(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
最近、不動産業界の経営破たんが非常に目立っていますね。
ここ数か月、上場企業の経営破たんだけでも、スルガコーポレーション・ゼファー・アーバンコーポレイション・創建ホームズ・・・と続いており、私がお付き合いしている某大手信用調査機関の担当者は、
「今は、証券コード8000番台の銘柄はどこが破たんしても不思議ではない」
なんて、冗談交じりに話していました。
最近、経営破たんした上場企業は、つい最近まで高成長していた企業が多いです。それが、ある時、一転して経営破たんに陥ってしまう・・・。
そこで、今日のエッセイは、不動産業の栄枯盛衰について取り上げてみたいと思います。
【債権者説明会にて】
先日、ある会社の債権者説明会に債権者として参加する機会がありました。
(債権者説明会とは、民事再生手続の開始決定にあたり、民事再生法を申立てした会社が債権者に対して申立ての経緯の説明・質疑応答を行うための行事です。)
申立代理人である弁護士の一団及び経営陣がひな壇に座って、経営破たんの要因及び経営破たん直前の財政状態を説明します。
それによると、経営破たんの主たる要因は、「売買契約が締結されていた複数の売却予定物件について、買手の資金繰りがつかず、当初予定していた入金がなくなったこと」であり、最近の一連の経営破たんはこのパターンが非常に多いとの説明でした。
また、経営破たんする3か月前に終えたばかりの決算期の貸借対照表及び損益計算書も開示され、損益計算書では十分な利益を稼ぎ出しており、貸借対照表も資産超過の状態でした。
既に各メディアで紹介されていますが、いわゆる「金融機関の貸し渋り」による資金繰り倒産です。
経営陣が無念そうな表情で座っている中、申立代理人である弁護士が上記の説明を淡々と進めていきます。
その時に、私は不動産業の栄枯盛衰をしみじみと感じたのです。
【不動産関連銘柄の栄枯盛衰】
ここ数年、不動産関連の新興企業は個人投資家に大人気の銘柄でした。
不動産業の事業環境が良好だったため、50%や100%の利益成長は当たり前という銘柄がたくさんありました。それに応じて株価も急上昇したので、わずかな期間で非常に高いリターンを得た経験を持つ投資家がたくさんいらっしゃったかと思います。
私事で恐縮ですが、私も2002年頃から不動産関連の新興企業に幾つか投資をしていました。
そして、多数の個人投資家が不動産関連銘柄で儲けた勢いで書籍を出版したり、セミナーを開催し始めた2005年の終わり頃、私は不動産関連銘柄への投資から手を引きました。なぜなら、不動産業に栄枯盛衰はつきものだからです。
不動産関連の新興上場企業は悲しい宿命を負っています。
市場から期待される高い利益成長を維持するには、本業で稼いだキャッシュフローをそのまま次の投資に突っ込んで、より規模の大きい物件の仕込み・開発を続けていかなくてはなりません。もちろん、財務レバレッジを効かせて収益最大化を狙いますから、借入れもどんどん膨らみ、リスクも高まります。
これは、物件が順調に販売できている間は高い利益成長を生みますが、流れが止まった時にはいきなり「資金ショート」しやすいビジネスモデルだと言えます。
まるで、ギリシャ神話の「イカロスの翼」の話のようであり、太陽に近づき過ぎると、いきなり墜落死してしまいます。
また、不動産の開発販売の場合だけでなく、保有賃貸の場合においても、過去における西武グループの事例のように、減価償却費や借入利息を活用した節税を行うために不動産投資を拡大し続けた結果、経営破たんするケースなどもあります。
もちろん、上記のビジネスモデルの特性など、不動産業の経営陣は重々承知しています。それでも、歴史的にマネーゲームは往々にして行き過ぎるものであり、こうした栄枯盛衰が繰り返されています。
投資家としては、不動産業界にはこのようなサイクルがあることを理解しておく必要があると思います。
(もちろん、他の業界にもそれぞれ特有のサイクルがあります)
【まとめ】
企業の将来を予測するためには、財務諸表に記載された過去の業績だけでなく、その業界の事業内容や事業サイクルの特性を理解すると、より精緻(せいち)な予測が可能になります。
また、最近、「レバレッジ」という概念がやたらポジティブに取り上げられていますが、レバレッジのポジティブな面だけでなく、ネガティブな面を正しく理解してお付き合いしないと、思わぬ大ケガを負います。
10月25日・26日に開催予定の第32回合宿セミナーでは、企業価値に影響を及ぼすビジネスモデルのポイントやレバレッジの仕組みについてもビジュアル的にわかりやすくお伝えしています。
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2008年9月11日 S.Yoshihara
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