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IR物語 第60回「またかよ・・・IFRS狂想曲」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

最近、「IFRS」というキーワードがやたらと目につきませんか?

日経新聞や東洋経済・ダイヤモンドなどの経済系メディアでよく特集されていますし、また、私の元にはIFRSセミナーの案内が数多く届いています。

多くの方は既にご存知かと思いますが、改めてご紹介しますと、

「IFRS」とは、「International Financial Reporting Standards」の略

日本語では「国際財務報告基準」なんて訳されることが多いです。
読み方は、「アイファース」・「イファース」・「アイエフアールエス」など様々な読み方が混在している状況です。

(個人的には「アイファース」とか言うと知ったかぶりみたいで恥ずかしいので、「アイエフアールエス」と読んでます)

IFRSは欧州(EU)の国々を中心に世界中で100カ国以上が採用を決めている国際的な財務報告基準であるものの、これまで米国と日本はこの基準から距離を置いていました。

しかし、昨年、米国がIFRSの採用に向けてロードマップ案を打ち出すと、今年の6月に日本でも金融庁(企業会計審議会)からIFRSを採用する方向の中間報告が発表されました。

日本でも2010年3月期から任意適用が開始され、2012年に上場企業等に強制適用するか否かを判断するとのこと。今までの日本の会計基準とはコンセプトが全然違う基準なので導入にあたって大変な準備が必要らしい、とメディアが煽って、現在の騒ぎに至っているわけです。

これまでもJ-SOXの導入で大変だったのに、今度はIFRSかよ・・・。
あぁ・・・なんてうっとうしい・・・。

相次ぐ海外発ルールの強制適用で上場企業の現場担当者から悲鳴が聞こえる中、上場企業の管理部門担当役員のはしくれである私も、仕方がないのでIFRSセミナーに参加したりしています。

そこで、今日のエッセイは、

「IFRSの採用は投資家にどのような影響を与えるか?」


について考えてみたいと思います。

【IFRSが投資家に与える影響】

日本企業がIFRSを採用すると、(1)海外企業との比較が容易になり、かつ、(2)公正価値評価により財務内容の透明性が向上するため、投資家にとってメリットが非常に大きいと言われています。

今までの日本の会計基準は、債権者保護を重視した「会社法」や国や自治体が税金を徴収するための「税法」の影響も受けていました。
一方、IFRSは、そのようなしがらみはなく、あくまで「投資家が欲しい情報」を追求した会計基準なわけです。

ただ、本当に全ての投資家にとってメリットがあるのでしょうか?

個人的には疑問があります。
というのも、IFRSに基づく開示情報は今までより難しくなるからです。

IFRSを前提にすると、収益費用を中心とした考え方から資産負債を中心とした考え方に変化し、時価(公正価値)評価の概念がより一層取り入れられることになります。
この結果、B/S・P/Lの表示概念も大きく変化します。

これらを理解するには、複式簿記の知識だけじゃなくて、割引現在価値を中心としたファイナンスの概念に対する理解が必要になります。
(何しろ未消化の有給残高まで現在価値を計算して負債計上するくらいですから)

結果的に、ファイナンスの知識を有しているプロの投資家(機関投資家等)はこれらの情報を今まで以上に活用できますが、一般の個人投資家は読む気もしないという2極化を生みそうです。

また、IFRSはある意味で企業を金融商品に見立てて、企業側に様々な観点において継続的な時価評価を要求するものであるため、IFRSの採用は各企業の管理部門コスト(業務)増加を招く可能性が高く、企業価値(将来CF)にとってマイナス面もあると思います。

(もっとも開示情報に対する信頼性UP→資本コスト低下という効果があれば、プラス面もあるでしょうけど)

【まとめ】

国際的に会計基準を統一することの意義については自分も理解できますし、IFRSの導入に反対しているわけではありません。

ただ、うまく表現できないのですが、なんだかIFRSってやり過ぎ(投資家のニーズに偏り過ぎ)のような気がします。

個人的には、会計というものはインフラであり多くの人達に理解しやすいものであるべきと思うので、会計が昨今の金融工学のように「一部の賢い人達のみが理解できるもの」になっていくのはどうなのかな~と。

また、企業(経営者)が投資家にとって有益な情報を提供することは非常に重要なことですが、全ての企業に対して常に時価評価を行うことによる業務負担を強いるのはバランスを欠いているのでは?という気がします。

株主資本主義の時代は終わったなんて言う割には、まだまだ投資家の立場は強いですね。世の中全体としてこの流れで良いのかどうかは何とも言えないところです。

PS
最近、身の回りに「過剰」なものが多すぎるように思います。

過剰なサービス、
過剰な労働、
過剰なコンプライアンス、
過剰な会計基準  ・・・ etc

それで「エコ」なんて騒いでいるから意味わかんない。
いろんな「過剰」をやめちゃえば済むような気がするのですが・・・。

PS
IFRSについて勉強したい方には下記の書籍がオススメです。

<ひとまずIFRSをめぐる一連の論点を理解したい方>

週刊東洋経済09年11月21日号
週刊ダイヤモンド別冊09年10月30日号

<上場企業で経理実務を担当される方>

IFRSの経理入門

以上、参考になれば幸いです。

2009年11月26日  S.Yoshihara
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