先週の土曜日は久しぶりの企業価値評価セミナーでした。
約50名の受講生(再受講の方を含む)とパートナーの間で、企業価値を算出するプロセスについて活発な質疑応答のやり取りが行われ、非常に楽しいひと時となりました。
ワークショップ対象企業はファーストリテイリング(以下、FR)。
私は今回のセミナーでFRのバリュエーションに関する講義を担当したため、ここ最近、FRについて調査・分析をしていたところ、非常に多くのメディアでFRが取り上げられていることに少し驚きました。
皆さんも、最近、やたらとFR・ユニクロ・柳井社長に関するニュースが目につくと思いませんか?
この背景には、FRの周到なプロモーション戦略があるのです。
【FRのプロモーション戦略】
FRは9・10月の2ヶ月間で積極的な広報活動を仕掛けています。
主な内容は以下のとおりです。
【2009年9月2日】事業戦略説明会を開催 ・世の中全体が不景気の中、足元の業績(2009年8月期)が増収増益見通しであり、数少ない勝ち組ブランドであることをアピール。 ・2020年度売上高目標5兆円をブチ上げ、世界一のアパレル製造小売グループを目指すと宣言。 【2009年9月4日】日経新聞朝刊に業績観測記事が掲載 ・決算発表前に、2009年8月期及び2010年8月期が引き続き増収増益基調であることが日経新聞に掲載される。 【2009年9月8日】ジーユー¥990シリーズ 商品説明会 ・秋冬の¥990シリーズを200種類用意したとの発表。 ジーンズでもネルシャツでもフリースでも990円で買えるそうです。 【2009年10月15日】「成功は一日で捨て去れ」「ユニクロ思考術」同時発売 ・柳井社長自らが執筆・監修した書籍の発売。ユニクロでの悪戦苦闘ぶりがリアルに描かれる。 |
日本経済が元気をなくしている現在、FRは業績好調で数少ない勝ち組として注目を集めやすい状況です。
この環境を利用し、さらに大きな目標をぶち上げることでブランドイメージ及び株式市場での評価向上を狙うあたりがメディア戦略の上手なところですね。
こうしたインパクトのあるプロモーションの上手さというのはFRの強みのひとつなのですが、今回、私がFRを調査・分析する中で「これがFRの本当の強みではないか?」と思ったのは、「失敗した時の軌道修正力」という点でした。それも特に、「経営管理職の登用」についてです。
そこで、ここからは柳井社長の「経営管理職の登用に関する軌道修正力」について論じてみたいと思います。
【経営管理職へのシビアな対応】
「一勝九敗」、「成功は一日で捨て去れ」等の柳井社長の著作では、過去の失敗事例について惜しみなく記載されています。その失敗の内容については、経営管理職の登用に関する失敗にも多くのページを割いています。
FRでは玉塚元一氏への社長交代・更迭のエピソードが有名ですが、玉塚氏以外にも数多くの優秀な人材が経営管理職として起用され、そして数多くの経営管理職が退社しています。
柳井社長は経営管理職の人材に対する要求水準が非常に高く、かつ、あくなき成長志向であることから、方針がかみ合わなかったり、ついていけなかったりで辞める事例も多いようです。
普通は外部からスカウトしてきた人材に対してそこまで厳しいことは言えないものです。しかし、「経営管理職にシビアに対応し、会社の方針にそぐわない経営管理職を退社させている」ことは、実は非常に大事なのではないかと思います。
だいたい、経営が上手くいっていない企業というのは、突き詰めると経営管理職が有効に機能していない企業ではないでしょうか。
それなりの報酬を受取りながらも、厳しい意思決定ができない管理職だとか、現場を見ずに部下へ指示するだけで仕事をしたと思っている管理職だとか、現状分析をするだけで評論家気取りの管理職だとか、こういった管理職の割合が高いほど企業の経営力が弱まります。
実は「派遣切り」よりも、こうした管理職を外していく方が企業にとってよっぽど重要とも言えますが、そこまで徹底した対処ができてない企業の方が多いのではないかと思います。
以下は、柳井社長が2009年新年の抱負として従業員向けに送ったメールの一部抜粋です。管理職に対する厳しい姿勢が伺えます。
我々は残念ながら大企業病にかかっています。 全社員、特に全管理職にお願いします。 打破! サラリーマン体質 打破! 官僚組織 打破! お偉いさん経営 打破! 能書き解説経営 打破! 評論家経営 打破! 分析報告経営 打破! 大会社意識 (以下、省略) 執行役員以下管理職全員を、社員の模範にします。 模範になることでリーダーシップを発揮できない幹部は不要です。 <著作「成功は一日で捨て去れ」より一部抜粋> |
結局、事業というものは、経営管理職が経営者マインドを持って率先して業務に取り組んでいかないと維持・成長できない。
自分も経営管理職のはしくれとしてどうなのか?
今回の調査・研究を通じて、経営管理職のあり方について色々と考えさせられました。
2009年11月4日 S.Yoshihara
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