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IR物語 第0回「アホな株主が企業価値を破壊する」

ある企業(東証一部上場)のIRに以下の質問を、してもらいました。
(「もらいました」というのは、IR担当者があまりにも企業価値に対する理解がない場合が多く、僕が直接電話すると、僕の説教が始まってしまって、全然御話しにならないので、僕に代わってパートナーの一人に問い合わせをお願いしたというわけです。)

僕が依頼した質問は以下の通り・・・

1、「新規事業への投資判断を具体的に教えてくれ」
2、「投資循環サイクル上、御社は成長期であると認識しているが、なぜ配当を行うのか?」
他数項目。

で、以上の二つの質問は、いずれも企業内部による投資循環に関する質問ですが、特に2の質問が重要です。

少なくとも僕の判断では、上記質問にあるように、この企業は成長期にあります。

従って、営業活動上得られたキャッシュフローを、配当によって株主に返還するより、新規事業に再投資することによって、「足元のフリーキャッシュフローを減らしてでも、投資キャッシュフローを増やし、将来のフリーキャッシュフローを増大させる時期」です。

そのほうが、株主にとっての価値、すなわち株主価値が増大し、結果として時価総額が増大するからです。

で、実はこの企業のIR担当者は、上記のようないわゆるファイナンスについて、良くご存知ということ。

しかし!!!!

ファイナンスや企業価値について理解のない一般の「なんちゃって」株主に対し、
「ある程度媚びなければならない」と発言していた、ということです。

あらら・・・

アホな株主が、自ら持っている株主価値の増大の機会を逃し、極めて短期的な「価格変動」に囚われた結果、企業価値は破壊される、の一例です。

以前にも書いたことがありますが、
株式投資で長期に渡って成功するためには、
「真っ当な利害関係者」によって構成される企業に、
資金を持って参加すること、です。
これが最も重要。

で、次に、できれば価格のタイミングを見て、
「一株辺り株主価値 > 株価」であるときに輪に入る。
その上で、当該企業の一利害関係者として当該企業の経営をチェックする。
となるわけです。

自分以外の多くの株主がアホならば、それだけで企業価値ひいては株主価値は破壊されてしまいます。
株主価値の破壊は、すなわち時価総額、つまり株価の下落として表面化します。

「無借金経営が良い」とか、
「配当を行わないのは、すべからく駄目な企業だ」とか、
「配当を行うから、株価が上昇する」とか、
(↑細野何がしかという塾の先生は、これを信じて一般の方に、彼の著書によって伝えちゃってます・・・きっと本人がいつか後悔します。)
「株式分割を行ってくれないと株価が上がらない」とか、
そんなアホが株主が「大多数」を占めている場合は、要注意です。

もし、その企業の株主の大多数(≒議決権の大多数)が、
「未来のことは知らない。今の金が欲しい!」と、
多くの配当を迫る者ばかりだとしたら、
その企業がどうなるか、
皆さん、ちょっとだけでいいから考えてみてください。

話し増幅しますが・・・
ある日突然大株主になり、
「配当せぇ!」と、企業から現金を引き出し、
その人を信じる「わけのわかってない人達」が群がる中で、
「わけのわかってない人」に対し、その人は、
配当によって価値を破壊された株式を高く売りつけ、
その企業を去ってゆく。
なんて奴が居たら、むかつくのは当然だよね。

アホの中に紛れ込んでしまっては、あなたがいくら賢くても価値は創造されません。

当該企業の利害関係者、特に経営者が真っ当であるかどうかは、ファイナンスの知識がなくては判断できません。
サッカー選手を評価するとき、サッカーのルールや戦略を知らずに評価できないのと同じことです。

以上、突然の「IR物語」でした。

(以上の文章は、当該企業が「全くもってダメダメ企業」ということを書いているのではなく、企業のオペレーションと企業価値の関係について読者の皆様にお伝えするためのケースとして取り上げました。
また、この程度の配当・・・5月26日終値ベースで配当利回り0.4%・・・が、企業価値を、「めちゃくちゃ破壊する」というわけではなく、あくまで「成長期の配当はその株主にとって合理的な価値享受にはならない」ということを主張しています。
ちなみに、配当には課税されますが、株価上昇は利益確定しなければ、一切課税されません。)

2006年5月27日 板倉雄一郎

PS:
事情があって、上記企業の社名は明かせません。
実は・・・・

「明日(5月28日)のリアルバリュ会の評価対象企業」なのです!

リアルバリュ会では、当事務所のセミナー卒業生によるチームに加え、
当事務所のパートナーチームも参加します。
が、評価対象企業は、当日「試合(?)」が始まってから公開します。
試合に参加するパートナーももちろん知りません。
評価対象企業を知っているのは、僕と、上記のIR問い合わせをしていただいた一人のパートナーだけです。

で、なぜIRに予め問い合わせたかと言うと・・・
試合(?)中、このパートナーが当該企業のIR担当の代わりを務めるためです。
きっと質問されるであろう質問を、予め当該企業のIRに問い合わせ、
試合中に手を上げて質問していただければ、その返答を、質問したチームにだけ返す、と言うわけです。
だって、試合が「日曜日」ですから、仕方ないのです。

さて、明日、楽しみです!
今日は、早く寝ます(←子供かぁ!)





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