板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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IR物語 第48回「継続のチカラ~SHOEI株主総会レポート~」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
(遅ればせながら)明けましておめでとうございます。

2006年10月から始まったパートナーエッセイもおかげさまで3年目を迎えることができました。これからも皆さんのお役に立てるようなエッセイを提供したいと思いますので、本年もどうかよろしくお願いします。

今年は年初から先行き不安を煽るメディアの報道が多いですね。

株式投資にしても企業経営にしても意思決定が難しい環境ではありますが、こういう時こそ基本的なことを丁寧に取り組んでいこう!ということで、今年最初のエッセイはSHOEI(7839)の株主総会レポートです。
(SHOEIの詳細についてはこちらをご参照ください)

私は、投資対象として魅力的な銘柄を継続的に調査することは投資や経営というものを理解する上で非常に重要だと思います。

SHOEIの株主総会には3年前から出席を続けていますが、今年も非常に有益な内容だったので、皆さんにご紹介したいと思います。
(参考:2007年2006年の株主総会レポート)

【会場の雰囲気】

前年と同様に株主総会の会場は神保町の日本教育会館でした。
参加者は60名から80名くらいか。毎年、参加者が増加しています。

それにしても、こんな環境下でずいぶん集まるなぁと思っていたら、株主数が大きく増加していることに気づきました。
(07/9期 1,392名 → 08/9期 4,012名)

これは機関投資家が売却した株を個人投資家が買ったために増加したもの。

2008年はいわゆる国際優良銘柄の株価が機関投資家の売却により大きく下げた1年でした。機関投資家保有比率が高く、ここ数年で株価が大きく上昇していたSHOEIも例外ではありません。

ただし、皮肉なことにこれで東証1部昇格の株主数要件を満たしました。昨年は株主数が要件を満たせずに東証1部に昇格できなかったですが、今年は東証一部に昇格できそうですね。

【説明の内容】

<ポイント①:今期見通しについて>

何と言っても注目は「金融危機がSHOEIの業績に及ぼす影響」です。

これまで欧州を中心とした海外展開が好調で業績を伸ばしてきたSHOEIも09/9期予想は売上高12,700百万円(前期比15.3%減)、営業利益2,320百万円(前期比35.7%減)と減収減益見通しです。

(クリックすると大きな画像が表示されます)

(単位:百万円)                 (単位:%)

S.Y_048_E0.gif

<SHOEI 連結業績の推移>

売上の半分を欧州市場で稼ぐSHOEIにとって最近の円高・ユーロ安、そして欧州経済の不振はネガティブ要因です。特に、スペイン・イギリス等の主要国の景気がピークアウトしたことにより今期の欧州市場は前期比約26%の減収見込み。これが全社ベースの減収の主たる要因です。

一方、売上の約20%程度を占める米国市場は前期比横ばいの見込みです。
円高・ドル安はネガティブ要因であるものの、最近、米国では「四輪から二輪への乗り換え」が始まっており、二輪ヘルメットの販売数量が増加しているとのこと。米国の消費マインドの変化がこんなところに現れているなんてちょっと意外でした。

また、ロシア・ブラジル・東欧等の新興国市場については引き続き成長する見込みであり将来が楽しみですが、まだ今期の業績全体に大きな影響を与えるほどではなさそうです。

地域別の足元の販売状況や為替レートの前提、為替予約の状況について詳細な説明を受け、「現在公表している業績予想の数値は保守的な数字であり、この水準を大きく下回ることはなさそうだな」という印象を受けました。

<ポイント②:資本政策>

株主からの質疑応答の中に興味深いやり取りがありました。

株主:「御社は配当による株主還元に非常に積極的である。そのことに感謝はしているが、現在の市場環境であれば自社株買いを行った方が効果的なのではないか?」
(SHOEIは、08/9期から配当性向を30%から50%へ引き上げている)

議長:「自社株買いは当然に株主還元の選択肢のひとつとして考えている。過去にもSHOEIは自己株式の取得・消却を実施している。ただし、現在の市場環境は自社株買いを実施するタイミングではないと考えている。今後、市場環境を注視しながら検討したい。」

議長による「現在の市場環境は自社株買いを実施するタイミングではない」というコメントが特に印象的でした。

市場環境がさらに悪化する可能性を意識しているのか、自社株買いのアナウンスメント効果が最大に発揮されるであろうタイミングを計っているのか、いずれにせよ将来的な自社株買いの実施を意識していることが伺えたコメントでした。

【まとめ】

SHOEIの株主総会の魅力は、議長(山田社長)が足元の状況及び将来戦略を十分に説明してくれることです。投資に関する有益な情報入手の場になりますし、経営における意思決定についても非常に勉強になります。

なお、山田前社長は今回の株主総会後に会長に就任したため、来年の議長は新社長である安河内(やすこうち)氏が務めることになります。

SHOEIの経営はどうなるか、また、来年の株主総会はどうなるか?

新任の安河内氏は海外営業を拡大してきた立て役者です。第一印象では芯の強さを感じさせる方とお見受けしましたので期待しています。

正直、今年については、SHOEIのような海外売上高比率が高い銘柄の株価パフォーマンスはあまり期待できないと思います。しかし、一貫した事業戦略で打つべき手を打っていること、新興国を中心に販売網が世界中に広がっていることを考えると、現在の株価は魅力的な水準です。

最後に、現在の事業環境に対する山田元社長のコメントをご紹介したいと思います。

≪SHOEI・山田元社長のコメント一部≫

「現在の事業環境は掛け値なしに厳しい。しかし、当社は過去において、会社更生手続きを経験し、現在と同様の水準の円高や代理店の経営破たんなど相当な苦境を経験している。また、同業他社の経営状態は非常に厳しく、それに比べると当社は非常に健全である。それらを考慮すると、当社は生き残っていけると考えている。」

現在の事業環境の厳しさを直視しつつ、過去の経験に裏打ちされた静かな自信を感じさせるコメントでした。自分も投資家として、経営陣の一員として、もっと様々な経験を積んで現在の事業環境を乗り切っていきたいと思います。

PS
株主総会会場にセミナー受講生のKさんがいらっしゃったので、神保町の「ボンディ」で一緒にランチ。久しぶりにボンディの欧風カレーを堪能しました。とてもオススメのお店なので、皆さんも機会があれば是非!

2009年1月13日  S.Yoshihara
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