(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。
最近、アメリカ及び日本の株価がまた下がり始めてきましたね。
⇒ NYダウが大幅続落、11年9カ月ぶりの安値
⇒ 東京株式市場・前場=続落、TOPIXはバブル後最安値を更新
これが「夜明け前の一番暗い」時期で底値が近づいているのか。それとも、まだまだ下がる途中経過にあるのか、私には何とも言えません。
ただ、こういう時こそ投資を考える時期ということで、今回のエッセイは前回に引き続き、第3四半期の決算発表を受け、バリュエーションを見直してみたいと思います。
今回、取り上げる銘柄は、任天堂株式会社(7974)です。
【任天堂バリュの見直し】
今年の1月末に任天堂が発表した通期(09年3月期)見通しの下方修正の内容は下記のとおりです。
(単位:百万円) | 前回予想 08/10/30 |
今回予想 09/1/29 |
修正率 | 前期実績 |
売上高 | 2,000,000 | 1,820,000 | △9.0% | 1,672,423 |
営業利益 | 630,000 | 530,000 | △15.9% | 487,220 |
急激な円高の影響で下方修正を発表したものの、DSやWiiの売行きは引き続き堅調で増収増益を達成する見込みであり、このご時世では数少ない元気な企業のひとつです。
ただし、前回のエッセイでも触れましたが、株式市場の任天堂に対する一番の興味は、「この勢いは来期以降も続くのか?」という点です。
事実、最近の任天堂の株価は増益基調にも関わらず下落トレンドであり、株式市場では、DSとWiiによる快進撃も09年3月期でピークを迎えて、業績が低下するのでは?という懸念が強くなっています。
【DS&Wii ハード・ソフト 販売台数の推移】
(クリックすると大きな画像が表示されます)
(単位:百万台)
(※)05/3期~08/3期は実績数値、09/3期は計画数値です。
株式市場でそうした見方があることを踏まえた上で、任天堂の岩田社長は第3四半期決算説明会にて下記のような見解を示しています。
(こちらのサイトで岩田社長のプレゼンを確認することができます)
【市場の懸念に対する見解 その1】
世界のゲーム市場の先行指標となる日本市場にて、一時期、DSやWiiの売行きに減速感が出ていた。世界的なブームの終焉の兆しでは? |
日本では海外市場に先駆け08年11月に『ニンテンドーDSi』を発売。「一家に一台」から「一人に一台」という新たな流れを生み出し、日本のDS市場の再活性化を達成している。来期前半にはDSiをアメリカやヨーロッパでも投入する予定。 |
【市場の懸念に対する見解 その2】
過去におけるハードの人気の寿命はおおよそ5年。DSやWiiもそろそろ下降トレンドでは?(プラットフォーム5年周期説) |
任天堂の基本戦略:「ゲーム人口の拡大」 |
→過去の事例を当てはめるのは適切でないと考えている。
上記の見解について定量的な観点から検証してみましょう。
【主要ハード 地域別累計普及台数】
(2008年12月末現在)
(単位:百万台) | ソニー PlayStation®2 |
ニンテンドー DS |
ニンテンドー Wii |
日本 | 21.4 | 25.1 | 7.5 |
アメリカ | 43.6 | 27.6 | 17.5 |
ヨーロッパ | 32.5 | 31.4 | 14.3 |
(※)任天堂 第3四半期決算説明会資料より抜粋
これまで世界で最も普及しているゲーム機はソニーのPlayStation®2(PS2)です。上記の表では、PS2とDS&Wiiの累計普及台数を比較しています。
<Wiiの今後について>
PS2と同じ据置型のゲーム機であるWiiは、PS2を超える史上最速のペースで普及が進んでいます。
この点から、任天堂は、「ゲーム人口拡大による新たな顧客層の拡大を合わせて考えると、PS2以上の累計普及台数を見込める。また、ソフト市場も来期は今期以上に拡大可能と考えている。」と述べています。
この仮定が正しければ、あと2~3年は20百万台前後の販売が続くことになります。
<DSの今後について>
日本において、DSは既にPS2の普及台数を超えています。アメリカ・ヨーロッパでも順調に普及しており、あと1年もあればPS2の普及台数を超えてくるでしょう。
その意味では、そろそろ飽和点に差し掛かっているとも言えます。
しかし、任天堂は「DSのような携帯型ゲーム機は「1人に1台」をコンセプトに開発を進めているので、PS2やWii以上に市場のポテンシャルがある。」と述べています。
「1人に1台」を前提とすると、人口動態的には特にアメリカやヨーロッパの市場がさらに広がることになります。また、中期的には新興国の市場拡大を見込んでいるとのことです。
【まとめ】
皆さんは任天堂の将来性についてどのように感じたでしょうか?
私個人の感想としては、「任天堂の業績は09/3期でピークを迎える可能性は高いが、その後は懸念されているほど落ち込まないのでは?」と思いました。
まず、DSやWiiは「単なるゲーム機」からパソコンや携帯電話のような「インフラ」に進化しつつあることを考えると、累計普及台数から見てもまだ販売余地はあると考えています。
また、任天堂は業績がブレやすいビジネスを行っているにもかかわらず、近年は堅調な業績をあげており、長年のゲームビジネス経験により培われた新商品の開発・投入タイミングに関するノウハウを熟知しているように感じます。
不況期だからこそ、手軽で安価なゲームの存在感が高まりますしね。
(昨年の年末商戦も堅調に推移したようです。)
上記を踏まえた現時点でのバリュエーション結果は下記のとおりです。
(理論)株主価値:3,803,391百万円 |
【フリーキャッシュフローの推移予測】
(クリックすると大きな画像が表示されます)
(参考)バリュエーションの前提条件
項目 | 修正シナリオ |
1株当たり理論価値(①÷②) | 29,740 円 |
① 株主価値(③+④-⑤-⑥) | 3,803,391 百万円 |
② 発行済株式総数(自己株式控除後) | 127,889 千株 |
③ 事業価値 | 2,551,168 百万円 |
④ 非事業価値 | 1,252,321 百万円 |
⑤ 債権者価値 | - 百万円 |
⑥ 少数株主持分 | 98 百万円 |
WACC (有利子負債なしのため、WACC = ke(株主資本コスト) |
10.0% |
WACC 長期成長率(注) |
1.0% |
P.S.
任天堂はIRによる開示体制が常に進化している印象を受けます。
WEB上での情報開示資料の充実、投資家の懸念に対して経営トップが誠実に回答する姿勢など投資家のWACCを下げるIRですね。
2009年2月26日 S.Yoshihara
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IR物語 第50回「続 今 あえてバリュエーション」