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IR物語 第16回「IRを活用しよう!実践編(2)」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先週・今週は3月決算会社の株主総会ラッシュですね。

最近、「株主総会の楽しみ方」というエッセイ(これとこれ)を書きました。

今回はそのエッセイの内容を実践した株主総会レポートをご紹介したいと思います。

昨年末にある会社の株主総会レポートをご紹介した際には、セミナー受講生の方から多数の反響を頂きました。(ありがとうございます!)

今回は、株主総会ご紹介シリーズの第2弾です。

先日、ある会社の株主総会に出席しました。
(社名は伏せますが、最後まで読んで頂ければ分かると思います(笑))
この会社は、鉄鋼建設資材事業、農業資材事業、環境サービス事業を展開しています。

一見、事業の関連性がなさそうですが、いずれの事業も「資源の有効活用と環境の維持・再生」をテーマにした事業である点で共通しています。

まず、事業内容が素直に応援したい内容でした。

そして、資本効率が高い点も好印象でした。
ただし、各事業の成長性はさほど期待できそうにない印象でした・・・。
結局、そんなに成長しなくても前期実績や今期見通しの利益水準(営業利益約40億円)を維持できれば十分割安な株価だと判断し、株主として参加しました。

そして、株主になってからちょうど1年が経過したのですが、
この会社への投資リターンは、正直イマイチなのです・・・。

1年ちょっと保有している間には、新興市場の低迷による連れ安&業績の下方修正で結構下がりました・・・。

そこで追加投資しているうちに新興市場が底打ちしてこの会社の株価も戻り始めたので、ようやくトントンまで持ち直したところなのです。

私はこの会社を割安だと思っているのに、市場はそう思ってくれない・・・。市場が間違っているのか?やはり私が間違っているのか(笑)?

私はこの会社の本業の運営に関しては現経営陣の方針を支持しますが、
「IRと資本政策のやり方次第で株価が見直されるのでは?」と思っています。

そこで、私の思いを伝えるべく株主総会へ参加したのでした。
それでは、株主総会の模様をお伝えします!

<会場の雰囲気>

この会社の株主総会会場はリーガロイヤルホテル東京(in早稲田)。
早稲田駅の最寄出口を出ると、株主総会会場までの道案内の看板を持った若手社員がお出迎え。

会場に到着するまで、3人の若手社員による道案内を受けました。
この会社はジャスダック上場なので地味な感じの総会をイメージしていたのですが、株主総会会場は、一部上場企業の会場のような雰囲気。

事務局スタッフが多数配置されており、会場の脇には、会社の事業説明資料や展示物を配置したり、飲み物を振舞うスペースも用意されていました。
株主に対するおもてなしとしては十分な水準です。

むしろ「株主総会のスタッフ数が多すぎるのでは?」と思いました。
ひとつ驚いたのは、会場に向かう途中に合宿セミナー卒業生のTさんと出会ったことです。目的地は私と同じ株主総会。

以前、この会社を当事務所プレミアクラブのバリュ会で扱ったことがあって、その時に株主になったとのこと。思わぬ援軍で心強い気分に(笑)
会場を見渡すと、総会の出席者は約60名程度(株主数 3,221名)でした。
いよいよ株主総会の開会です。

<株主総会 開会>

議長である代表取締役社長の進行により株主総会が開会。
社長は議長の風格があり、メリハリのある話し方で運営も上手。
報告事項の報告では、パワーポイントを使ったプレゼンを実施してくれたものの、招集通知の文章に基づいた説明で、それ以上の情報は得られず。

<質問タイム>

報告事項の報告が終わったところで質問タイム。
私から事前に用意していた「質問と提案」を発表しました。
まず最初に、2つの質問をしたいことを示した上で、質問を行う前提として、下記の説明をしました。
・ 「循環型社会の実現」をテーマにした御社の事業を応援したい気持ちで株主になったこと。
・ 本業の運営においては、現経営陣の方針を支持していること。
・ その一方で、御社の業績に対して株価は割安だと考えていること。
・ 割安に放置されている主たる要因は、株式市場における認知度の低さだと考えていること。
・ 株式市場における認知度を効果的に向上させるには、やみくもなIRではなく、投資家にプラスの認知を与えるプレス発表が必要であること。

そして、私の質問&提案は下記の2つでした。

(1)今期の業績予想における上半期と下半期のバランスについて
この会社の業績予想は、上半期の営業利益が約40%の減益(前上半期比)を見込んでいるのに対して、下半期の営業利益は約50%の増益(前下半期比)を見込んでおり、通期では前期比トントンとしています。

