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IR物語 第28回「バリュートラップに気をつけろ!」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

ここ1~2ヶ月で、日本株がだいぶ下がりましたね。
PBR1倍割れの銘柄がゴロゴロしています。

ちなみに、Bloombergで集計したところ、集計可能な3,963社の上場会社のうち、PBR1倍割れの銘柄は2,260社。割合にして57.0%でした。
2社に1社はPBR1倍割れですね。(2008年2月4日現在の株価で集計)

PBR1倍割れということは、「(会計上の)解散価値>時価」ということです。
一般的には、「PBR1倍は株価の下限」なんて言われることがあります。
メディアのコメントでも良く出てきますね。

ということは、これは価格が下げ過ぎであり、「割安」なのでしょうか?
これらの株式には自信を持って投資すべきなのでしょうか?

こんな前振りをした以上、「そうとは限らない」というオチだとお察しかと思いますが、そのとおりです(笑)

というわけで、今回のエッセイのテーマは「バリュートラップ」です。

「バリュートラップ」とは、
「割安に見えるものの、その株価が適正である」株式に投資してしまうことで、思うようにリターンが上がらない状況を表します。
「万年割安に見える株式」を「バリュートラップ」と指すこともあります。

読者の皆さんの中にも、「この株式を割安だと思って投資したけど、全然上がらない(下がっている)・・・」という経験はありませんか?
それはバリュートラップに陥っている可能性があります。
(単に企業価値評価を誤った可能性もありますが・・・)

これはプロである機関投資家でも陥ってしまうことのある罠です。
あるファンドの運用方針には、下記のように記載されていました。

「運用チームは、綿密なファンダメンタル・リサーチを通じ、株主資本に毀損が無いこと、潜在的収益力が維持・向上されること、割安背景の修正可能性を確認することにより、バリュートラップを排除し、割安株価の修正が予想される銘柄の発掘を行っています。」

「バリュートラップ」に陥らないことを強く意識した内容ですね。

さて、機関投資家も恐れるバリュートラップに陥らないためにはどうすればよいか?

そのためには、バリュートラップに陥るパターンを理解し、その可能性を持つ銘柄に極力近づかないことが大事です。

バリュートラップに陥る銘柄は、何かしらの問題を抱えています。
主な問題点として、「1.収益性」、「2.ガバナンス」、「3.IR」、「4.流動性」が挙げられます。

1.収益性

将来業績の見通しが暗くて、時間経過と共に株主価値を毀損してしまう会社の場合ですね。せっかく、株主価値>時価でも、時間経過と共にその裁定余地が小さくなっていくわけです。

2.ガバナンス

この点で嫌われるよくあるパターンは、上場子会社ですね。
大株主に50%超の支配権を有する上場会社がある場合です。
親会社以外の株主にとっては、自分達の利益がないがしろにされる可能性が高いので、投資対象として魅力が薄いということですね。

3.IR

経営陣がIRに積極的でない(IRを理解していない)場合、会社の魅力が投資家に伝わらず万年割安になりがちです。ファイナンス的に言えば、WACCが低減されないがゆえに企業価値が上がらないということですね。
個人的には、大株主の一覧に機関投資家が入っていない銘柄には投資したくありません。それは、価値に着目して投資する機関投資家に対してIRをほとんどやっていないということだからです。
(もしくは、IRしても興味を持ってもらえない)。

4.流動性

流動性が低い銘柄は、特に大口の資金を運用する投資家から敬遠されるので万年割安になりがちです。
先ほどのBloombergによる検証でも、流動性が低い市場の銘柄はPBR1倍割れ比率が高いです。
(例:東証2部 71%、大証2部 75%、名証2部 88% → いずれも全体平均より上です。)

結局、バリュートラップに陥らないためには、
「収益性がよく、ガバナンス・IRがしっかりしていて、流動性の高い銘柄」、
要は、真っ当な経営をしている優良銘柄を買うべきということです。

ただ、この結論だけではミもフタもないので、もうひとつ。

上記のいずれかの要因でバリュートラップに陥っている銘柄でも、その要因が解消された場合には株価が上昇します。
つまり、割安要因の解消に注目して投資することで、高いパフォーマンスを狙うことができます。

アクティブファンドは個別企業を調査することで、こうした要素を探しているわけです。
例えば、「経営者の交代や新規事業の立ち上げにより、収益性の大幅な改善が見込める場合」や「これまでIRに消極的で投資家からの認知度が低かった会社が、急にIRに力を入れ始めた場合」などです。

投資家にとってピンチでもあり、チャンスでもあるバリュートラップ。
皆さんもご自身で投資している銘柄がバリュートラップに陥っていないかどうか、確かめてみてはいかがでしょうか?

実は、私もバリュートラップにハマっている銘柄を保有しています。
保有現金(同等物)だけで時価総額を上回っているのに、株価が上がるどころか下がってるし。
ハマっている要因も理解しており、自分の見立てが甘かったです・・・。

というわけで、今日のエッセイは自戒を込めたエッセイでした。

PS^1
なお、「バリュートラップ」は、個別企業に関する論点とは限りません。
日本の政治や株式市場が世界標準と比べて異質だと判断された場合、外国人投資家が日本株全てを「バリュートラップ」とみなすおそれがあります。

そうなった時には・・・

真っ当な経営によって世界に貢献している会社の株式を日本人でガンガン買いましょう!
いつまでたっても使われない1,500兆円の個人金融資産があるわけだし。
その場合の割安要因はいずれ解消されると思うんですけどねぇ・・・。
参照エッセイ:ITAKURASTYLE 「日本人が買えばイインダヨ!」

PS^2
ちょっとだけ宣伝させてください。
「エクセルで学ぶ会計基礎入門」DVD」が発売になりました!

板倉さんの協力の下、私と大橋さんで作成したDVDなのでよかったら是非!
これから会計を勉強しようと思っている方、また、会計を勉強しているけどイマイチしっくりこない方にオススメです。

2008年2月7日  S.Yoshihara
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