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IR物語 第54回「新しい決算発表記事のご提案」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

ここ2~3週間で、3月決算企業の決算発表が出そろってきましたね。

予想通り、各企業の前期実績及び今期見通しはほとんどが厳しい数字。
各メディアの決算発表記事に目を通すと、「2ケタ減益」とか「赤字」といった言葉で埋め尽くされており、日本企業はお先真っ暗という印象です。

こうした決算発表記事を読んでいて、私は残念に思いました。

「決算発表記事って、もっと違う書き方もあるといいのに・・・」

というわけで、今回のエッセイは「新しい決算発表記事」のご提案です。

【一般的な決算発表記事の内容】

IR担当の仕事のひとつにメディアの取材対応があり、私も過去に何度となく決算発表に関する記事を書いて頂いたことがあります。

その取材方法は大体パターン化されていて、「損益計算書」の増減要因のヒアリングが中心です。

売上の増減要因は何ですか?
売上原価・販管費の増減要因は?
特別損益の中身は何ですか?

その結果、例えばこんな記事が出来上がります。

セコム純利益65%減

前期 有価証券評価損が影響

セコムが十一日発表した二〇〇九年三月期連結決算は、純利益が前の期比六五%減の二百十五億円。販売用不動産などで評価損を計上したほか、投資有価証券の評価損二百六億円を特別損失に計上したことが響いた。

売上高は一%減の六千七百八十四億円。営業利益は一六%減の八百七十六億円。警備事業は人件費の増加などが影響して三%の営業減益。不動産事業は八十三億円の評価損を計上したことが響き、百六十七億円の営業赤字となった。

一〇年三月期は純利益が前期比二.七倍の五百八十五億円を見込む。

~2009年5月12日付 日本経済新聞朝刊より引用~

みなさんは上記の決算発表記事を読んでどのように感じますか?

私は「損益計算書を中心に記載することの限界」を感じます。

それって、どういうことかというと・・・

今期の決算発表記事は、業績が不振であることを強調したいあまり、やたらと「当期純利益○○%減少」や「赤字」という表現が目立ちます。

その要因の多くは有価証券評価損や減損損失等の「非資金費用の発生」によるものです。ただ、それらについて一生懸命説明しても、企業価値を把握する上で重要なキャッシュフローに関する情報は得られません。

特に、時価主義会計が主流となっている昨今、損益とキャッシュフローの乖離が大きくなっているので、決算発表記事には「損益計算書」だけでなく、「キャッシュフロー計算書」や「貸借対照表」の視点が必要だと思うのです。

【私ならこう書く!~新しい決算発表記事~】

例えば、先ほどの記事。同じ文字数でも私ならこう書きます。

セコム営業CF17%増加

前期 営業減益も資産圧縮

セコムが十一日発表した二〇〇九年三月期連結決算は、営業CFが前期比一七%増の千五十一億円。営業利益は不動産事業の営業損失により一六%減少したものの、売上債権及びたな卸資産の圧縮により営業CFが増加。主力の警備事業は人件費の増加等で三%の営業減益。投資CFは十三%減の五百二十四億円の支出。財務CFは自社株買いを三百億円実施。

一〇年三月期の営業利益は、前期減益の主要因である販売用不動産の価格下落及び評価損等の影響がなくなるため前期比二三%増の千七十五億円を見込む。

~2009年3月期 セコム決算短信より吉原が作成~
(注)文中の「CF」は「キャッシュフロー」の略

 上記の内容と元記事を比較してみていかがでしょうか?

元記事の「セコム純利益65%減」という見出しは、セコムの本業も危ういかのような印象を与えます。

しかし、実は、セコムの2009年3月期営業CFは前期比17%プラス。

本業の警備事業は3%のわずかな営業減益で凌いでいますし、売上債権及びたな卸資産を圧縮して資金回収に努めたことで営業CFを増加させています。また、プラスのフリーキャッシュフローを活用して自社株買いを実施しています。

つまり、セコムは厳しい経営環境の中、将来に向けて打つべき手を打っているわけです。しかし、元記事だと、そういうニュアンスが伝わってきません。

また、元記事では、あっさり「一〇年三月期は純利益が前期比二.七倍」とあたかもV字回復するように記載していますが、これも前期に計上した一時的な損失(非資金費用)がなくなるだけであり、キャッシュフローベースではそんなに大きく増加するわけではありません。

このあたりもきちんと触れた方がセコムの将来CFを測定する上で有益だと思うのです。

【まとめ】

決算発表記事は損益計算書の分析に限定するだけでなく、貸借対照表やキャッシュフロー計算書の視点を入れて欲しい!

日経新聞を中心とした経済紙を読む方は「決算発表が株価(企業価値)にもたらす影響」を知りたがっているのでしょうから、上記のような観点で書いた方が読者も喜ぶと思うんですけどね・・・、皆さんの感想はいかがでしょう?

「前期比大幅減益」や「赤字」とネガティブな表現でひとくくりにされていますが、セコムのように厳しい事業環境の中でも企業価値向上のために打つべき手を打っている企業は存在します。

そうした企業の活動内容が伺えるような決算発表記事を期待しています。

2009年5月14日  S.Yoshihara
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