。

新規公開の件数は、49件(前年121件)、上場廃止の件数は132件(前年97件)ということで、ずっと増加し続けていたストックの上場会社数が今年は減少に転じています。

バブル崩壊の1990年代も、日経平均が7,000円台まで下がった2003年でもストックの上場会社数は増加していたのに、今年から減少に転じるというのは何かひとつの転換点のように感じます。

この要因は大きく下記の3つに集約されます。

1.外部環境による影響(業績悪化・株式市場低迷・J-SOX対応等)
2.企業再編の活発化
3.敢えて上場しない&上場を止める事例の増加

これまでも「1.外部環境による影響」で新規上場の件数が減ったり、上場廃止の件数が増えたりしたことがありましたが、最近は「2および3」の影響が大きいです。

これからは様々な業界で再編が進んで会社数が減るでしょうし、現在の環境下では上場の意義を見出せないと判断する会社が出るのもよくわかります。

(実際、最近、上場会社にMBOを薦める証券会社やファンドの営業が増えていることを肌で感じます。)

2008年はIR担当者にとって「上場の意義」を改めて考えさせられる1年だったと思います。

【最後に】

今年は時代の大きな転換点にあたる年で、来年はその影響が大きく出てくる1年になりそうです。

その変化がどの程度なのか正直なところわかりませんが、今は革命前夜みたいなもので、今後は今までの常識を一度リセットした上で物事を考えた方が良さそうな気がしています。

そう思いつつも、日々の仕事に忙殺されて自分の中でアタマの切り替えが出来ていない面もあるので、この年末年始にじっくり考えてみようと思います。

今年も私のエッセイにお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
皆さんからのご意見・ご感想がとても励みになりました。
また来年もよろしくお願いします!

2008年12月18日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

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