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IR物語 第44回「今、あえてバリュエーション②」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

ここのところ、主要企業の四半期決算発表が相次いでいますね。
市場が想定していたとおり減収減益の見通しを発表する会社が多く、金融危機が実体経済に及ぼす影響が少しずつ明らかになってきました。

私は今こそバリュエーションという思いで、最近の決算発表を受けて気になる会社のバリュエーションを見直しています。

前回のエッセイでは、バリュエーションのロジックを用いて現在の株価水準から逆算して将来業績予測や投資家の要求利回りを求めてみましたが、今回のエッセイでは、オーソドックスに最近発表された業績予想数値から理論株価を求めてみようと思います。

下方修正された業績を前提にした場合、果たして現在の株価は割安なのでしょうか?

今回は、日経平均株価への影響度№1銘柄である、ファナック株式会社(6954)を取り上げてみたいと思います。

【理論株価】

 シナリオ①(業績悪化は一時的) :7,572円(12.3%割安)
 シナリオ②(業績悪化が数年続く):6,694円( 0.7%割高)
 (参考:11月4日終値のファナック株価 6,740円)


【主な前提条件】

(興味ない方は読み飛ばしてください・・・最後にまとめがあります)
S.Y_044_E0.gif

上記のシナリオ①及び、②におけるバリュ結果の違いは、「将来業績予測の前提」が異なる(事業価値が異なる)ことによるものです。

上記の前提となる将来業績予測は下記の通りです。
(なお、いずれのシナリオも09/3期の業績は下方修正後の会社公表値を利用)

【シナリオ①】実体経済の悪化が一時的である場合 
 (クリックすると大きな画像が表示されます)
S.Y_044_E1.gif 
  図1.営業利益及び営業利益の成長率 推移

【シナリオ②】実体経済の悪化が数年続く場合
 (クリックすると大きな画像が表示されます)  

S.Y_044_E2.gif  
  図2.営業利益及び営業利益の成長率 推移

また、WACC(ke)については、現在の市場環境に対するリスク認識の高まりを反映して10.0%を用いています。CAPMによるWACCが7.3%だったので、けっこう保守的なバリュエーションと言えます。

【まとめ】

上記のバリュエーション結果に対する率直な感想は下記のとおりです。

・ WACC10%で割り引いても(シナリオ①で)割安になるなんて、以前のファナックでは考えられなかった株価水準だな・・・。

・ ただ、一時的な減益なら売られすぎだが、減益トレンドが続く(or減益幅さらに広がる)ようだとすごく割安とも言えないな・・・。

・ 今後、一本調子で相場が戻ることは考えにくいので、6,000円台前半まで下がってきた時に少しずつ拾っていこう。

上記のバリュ結果でも触れましたが、最近、株価が大幅に下落したからと言って、何でもかんでも「買い」なわけではなく、実体経済の悪化による影響の度合いを慎重に見極める必要があります。

実体経済の悪化が長期化した場合には、現在の株価水準でも割安とは言いきれない銘柄もあります(特に事業の継続可能性には注意が必要です)ので、投資を行う際には過去の自分の判断に固執せずに、将来業績予測の変化について今まで以上に注意を払うことをオススメします。

ちなみにファナックの場合は、BtoBの資本財メーカーであり、自動車業界との関連が深いことなどから、昨今の自動車業界の不振はネガティブな要素です。
(実際、足元の受注は2四半期連続で落ち込んでいます)

しかし、資本財といっても、「工場の自動化とロボット化によるコストダウン」に貢献するファナックの製品群は不況下においても底堅いニーズがあるのではないかと考えています。

優れた技術力による高いキャッシュフロー創出能力、健全な財務体質、そして理系マインド満載の異質な経営方針・・・これらの魅力を兼ね備えたファナックは個人的に好きな会社であり、今は安く買えるチャンスとも言えるので、引き続き注目したいと思います。

※(注)なお、今回のエッセイで取り上げた企業について、板倉雄一郎事務所による売買を推奨するものではありません。

2008年11月6日 S.Yoshihara
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