板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By S.Yoshihara  > IR物語 第6回「IRを活用しよう!実践編」

IR物語 第6回「IRを活用しよう!実践編」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

IR物語第6回は、年内最後のエッセイとなります。
これまでのIR物語では、IRを活用するにあたっての考え方を色々と書いてきましたが、今回はこれまでと趣向を変えて、私が出席した株主総会のレポートを書いてみたいと思います。

言ってみれば、実際にIRを活用した事例紹介ですね。
皆さんがIRを活用する際の参考になれば嬉しいです。

先日、ある会社の株主総会に出席しました。
私は約2年前にこの会社の株主になり、現在まで保有を続けています。
この会社の社名は・・・・・・伏せておきます。
(最後まで読み進めて頂ければ分かると思います(笑))

この会社は、二輪車用のヘルメットの製造・販売を行っている会社です。
私がこの会社の株主になったのは、下記の点に興味を持ったからでした。

1.世界中で受け入れられているブランドであること
2.事業効率と財務の安定性を重視した経営を行っていること
3.株主利益を考慮した資本政策を実施していること
4.1992年に会社更生手続を行いながら再生を果たしていること
5.株主に真っ当な投資家が多いこと
6.事業計画(業績予想)が堅実であること
7.(私が買った時は)株価が割安と感じたこと  ・・・etc

この会社は成熟市場で地道に事業を運営している会社であり、正直、派手さはありません。しかし、上記の点を勘案すると優秀な経営陣が経営しているのではないかという印象を持っていました。

このため、一度この会社の経営陣にお会いしたいという思いの下、株主総会に参加してみたのでした。

それでは、株主総会の模様をご紹介します!

<会場の雰囲気>
株主総会会場である日本教育会館(in神保町)に到着。
会場の案内には「第50期定時株主総会」の文字。
50期生き残った会社なら、あと数十年生き残るかも、と思いつつ入場。

会場はとても質素な雰囲気で普通の貸会議室。
受付や事務局の人数も必要最小限の人数で運営している感じ。
しかし、こうした所で必要以上に見栄を張らない経営者は、正しいコスト意識の経営者だと思う。この会社の利益率の高さに納得。

株主が少しずつ集まってきた。全部で30人ぐらいかな・・・。
昔、信託銀行の方から「株主総会は、普通に招集すると総株主の1%程度しか集まらない。ただし、食べ物等のお土産が付くと参加者が急増する」という話を聞いたのを思い出す。

総株主数が約750名であることを考えると、少し参加者が多いかも。
もちろん、この会社はお土産など用意していない。
それで正解だと思う。株主にヘルメットを配るのはねぇ・・・。

会場にはプロジェクターが設置されていた。
第50期の歴史を持つ会社ともなるとシャンシャン総会なのでは、と思っていたが、少しは株主に説明してくれる雰囲気がありそうだ。

<株主総会 開会>

開始直前に経営陣が入場。
代表取締役社長は柔和な笑みをたたえながら入場。余裕のある雰囲気。
議長である社長の進行により株主総会が開会。

最初の議事進行に関する説明では、議長(社長)は目線を下に落としながらシナリオを棒読み。あれっ、さっきの余裕のある雰囲気と違うじゃん・・・と思っていたが、事業の状況の説明に入ると一変。
プロジェクターを使用して、B/S・P/L等の財務分析をカンペも読まずによどみなく説明。会社に関する財務数値は一通り頭に入っている感じ。
数字に明るくない経営者は将来が明るくないので、ひと安心。

<質問タイム>

事業の状況及び議案に関する説明を終えて、決議に入る前の質問タイム。
議長は株主からの質問を募るが、なぜか誰からも質問が出ない。
えぇ?、せっかくの機会なのにどうして誰も質問しないの・・・?
と思いつつ、手を挙げてみる。

私が用意した質問はふたつ。
1.利益率が毎年上昇している主たる要因及び今後の利益率の見通し
(この会社の売上高経常利益率は、過去5年間において毎年上昇)
「過去5年間の推移:2.2%→7.3%→13.2%→14.2%→18.0%」

