板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「投資すべき企業」

2010年の「会社四季報」は、その厚さが半分になるんじゃないか!?

そんなことが、実しやかに言われています。
事実、証券取引所は、上場廃止基準を緩和し、何とかそんなことになる事態を避けようとしています。

一方、株式投資や企業についてほとんど知らない多数の個人投資家は、「下げたところで買おう!」なんてのんきな株式投資を始めているようです。

そんなんじゃ、絶対に儲かりません。

結論から書けば、、

今投資すべき企業(・・・というか投資チャンスをうかがうべき企業)とは、経済状態の変化に応じて進化できるであろう企業だけです。

単に人件費をはじめとする経費削減によって、この場を乗り切ろうとしている企業もダメ。

「安く買える事業などの物件があるから、今買っておけばいずれキャッシュを生み出すだろう」と、既存のビジネスモデルを叩いて買っている企業もダメ。

そんなのは、将来の景気回復局面では、その景気回復の一員にはなれないのだろうと思います。

こういった「待ってればそのうち何とかなる」とか、「今をしのげば何とかなる」といった、他人依存の経営体質の企業はダメなんです。

経済状態の変化をいち早く感じ取り、必要な変化を実現することによって進化しようとする企業を見つけ、その企業の株価が「もう一段凹んだところ」で投資に踏み切ることが合理的であると思います。

お気づきの読者の方もいらっしゃると思いますが、当事務所パートナーエッセイの2009年のテーマは、(もちろん僕が決めたのですが)、「企業の変化」です。

経営計画や、B/Sの変化から、「その企業がどのように変化しようとしているのか」を読み取り、投資のチャンスを探ること、それが株式投資において今最も重要なスキルだと思います。

株価が大幅に凹んだところで投資すれば、そのうち景気が回復し、株価も回復するでしょ!

なんて考えでは、間違いなく損します。

どれほど株価が凹んだとしても、これまでのビジネスモデルにしがみついているような企業の場合、次に景気が回復した頃には、その恩恵を受けられないケースが続出するのではないかと思います。

次に景気が回復することがあるとすれば、それは既存のビジネスモデルが成しえる景気回復ではなく、経済の変化に合わせて進化した新規のビジネスモデルによるところが多くなると思うからです。

相場においては、どんな状況でも合理的に利益を出す方法はあります。
事業においても、経済環境の変化をチャンスと受け止め、積極的に進化しようとする企業にとって、どんな状況でも収益を上げることができるのです。

ただ、それに気がついていないか、または、変化を怖がっている企業が多い。

ドラスティックに、しかし合理的に進化しようとする企業を、主にスージの面から分析するアプローチには、価値があると思います。

読者の皆さんがそれを行ううえで、当事務所のパートナーエッセイがお役に立てることができれば幸いです。

<格差は益々広がる>

人類の技術的進歩によって、格差は広がり続けるのだろうと思います。
その昔、多少の訓練をすれば誰でもすぐにできる仕事(いや作業?)でも、それなりの経済的価値がありました。
ただただ決められた場所にネジを締めるだけの作業であっても、それを誰かがやらなければ製品が完成しないわけですから、それをやる人にもそれなりの労働配分が必要でした。
少なくとも、その「一人」がフツーに生活できるほどの収入を確保することができたわけです。
けれど、発明好きの人類は、そんな作業をこなせる機械を発明します。その結果、ネジ締めに対する労働配分は不合理になるわけです。

ネジ締めの例が極端だと思われるかも知れませんが、多くの製品の「付加価値」が、ほとんど「ソフトウェア」で実現可能になった現在においても、ただ設計指示通りにコーディングするだけのプログラマーは、その就労人数が増えたこともあり「特別な仕事」ではなくなりました。従って、その労働配分も減少して当然です。

さらにグローバル化された世界では、労働コストの極めて安い国から、生身の労働力ばかりではなく、製品としての労働力の輸入が実現されていますから、なおさら誰にでもできる仕事の経済価値は減少してゆくわけです。

このような格差の拡大は、個人間だけではなく、企業においても同じく広がるのだろうと思います。
既存のビジネスモデルにしがみつく企業とは、自分のスキルを磨こうとしない個人と同じです。
そんな企業の株価が、半分になったから「買いだ!」なんてやってたら損します。

