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IR物語 第9回「業績の予想と修正」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

ここ最近は3月決算企業の第3四半期決算発表シーズンでしたね。
第3四半期になると通期業績もだいたい見通しがついてきて、
様々な会社が業績予想の修正を発表していました。

今日のエッセイは、
IR業務の悩ましいテーマ「業績の予想と修正」について、
皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

「業績の予想と修正」って何?という方もいらっしゃると思うので、
簡単にご説明しますね。

現在、ほとんどの上場会社は、本決算発表時に「決算短信」という資料を通じて当期の業績予想を発表しています。

例えば、3月末を決算期末とする多くの会社は、4月の下旬から5月の中旬にかけて今期の業績予想(売上高、経常利益、当期純利益、1株当たり当期純利益)を発表します。

その後、第1四半期、第2四半期と時間が経過するにつれて、
期初の業績予想に対して実際の業績が少しずつ明らかになります。

そこで、期初の業績予想と実際の業績に大きな乖離が生じることが明らかになった段階で、会社側は期初の業績予想を修正して発表しなければなりません。
これが、メディアで取り上げられる「上方・下方修正」ですね。

この「業績予想の発表と修正」は、
株価に大きな影響を与えることが多々あります。
企業価値評価の2大変数である「将来キャッシュフロー」と「加重平均資本コスト(WACC)」に影響を及ぼすからです。

投資家は、会社発表の業績予想を参考に将来業績予測を行うので、
会社側がどの程度の将来業績を見込んでいるかは重要な要素ですし、
その予想の精度によっては、「会社の信頼」ひいては「株主資本コスト」にも影響を及ぼしますよね。

このため、上場会社は「業績の予想と修正」発表に神経を使います。
最高なのは、予想と実際の業績がピッタリ一致することですが、
自社のことだからといって将来を完全に見通すことはできないので、
思いがけぬ上方修正もあれば、下方修正もあります。

こうした中、「業績の予想と修正」のスタンスは会社によって異なります。
大きく二つに分類すると、
「保守的な予想を発表して、上方修正を目指す会社」がある一方で、
「下方修正を恐れずに挑戦的な業績予想を掲げる会社」があります。

前者を表す例として、先日、日経新聞で大手企業の今期業績見通しに関する記事にこんな表現がありました。

『鉄鋼業界は控えめの業績予想を三月に一斉に上方修正するのが半ば慣例。「下方修正による株価下落は避けたい」(大手鉄鋼首脳)のが本音だ。』

大手鉄鋼首脳って誰だよ?というツッコミは別にして、
これは「保守的予想・上方修正派」の典型的なパターンですね。

なるべく下方修正を避けることで、投資家から業績予想に対する信頼を得ようとする姿勢が伺えます。

一方、後者の例としては、先日、日産自動車が通期業績予想の下方修正を発表しました。

カルロス・ゴーン社長が指揮を執って以来、「日産リバイバルプラン」や「日産180」で掲げた挑戦的な目標をことごとく達成してきた日産自動車の下方修正とあって、メディアも大きく取り上げましたし、株価にも大きな影響を与えましたね。

もっとも、後者の例として日産自動車は素晴らしい方で、華々しい業績予想を掲げながら、毎年懲りずに下方修正する会社もあったりします。
(これについては、具体例を挙げませんが・・・)

このように、「業績の予想と修正」のスタンスは会社によって様々です。
これはどちらが良い・悪いというものではなく、「社風」のようなものです。(投資家によって好みは分かれるかもしれませんが・・・)

そして、この「社風」を理解することは、
会社を理解する上で重要な要素のひとつだと思います。
会社(経営者)の姿勢が保守的なのかor挑戦的なのか、
約束を果たす会社なのかor口だけで結果が伴わない会社なのか
事業計画を適切に立案できる会社なのかor立案できない会社なのか
などなど・・・

それでは、会社ごとの「社風」を見分けるためには何に着目すればよいでしょうか?



は、






す。(これをやってみたかったんです(笑))

私が考える一番大事なことは、
「過去の業績の予想数値と実績値の比較をすること」だと思います。

過去の実績からその会社の社風を知る。「温故知新」ですね。
参照エッセイ:KISS第83号「将来業績予測(その1)」

過去に下方修正ばかり繰り返している会社であれば、そもそも計画の立て方に問題のある会社であり、将来にわたって発表される予想数値も他社に比べて信頼度が落ちると言えます。
一方、地味な業績予想でも着実にクリアしている会社であれば、公表された予想数値は一定の信頼を置くことができますよね。

ちなみに、投資家にとって最高なのは、
「挑戦的な目標を掲げ、かつ、それを着実にクリアしている会社」ですが、それは簡単なことではなく、そんな会社はごくわずかです。
挑戦的な目標を掲げる会社には、粉飾してまでクリアしようとする会社もあるので、気をつけて下さいね・・・。

皆さんも自分が株主や従業員として参加している会社の業績予想と修正の傾向を確かめてみてはいかがですか?
その会社の社風が理解できて面白いですよ!

PS 
今回、こんなテーマを取り上げたのは、
私がIRを担当する会社がもうすぐ決算発表を控えているからです・・・。

以上、業績予想の開示に悩むIR担当者のひとり言でした(笑)

2007年2月22日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、2月24日(土)に橋口寛氏が担当します。

IR物語 第8回「公開授業に参加しました!」





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