板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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IR物語 第26回「上場という幻想」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先週末は、今年で3回目を迎える「クリスマスパーティー2007」でした。

板倉さんご紹介のとおり、参加頂いた皆さんのおかげで、大人数のパーティーにもかかわらず、とてもアットホームな雰囲気だったと思います。

クリパ実行委員一同を代表して、ご参加頂いた皆さんに感謝です!
クリパを終えると「今年もあとわずか」という気分が強くなります。
そこで、今年の株式市場を振り返ってみたところ、ひとつのテーマを思いつきました。

というわけで今回のエッセイのテーマは「上場という幻想」です。
今年の株式市場を振り返った時、ふたつのトピックスが目に止まりました。
ひとつは、「新規上場会社数の減少」であり、
もうひとつは、「MBOの増加」です。

新規上場会社数の減少は、上場会社の流入が細ることを表しており、
MBOの増加は、上場会社の流出(非上場化)が増加することを表します。
いずれも、ストックの上場会社数にはマイナスの影響を与える話です。
この現象について、皆さんはどう思いますか?

それぞれの現象の理由については、もっともらしい理由が挙げられます。
まず、「新規上場会社数の減少」は、「新興市場の株価低迷と上場審査の厳格化」が主たる要因であると言われています。

また、「MBOの増加」は、「企業再建や買収防衛策のためのスキームとして実務上定着した」ためであると言われています。

確かにそのとおりだと思いますが、さらに突き詰めて言うと、「上場という幻想が崩れ始めている」のではないかと思うのです。

つまり、「上場は全ての会社にとって望ましいわけではない」ということが一般に認知され始めてきたということではないでしょうか。

そもそも、モノが溢れ、人が有する「情報」や「アイデア」といったソフトノウハウが競争力の源泉となる現在においては、巨額の資金を調達することが成長のカギになるケースは少なくなっています。

また日本の産業の多くは既に成熟産業と化していることから、資金調達の需要はそうそうあるわけではありません。

要するにおカネの力が弱まってきているわけですね。
本来なら、こうした産業構造の変化により、従来に比べて上場の意義が薄れてしかるべきでした。

しかし、2000年以降、多くの新興市場ができて上場のハードルが低くなったことによる「新規上場ラッシュ」は、上場のポジティブな側面のみに着目した多くの新規上場会社を産みました。

その中には、さほど資金を必要としない会社にもかかわらず上場したことによって、不特定多数の株主からの要求により利害関係者間のバランスを崩してしまう事例も多々ありました。

参考エッセイ:KISS第88号「勝てば官軍?

また、真っ当なやり方では株主からの要求に応えられないがために、様々な不祥事を引き起こす事例も散見されました。

こうした背景を踏まえて、最近は、上場・非上場の区分を問わず、上場のメリット・デメリットをきちんと考えて意思決定する経営者の方が増えてきているように思います。

一方、(上場させる側の)取引所は、これまでの反省を踏まえて、上場審査を充実させようとしています。

上場しない方が会社の利害関係者にとって幸せだと思われる会社は上場しない(させない)という流れは、ある意味、「正しい意義に基づいて上場がなされつつある」と言うことができると思います。

上場を目指している経営者や従業員の皆さん、新規上場会社に投資しようと考えている皆さんは、「会社の置かれている状況や将来戦略」と「上場によるメリット・デメリット」を考慮した上で、上場の意義についてじっくりと考えてみることをオススメします。

上場の意義について深く考えたいと思った方は、是非合宿セミナーへ!
DCF法による企業価値評価メカニズムを理解することは、上場の意義を考える上でとても有意義だと思いますよ。

PS
早いもので、私のエッセイも2007年は今回で最後です。
皆さんからのご意見・ご感想がとても励みになりました。
私のエッセイをご覧頂いた読者の皆さん、ありがとうございました!
また来年もよろしくお願いします!

2007年12月18日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!





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