<企業の進化は人の進化>

人類は、常に進化し、変化しています。
企業の取り組みは、その変化を常に感じ取り、変化に応じて進化「し続けなければ」、企業としての継続は不可能です。

企業とは、その利害関係者がその立場(←顧客、従業員、取引先、債権者、株主)が、それぞれの立場で価値(←モノ、カネ、労働力など)を持ち寄り、価値を増大させ、増大させた価値を再び利害関係者に配分する「仕組み」です。

したがって、企業がその活動を継続するために、社会の変化に応じて進化するということは、すなわち企業に関わる利害関係者の進化が無ければ実現できないわけです。

「これまでの仕事」にしがみつき、変化、進化から逃げている人と、常に自己投資を続け、進化、変化に前向きに取り組んでいる人との「経済的格差」は、人類の技術的進歩、経済状態の変化を前提にすれば、益々広がることになるのは間違いありません。

企業全体として、進化しようとしている企業を見つけ出すことが今後の株式投資で大きな収益を得るために欠かせないと思います。

「それって難しそう!」

そうですかねぇ・・・スージの面から変化を見つけることって割と簡単ですよ。
だって、変化しているわけですから、目に付くわけです。

スージが大きく変化している企業・・・是非探してみてください。
きっと現在の経済状況が、投資のチャンスに見えてくると思います。

2009年1月14日 板倉雄一郎

PS:

「働かざるもの食うべからず」という考えは既に過去の考え方ですよね。
働きたくても、現在のスキルでは、働く場所が無い人がどんどん増えるわけですから、「働かざるもの食うべからず」といわれてもねぇ・・・

企業でも個人でも現代では・・・

「自分を進化させなければ、いずれ食べられなくなる」

というのが正しいのではないかと思います。

 PS^2:

<データの見せ方>

先日の「サンデープロジェクト」(テレビ朝日)にて、現在の景気後退およびその対策についての議論がされていました。

司会の田原総一郎氏がフリップを使って、「如何に労働配分が減少し、他方、投資家配分が増加したか」を示すために、以下のようなグラフを用いていました・・・

折れ線グラフには、2000年から2008年までの、
1、労働配分(←つまり人件費ですね)・・・2000年以降減り続けているグラフ。
2、配当額(←つまり株主への配分ですね)・・・2000年以降増え続けているグラフ。
3、非正規雇用者の比率・・・2000年以降増え続けているグラフ。
が表現されていました。

多くの視聴者は、「なるほどぉ、本当に投資家配分を増やすために労働配分が犠牲になってきたんだな!」との印象を持つことだろうと思います。

読者の皆さんはどう思われますか?

このグラフには、「インカムゲイン(←配当)」の推移は示されているが、「キャピタルゲイン/ロス」については「一切」表現されていないのです。

東京市場において、2008年1年間だけでも、概ね50%前後のキャピタルロスが発生している事実は、上記のフリップには一切表現されていないわけです。

超短期の株価のボラティリティーについては、様々な要因によってオーバーシュートすることがあっても、ある一定の期間を「引き」で見れば、株価は株主価値によって担保されています。

株主価値=非事業用資産(←事業に投下されていない経済価値)+事業価値(←将来、投資家に帰属するキャッシュフローの割引現在価値)

によって決定されるわけですから、株価下落が相当期間続けば、それは、「将来の投資家に帰属するキャッシュフローが減少する」ということを示します。

すなわち、将来の投資家の取り分の減少・・・それを織り込んだ株価下落によって、現在、投資家は大変な損失を蒙っているわけです。

しかし、「表現者」とは恐ろしいもので、表現者自身の意向に沿ったデータのみを見せることによって、少なくとも「その場」のオピニオンをリードすることができてしまうわけです。

実際、番組でも、上記のフリップについて、誰一人として「データの客観性の不足」を指摘する出演者は居ませんでした。

PS^3:

世界は今、「大きな政府」にまい進していますよね。
行き過ぎると危険ですね。
大きな政府は、戦争したがるんですよ。歴史的に。

 





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