(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
早いもので5回目を迎えました「IR物語」
ある読者から下記のご質問を頂きました。
(ありがとうございます!)
(ご質問:頂いたメールより一部抜粋)
「IR情報を(就職活動の)企業選びに生かすことは可能でしょうか?
投資先と就職先を選ぶ際の判断基準はイコールではないと思いますが、
ひとつの判断要素として生かせたらと思い、質問させていただきました。」
なるほど、素晴らしいご指摘ですね。
就職先を選ぶ際の判断基準には色々なものがありますね。
給与(福利厚生)とか、労働時間とか、やりがいとか・・・。
そんな中、今回のエッセイではちょっと変わった視点を提供したいと思います。
その視点とは、「従業員に対する利益配分と会社の事業サイクル」です。
私はいろんな会社のIR情報を分析するのが好きなのですが、その時には様々な利害関係者の視点で見るようにしています。
会社は様々な関係者(得意先、株主、従業員等)の利害を調整することで成立していますが、会社によって各関係者に対する利益配分の度合いは異なります。そこで、私は、会社ごとの各関係者に対する利益配分の度合いをチェックしています。
例えば、「この会社は従業員が優遇され過ぎてるなぁ・・・。その分、株主としては参加したくないな」とか、「消費者としてはお付き合いしたいけど、従業員として参加したらひどい目に遭いそうだな・・・」といった感じです。
就職活動で会社選びを行うにあたり大事な要素は、会社の従業員に対する利益配分の度合いを知ることだと思います。
これを知り、自分の価値観に合った会社を選ぶことが、「良い就職」なのではないかと思います。
それでは、「従業員に対する利益配分の度合い」をどうやって知ればよいのでしょうか?
個人的な意見としては、会社の従業員に対する利益配分の度合いに影響を与えるのは、(1)会社の事業サイクル、(2)経営理念、の2つだと思います。
今回のエッセイでは、(1)会社の事業サイクルが「従業員に対する利益配分の度合いに与える影響」に焦点を当ててみたいと思います。
(1)会社の事業サイクルとは、
いわゆる「創業期?成長期?成熟期?衰退期」のサイクルです。
それぞれの会社がどの段階を迎えているかによって、従業員に対する利益配分の度合いは異なります。
それぞれの段階における特徴は下記のとおりです。
1.創業期
創業期の会社は、まずお客様(得意先)に受け入れられなければ会社として存続できないので、お客様に利益をもたらすことを優先します。
このため、従業員にとっては我慢の時期になります。
従業員は、成長期・成熟期の会社に比べて給与や福利厚生等の面で十分な恩恵を受けることはできません。
こうした厳しい状況の中、従業員として参加する方は、「将来大きな会社になることを夢見て参加する方」と「大きな会社に入社できなくて仕方なく参加する方」の2種類になりますが、割合としては後者の方が多いです。
この段階の会社に入社することはリスクが高いですが、うまく成長期・成熟期に進むことができれば、前向きに参加した従業員の多くは会社の中心人物となり、他の段階の会社に比べて長い間、利益を享受することができます。
2.成長期
成長期の会社では、自社のサービスがお客様に受け入れられます。
この段階から、従業員も少しずつ利益を享受できるようになります。
従業員として参加する方は、前向きに参加する方の割合が増えてきて、仕方なく参加する方は居ずらくなり、その割合が低下していきます。
従業員にとって仕事は大変ですが、自社が世間に受け入れられていく過程は楽しく、前向きに仕事に取り組めます。
3.成熟期
成熟期の会社は、創業期・成長期の段階を乗り越えて得意先に支持され続けた段階なので、従業員も安定して利益を享受できるようになります。
従業員の福利厚生も充実することから、安定を求める高学歴な人材が入社する割合が高まり、従業員数がピークを迎えます。
この段階の会社が、就職活動をする人達にとって一番人気のあるカテゴリですよね。ただし、この段階の会社に入社できたからといって、安心はできません。
この段階で、経営陣や従業員が自社のサービスを過信し、得意先への継続的な価値提供を怠ると、衰退期に向かうことになります。
この段階における社内の状況は、内向きで官僚的な論理が強くなり、会社の看板にぶら下がる従業員が増えてきます。
従業員にとって成熟期から衰退期に向かう過程は、過去の従業員の頑張りによるブランドの蓄積に頼り、あらゆる段階の中で一番ラクしてお金をもらっている時期とも言えます。
(だから、衰退期に向かうのですが・・・)
一方で、成熟期が持続する会社もあります。
成熟期が持続する会社は、複数の事業(地域)への進出をうまくコントロールして、会社が衰退期へ向かうのを防ぎます。
成熟期が持続する会社の従業員は、会社のブランドに誇りを持てるものの、絶え間ない革新を要求されるため、勤め続けるのは決してラクではありません。また、せっかく入社できたとしても、複数の事業の中には成長期の事業もあれば、衰退期の事業もあるので、衰退期の事業に配属されてがっかり、なんてこともあります(笑)
4.衰退期
衰退期の会社は、自社の提供するサービスが得意先の求める要求に応えきれなくなるため、従業員に対する利益配分も成熟期に比べて低下していきます。
いわゆる賞与カットがあったり、リストラせざるを得ない段階です。
この段階で経営陣が対応を誤ると、倒産や廃業に向かう可能性が高いのですが、方向転換をうまく果たした会社は、「1.創業期」の段階にもどって、また「2.成長期」・「3.成熟期」を迎えることができます。
多くの従業員が会社から離脱し、労働条件は悪化するので、従業員にとって辛い段階です。
しかし、この段階の会社に敢えて参加し、会社を再生させることができれば、従業員として得られる達成感及び修羅場での経験は、他の段階よりも大きいと言えます。
以上、会社が創業期から衰退期にいたるまでの従業員に対する利益配分の度合いを説明してきました。
就職活動にあたっては、就職を検討している会社がどの段階に位置しているかを考えたり、「自分がどの段階の会社に参加して価値を提供したいか」を考えると面白いと思いますよ。
そして、会社がどの段階にあるかを知るためには、就職活動で得られる情報よりもIRから得られる情報の方が有益です。
有価証券報告書やアニュアルレポートを通じて会社の過去の業績の推移や将来の事業プランを把握したり、株主総会やメディアの記事等で経営者の経営方針を知る機会があれば積極的に情報収集することで、会社がどの段階にいて、どの段階に行こうとしているかがわかります。
就職先を決めることは、人生における時間の使い方に大きな影響を与えるので、細かい条件に左右されずに、大きな流れで考えると面白いのではないかと思います。
皆さんも試してみてはいかがでしょうか?
オススメします!
PS こうした分析は、新卒の方のみならず、現在転職を考えている方にもオススメです。なぜなら、上記の分析は社会経験があると、より精度の高い分析ができるからです。
すでに社会を経験した方は、新卒の方と同じ情報を入手しても、読み取れる情報量が違います。「この会社、キレイごと言ってるけど、従業員として参加すると大変そうだな」とか読み取れてしまうんですね。
なお、当事務所のコミュニティには、あまりにも読み取れてしまうために、
なかなか就職先を決められない仲間がいます(笑)
2006年12月14日 S.Yoshihara
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次回パートナーエッセイは、12月16日(土)に橋口寛氏が担当します。