(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
先週末に、当事務所のパートナー及びセミナー受講生の方とスカイプの音声会議を利用してディスカッションを行いました。
話題の中心は、やはり世界経済や株式市場の動向についてです。
世界経済が復調するのはいつ頃なのか、世界における日本の位置付け、さらには戦争の可能性まで様々な論点について興味深いディスカッションでした。
最近の板倉さんのエッセイと同様、私も実体経済は今後さらに悪化するという立場です。この現実は直視すべきであり、今後起こりうるあらゆる環境変化に対して覚悟を決めた方が良いと思っています。
その一方で、個人的には株式投資に対する調査熱が非常に高まっています。
いわゆる「人の行く裏に道あり、花の山」ってやつです。
株式市場はみんなが実体経済は相当悪いと感じた頃には底打ちしている場合が多く、みんなが総悲観になった時に投資しないと大きなリターンは望めないですからね。
【自社株買いに注目】
そうした中、これまでも当事務所のエッセイで再三取り上げてきましたが、最近、今まで以上に自社株買いに注目しています。
その理由は、この時期に自社株買いを積極的に推進している企業は、財務体質が良好であり、株主還元に前向きであるということ。
そして、この先行き不透明な経営環境の中で、少なくとも経営陣は現在の株価よりも自社株式の価値は高いという自信を持っていることの表れだからです。
(それが正しいかどうかは時間が経過しなければわかりませんが・・・)
現在の株価下落局面において自社株買いは増加しています。
ちなみに、08年10月度の自己株式取得(単元数)ランキングTOP10は下記のとおりです。(参照:東京証券取引所 マーケット情報)
(クリックすると大きな画像が表示されます)
上記の中には、自社株買いが株価の下支えとなり、10月以降堅調な値動きを示している銘柄が少なくありません。
ただし、株価へのインパクトという意味では、上記のランキングも違った角度から検証する必要があります。上記のランキングは企業規模が加味されていませんからね。
そこで企業規模を加味して上記のランキングを再検証してみました。
(クリックすると大きな画像が表示されます)
出来高割合・・・月間出来高に対する自己株式取得株数の割合
発行済株数割合・・・発行済株式総数に対する自己株式取得株数の割合
このランキングで見ると、リソー教育(4714)はすごい勢いで自己株式を取得していることがわかります。
この猛烈な取得の背景には、10月より実施された金融庁による自社株買いの規制緩和措置があります。
実は私が役員を務めているベンチャー企業でも自社株買いを実施しており、この緩和措置の効果を実感しています。
通常の自社株買い(市場買付け)では取得株数が直近4週間の1日平均の売買単位の25%までと制限されており、株価が安いと感じてもなかなか機動的に買い付けることができませんでした。
しかし、今回の緩和措置により一日の取得可能株数が原則として約4倍に増加するので、自社株をより機動的に買い付けることができるようになったのです。
武田薬品やキヤノンのような時価総額が非常に大きい企業にとっては1日でそこまで取得することもないのであまり意味はありませんが、時価総額がさほど大きくない企業にとっては影響が大きいわけです。
この規制緩和により拡大した取得枠を各企業がどのように活用しているのかについては、EDINETの自己株券買付状況報告書で確認することができます。
リソー教育の自己株券買付状況報告書をチェックすると、規制が緩和されて以降、日によっては出来高の43%は自己株式取得による買いという日もありました。
気になってリソー教育をざっくり調べてみたところ、個人的にはそんなに割安という印象は受けなかったのですが・・・。
ただ、一方で配当については減配を実施しているので、株主還元の方法を変えたようです。これはこれで一つの考え方としてはアリだと思います。
【まとめ】
上記のとおり、現在の市場環境において、自己株式の取得は投資対象を選別する上で重要な要素のひとつだと思います。
また、開示情報を活用すれば、自己株式の取得状況、自己株取得による株価への影響度合い、各企業の株主還元策への考え方を理解することができます。
板倉さんのエッセイにもありましたが、今回の金融危機は日本企業にとって考えようによってはチャンスだと思います。
現在の状況下でも、日本には現預金を潤沢に保有している優良企業がたくさんあります。そして、このタイミングで自社株買いやM&Aに現金を活用しようとしている会社もあります。
ここでおカネを賢く使えば、世界における日本企業の存在感は一段と高まると思うのです。
私は、現在のような厳しい経営環境においても、将来に前向きな気持ちを持っておカネを賢く使える会社を探して応援したいと思います。
2008年12月4日 S.Yoshihara
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