(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
最近、3月決算企業による第3四半期決算の発表が出てきましたね。
金融危機の実体経済への影響度合いが少しずつ明らかになってきました。
昨年の10月頃、世界的な金融危機により株式市場が大きく下落したのを受けて、私は「今、あえてバリュエーション」というエッセイを書き、気になる銘柄として任天堂とファナックを取り上げました。
あの時から、まだ3ヶ月しか経っていません。
しかし、外部環境の変化は非常に大きく、任天堂もファナックも今回の第3四半期決算発表にて、08年10月末に公表した通期業績見通しを下方修正しました。
業績予測の前提が変化した際には、バリュエーションの見直しが必要。というわけで、今回のエッセイでは、両社のうちファナックのバリュエーションを再検証してみようと思います。
(このエッセイが好評であれば、次回、任天堂も再検証します)
【ファナック バリュの見直し】
中間決算時に続いて今期2度目となった通期(09年3月期)見通しの下方修正の内容は下記のとおりです。
単位:百万円 | 前回予想 08/10/28 |
今回予想 09/1/27 |
修正率 | 前期実績 |
売上高 | 420,400 | 388,400 | △7.6% | 468,399 |
営業利益 | 153,800 | 132,300 | △14.0% | 189,564 |
下方修正とはなりましたが、最近話題の自動車業界の業績修正に比べるといくらかマシな方で、引き続き30%以上の営業利益率を維持する見込みです。
これだけ見ると「ファナックの傷は浅い」感じがします。しかし、四半期ごとの業績を分析すると楽観できる内容ではありません。
今回発表された通期業績見通しから逆算すると、第4四半期の業績は下記のとおり売上・営業利益ともに急減すると見込んでいることがわかります。
(クリックすると大きな画像が表示されます)
<2009年3月期 四半期別業績の推移>
ファナックが開示している四半期ごとの受注売上金額(単体)は今回の第3四半期も大きく低下しており、上記の見込みが保守的過ぎるというわけではなさそうです。
(クリックすると大きな画像が表示されます)
<単体 受注売上金額 四半期別推移>
足元の受注については、稲葉善治社長が「かつて経験したことがない状況。10月以降、(世界の)ほとんどの地域で非常に速いスピードで需要が激減している。」とコメントしています。
この受注残高の推移を考えると、今後の業績推移は私が前回のエッセイで想定した業績よりもさらに下ブレで考える必要がありそうです。
そこで、私が想定した将来業績は下記のとおりです。
(クリックすると大きな画像が表示されます)
2010年3月期も大幅減益が続き、11年3月期以降から緩やかに業績回復するシナリオです。11年3月期以降から回復するとしたのは、
「そろそろ底だろうと思っている。自動車は厳しいが、建設機械やエネルギー関連で商談が動き出している」という稲葉善治社長のコメントを加味したものです。
上記の将来業績予測の修正をバリュエーションに反映させたところ、下記の結果となりました。
(理論)株主価値:1,205,158百万円 |
(※)09年2月6日終値 5,980円
(参考)バリュエーションの前提条件
項目 | 修正シナリオ |
1株当たり理論価値(①÷②) | 5,799 円 |
① 株主価値(③+④-⑤-⑥) | 1,205,158 百万円 |
② 発行済株式総数(自己株式控除後) | 207,809 千株 |
③ 事業価値 | 600,323 百万円 |
④ 非事業価値 | 638,042 百万円 |
⑤ 債権者価値 | - 百万円 |
⑥ 少数株主持分 | 33,207 百万円 |
WACC (有利子負債なしのため、WACC = ke(株主資本コスト) |
10.0% |
WACC 長期成長率(注) |
1.0% |
【まとめ】
国際優良銘柄のメーカーの中では比較的傷が浅いと評価されていたファナックでさえも、第4Q以降の業績が大きく落ち込むことが予想されます。
2010年3月期(特に上半期)は大幅減益になることが予想され、場合によっては今回私が算定した将来業績予測よりもさらに下ブレする可能性もあります。その意味で、まだ底が見えていません。
当面は企業価値を測定するのが難しい状況が続きそうです。
ファナックに限らず他の銘柄も底が見えていない中で、最近の日経平均株価が8,000円前後で落ち着いているのが不思議です。
昨今の下方修正ラッシュを考慮すると決して割安とは言い難くなってきたと思うので、どこかでまた大幅な下落が来そうな予感がします・・・。
(注)今回のエッセイで取り上げた企業について、板倉雄一郎事務所による売買を推奨するものではありません。
2009年2月10日 S.Yoshihara
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