2.蓄積されつつあるキャッシュの今後の使途に関する見解

これらの質問に対し、議長は、他の取締役に丸投げすることなく、
懇切丁寧な説明。回答の主な内容は下記のとおり。

「 1.利益率が毎年上昇している要因は大きく2つ。
ひとつ目は、生産効率の向上。
当社はトヨタ生産方式を導入し、継続的なカイゼンに努めている。
生産工程の合理化により、生産効率及び品質の向上が同時に実現。

ふたつ目は、販売単価の値上げによる利幅の増加。
当社は寡占市場であるプレミアムヘルメット市場でNO.1の地位にあるため、価格決定力を有している。

最近伸びている北米市場では、値上げしたにもかかわらず、販売数量が増加。値上げによる利幅の増加が利益率の上昇に貢献。

利益率についてはまだ上昇する余地があると考えており、利益率20%を目指したい。

2.現時点のキャッシュ残高程度は、将来の不確定要因に備えるため必要。しかし、当社は総資産の効率的な活用を重視しているため、「今後の利益の蓄積→キャッシュの増加→資産効率の低下」にならないよう配慮していく。
蓄積されたキャッシュは、設備投資やフル回転で働いている従業員の増員に充てることでさらなる利益獲得を目指す。
M&Aについては、当社の利益率の条件を満たす案件がほとんどないため、無理してまでやろうとは思わない。
本業に投資した上で余剰資金が増加した際には、増配や自社株買いで株主の皆様に還元する。 」

回答の内容はほぼ予想通りながら、値上げによる利幅の増大という話はポジティブな驚き。ブランド力が強いんだな・・・。

この他にも様々な情報を頂いた。サービス精神旺盛な説明ぶり。

議長は他の株主にも質問してもらいたそうな雰囲気だったが、
結局、質問したのは私一人だけ・・・・・・もったいない。

<閉会・・・そして、将来戦略についてのプレゼン>

その後、議案の決議に入り、全て賛成で滞りなく終了。
時間にして約40分で閉会。

しかし、ここで終わらないのがこの会社の面白いところで、
引き続き議長による将来戦略に関するプレゼンがスタート。

今期の見通しについて簡単にコメントするのかなぁ・・・と思っていたら、
市場規模から、海外進出プランから、リスク要因まで、ありとあらゆる項目を説明してくれて、結局、1時間に及ぶ充実のプレゼン。
ふむふむ、今年の業績も期待できそうだ。

プレゼン終了後に、議長の下へ駆け寄って名刺交換。
気さくにご対応頂く中、本日のプレゼンに対する御礼を述べる。
その後、議長が帰りのエレベーター前にて、退場する株主に対してお見送りされている姿が印象に残った。

(全体の感想)

プレゼンについてはさほど期待せずに出かけたのですが、質・量共に充実した内容で驚きました。また、社長のプレゼンを拝聴する中で、企業価値向上のメカニズムを十分に理解されていることが伺えました。

IRのプレゼンには、常に批判的な姿勢でチェックするよう心がけているのですが、今回の社長にはちょっと惚れてしまったかも(笑)

以上、吉原による株主総会レポートでした。
皆さんもIRを活用してみてはいかがでしょうか。オススメです!

なお、今回の会社はエッセイの題材として取り上げたにすぎず、
吉原ひいては板倉雄一郎事務所による売買の推奨ではありませんので、
あしからず!

今日の数字占い 7839

PS 皆さんへの感謝を込めて
今年もあっという間に過ぎ去ってしまいましたねぇ・・・。
皆さんにとって今年はどんな年でしたか?

私にとって2006年は、「板倉雄一郎事務所へのパートナー参加」という新しい経験ができた1年でした。
この活動のおかげでたくさんの方々と知り合い、様々な楽しい経験を分かち合うことができました。
皆さん、今年はありがとうございました!
そして、来年もよろしくお願いします!

2006年12月28日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、2007年1月6日(土)に橋口寛氏が担当します。





エッセイカテゴリ

By S.Yoshiharaインデックス