(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
3月決算企業の決算発表がひととおり出てきましたね。
私が注目する決算発表のひとつに日本電産がありました。
(日本電産については、渋谷パートナーのエッセイをご覧下さい)
その日本電産が決算発表した際の記者会見の席で、永守社長の発言をめぐって、一騒ぎがありました。
「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない。」
と、永守社長が発言をしたことがメディアで報じられ、日本労働組合総連合会の会長がその発言を非難し、そして、舛添厚労相は、
「労働関係法令はきちんと遵守してもらわないといけない。きちんと調査し、
指導すべきは指導し、法律にもとるものがあれば厳正に処分する」
と述べたそうです。(詳細はこちらのニュースをご覧下さい)
(この騒ぎに慌てた日本電産側は、速やかに発言の真意を説明したリリースを発表しています。)
あたかも永守社長が「人でなし」のように扱われていますが、実際はどうなのでしょうか?
そこで、このエッセイでは、昨年、日本電産が日立製作所から買収した「日本サーボ」を題材に日本電産の経営手法を分析し、日本電産の経営が従業員に与える影響について論じてみたいと思います。
日本電産が日立製作所から買収する前の日本サーボは、2期連続営業赤字であり、2007年3月期には無配に転落した厳しい状況でした。
しかし、2007年4月に日本電産の傘下に入った途端、2008年3月期の業績は大幅な黒字転換(過去最高益)を達成し、2009年3月期も約30%成長の営業利益を計画しています。もちろん、復配も実現しました。
【日本サーボ 営業利益の推移(単位:百万円)】
まるでドラマのようなV字回復劇ですね。
一体、日本電産は何を行ったのでしょうか?
決算発表時における日本サーボの荒川取締役のコメントを紹介した日経記事では、下記のようにまとめています。
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直接の要因は購買費削減や生産性向上だが「なんと言っても意識改革の成果だ」。整理整頓を徹底、朝の仕事は身の回りの清掃で始め、工場は清潔にする。「ムダを省く取り組みが進み経費も在庫も減った」。
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短期的なV字回復の裏には、往々にして徹底したコスト削減策があります。
日本電産グループも例外ではないようです。
日本電産グループでは、3Q6S(※)という経営理念に基づき、従業員が朝の掃除から始まり、厳しい規律によるハードワークを行うことで有名です。
※「Quality Worker」「Quality Company」「Quality Products」という3Qと、「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「作法」「躾」という6S。
日本サーボの財務諸表や開示資料を拝見すると、その経営理念が具現化されています。
まず、売上債権や棚卸資産を大幅に減少させたと同時に有利子負債を減少させることにより、B/S(貸借対照表)がとてもスリムになっています。
また、役員退職慰労金制度を即座に廃止したり、海外事業拠点の集約や株式事務代行機関の変更等を行うことで、コストの圧縮に努めている様子が窺えます。
永守社長の信条である「企業再建にあたり、人員整理は一切しない!」を守った上で、様々なコスト削減策を打ち出して業績回復を達成する手腕は見事だと思います。
企業再建のノウハウを熟知していますね。
一方、日本サーボの従業員は、おそらく以前と比べて労働時間は増加しているでしょうし、事業効率を高めるために精神的なプレッシャーを受ける場面は増えているであろうことは容易に想像できます。
「仕事はツラくなったけど、会社の業績は回復した」
この場合、従業員はどのように受け止めるべきでしょうか?
ここからは完全に私見ですが、従業員にとって(長期的には)プラス要素の方が大きいと思います。
①個人の価値増加
企業が継続するためには、やはり従業員の間で一定の規律が必要です。
世の中に企業は数多くあれど、そうした規律を維持できている会社は多くありません。そのため、従業員の立場では、規律の厳しい企業は規律の甘い会社に比べてネガティブに評価されがちです。
しかし、裏返すと、規律の厳しい企業での経験は従業員個人の価値増加にとってプラス要因になります。実際、日本電産出身者は、転職市場で非常に評価が高いそうです。
②株主としての分け前増加
また、日本電産のような好業績な企業の場合、従業員は株主の立場にもなることで利益の分け前を増やす手があります。
「投資家」として日本電産による日本サーボTOBを見ると・・・、
平成19年4月に日本電産がTOBした時の株価が260円。そして現在(平成20年5月2日現在)の株価が990円ということで、一年ちょっとで約4倍です。
従業員持ち株会等で自社株を保有している従業員の方々は、「日本電産の傘下に入ってよかったなぁ」と思っているのではないでしょうか。
(ただし、この戦略は買う時の株価が価値に対して高過ぎると痛い目に遭うので、「価値」と「価格」の差に十分ご注意の上、実行ください。)
ちなみに、日本電産の永守社長は、日本サーボをグループ傘下に収める際に、ご自身も3.6%の株式を取得されています。
【まとめ】
仕事にせよ、株式投資にせよ、個人が成果を得るためには、最初におカネや時間を「適切な器」に投入する必要があると思うのです。
一方、従業員にとって一番不幸なのは、みんなで責任を取ることなくのんびり働いて、ジリジリと企業が衰退していくパターンだと思います。
これでは、結果的に将来に向けて投資できていないですからね。
それに比べれば、業績を向上させるノウハウを有している日本電産グループの下で働いた方が従業員にとっても長期的に良いと思うのですが、皆さんのご意見はいかがでしょうか?
(ただし、このタイプの企業で働くことは精神的・肉体的にハードなので、「自分の身体は自分で守る」ノウハウが必要ですが・・・。)
PS^1
しかし、これだけ鮮やかに業績回復されてしまうと、手放した日立グループは立場がないですね・・・(笑)
PS^2
なお、今回のエッセイで取り上げた企業について、板倉雄一郎事務所による売買を推奨するものではありません。
2008年5月13日 S.Yoshihara
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