結果、通期利益に対する下半期利益の割合が非常に大きくなっています。
下半期の業績を達成できるのか不安な部分もあったので、
「上半期減益及び下半期増益の主たる要因を教えて下さい。」という質問をしました。

また、前期は業績を下方修正したことを受けて、「市場の認知度が低い中で下方修正を発表すると投資家からプラスの認知を得ることが大変困難になるので、今後の業績予想は保守的に発表すること」をお願いしました。

(2)資本政策について
1.現在の株価水準では御社の株式は割安だと認識していること
2.自社株買いの発表により投資家にプラスの認知を与えることができること(アナウンスメント効果)から、
自社株買いをやった方が良いと思うのですが、自社株買いについていかがお考えですか?という質問をしました。
上記質問に対して、議長は回答せず、管理担当の常務取締役にスルー。
議長こそ、この質問に答えて欲しかった・・・。
常務取締役の回答は下記のとおり

(1)の回答
「・農業資材事業は上半期より下半期に利益が偏る傾向がある。
・鉄鋼建設資材事業は、下半期にかけてメタルスプレッド(原料スクラップ価格と販売単価の差)が回復するので、下半期から利益も回復する。」
なるほど。
農業資材事業については過去のトレンドも回答のとおりだけど、金額的なインパクトはたいして大きくない。
やはり問題はメタルスプレッドが回復するかどうかにかかっている。
ほぼ想定していた回答だったけど、業績予想達成への自信は伝わってこなかった。下方修正しなきゃいいけど・・・。

(2)の回答
「現在、当社は発行済株式総数が少なく、株式の流動性は低い状況にある。
その中で、自社株買いを行うとさらに流動性を低下させる結果になるので、現在のところ自社株買いを考えていない。」
なるほど。一見、もっともらしい回答ですね。
しかし、私はこの回答を受けて、思わず議長の許可も得ずに(笑)
下記のように返答してしまいました。
「御社株式の流動性が低いのは発行済株式総数が少ないからではない。
御社の発行済株式総数や浮動株比率の水準と同程度の会社でも、御社より出来高が多い会社はたくさんある。その違いは、市場における認知度だ。

自社株買いにより市場の流通株式数は確かに減少するが、自社株買い発表→市場の認知度向上による出来高増というプラス面もあると思う。」
(↑の文章は発言を要約しているためとても生意気な感じですが、
実際はもっとソフトに語りかけています(笑))
もっと言えば、流動性なんてそんなに気にする必要ないのに・・・。
私は流動性にあまりプレミアムを感じず、むしろそのリスクを取って高いリターンを目指すタイプの投資家なので、なおさらそう感じました。
(この点は、人によって異論があるとは思いますが・・・)

常務取締役は上記の返答に対し、
「貴重なご意見ありがとうございます。参考にさせて頂きます。」
という模範的な回答で質疑応答が終了。
あんまり採用されそうにないなぁ・・・。
結局、質問者は私を含めて2名でした。
その後、議案の採決については、特に波乱もなく全て可決。
総会の所要時間は1時間10分でした。
総会終了後に経営陣とごあいさつできる雰囲気もなく、経営陣の皆様はそそくさと退場されました。

(全体の感想)

株主総会は、運営マニュアルを忠実に守ったソツのない運営がなされており、すごくまじめな社風であることが伺えました。

新興市場銘柄の信頼性が問われる中、その面では良いと思いました。
ただ、株主に対して「当社のことをわかりやすく説明して、双方向のコミュニケーションをしよう」という工夫はあまり感じられなかったのが、少し残念でした。

とはいえ、株主総会に出席することでこの会社の様々な面を理解できたので、有意義な時間でした。
私はこの会社のIR(業績)と資本政策に注目しながら、引き続き応援しようと思います。
(注)今回の会社はエッセイの題材として取り上げたに過ぎず、吉原ひいては板倉雄一郎事務所による売買の推奨ではありません。あしからず!
今日の数字占い 5456

PS
終わってみると、これまた合宿セミナー卒業生のSさん・S嬢に遭遇!
Tさんと同じ理由でこの会社の株主になったとのこと。

何の打ち合わせもしていないのにこんなところで3人も出会ってしまうところに、このコミュニティの奥深さを感じました。

総会後、同士意識が芽生えた4人でお茶飲んで帰りました(笑)

2007年6月26日  S.Yoshihara

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