板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「エコノミック・フィクション・政府紙幣で国家破綻」

前回のITAKURA’s EYE 「政府紙幣だってさ」にて、以下のようなことを書きました・・・

1、政府紙幣は、それを担保する(バランスさせる)「何か」が、政府発行という以外に無い。
(因みに日本銀行券は、それを国債によってバランスさせてます。)

2、政府紙幣は、対応するインフラが整備されていないことなどから、「通用力」が日本銀行券に比べ極めて低い。

3、よって、日本銀行円と政府紙幣円の交換レートは、(仮に法律で決めたとしても)実際の通用過程の中では、1:1とはならない。

4、そもそも、単発のキャッシュフローを受け取ったところで、それに継続性が無ければ、人は消費を抑える傾向にあるから、景気刺激策にはなりにくい。

などです。

この政府紙幣の話、もろもろを考えてみると結構面白い、そして、経済の学習にもなる、ということで、今回は、あくまで「フィクション」として、政府紙幣発行の末路が国家破綻に繋がるストーリーを書いてみたいと思います。

物語風に書くと、やたらと労力が必要になりますので、物語の草案レベルの箇条書きでお許しください。

<政府紙幣で国家破綻(フィクション)>

景気刺激策として、国民一人当たり20万円ほどの政府紙幣が「配給」される。

ところが政府紙幣は、日本銀行券に比べ、どうにも使い勝手がわるい。

自動販売機でも使えない、小規模店舗は支払い金額として政府紙幣を受け取ってくれない。

銀行に預けようにも、ATMは政府紙幣に対応していないし、銀行の窓口でもどう扱ってよいか銀行自体がわからない。

そして、国民の間から不満の声が続出する。

政府は慌てて、「銀行は、日本銀行券と政府紙幣を同等に扱わなければならない」なんてむちゃくちゃな法律を作る。

日本国民は馬鹿じゃないから、受け取った政府紙幣を銀行の窓口ですべて預金する。

預金してからATMで日本銀行券として受け取り、消費に使う。

企業の中には、「モノが売れるなら政府紙幣でも大歓迎!」と、とりあえず売り上げを伸ばそうとする企業も出てくる。

かくして、政府紙幣は、銀行および企業に集中する。

ところが銀行も、企業も、多くは国際業務を行う関係で、やはり政府紙幣は扱いたくない。

よって、政府紙幣をなるべく手元に置いておきたくない。

企業が政府紙幣によって従業員に対する給与を支払っても、同じループ。

ところが、政府紙幣を文句も言わず受け取ってくれる先が一つだけある。

それは、政府紙幣の発行元、すなわち日本国政府。

日本国政府発行の政府紙幣を、日本国政府が、「そんなの金じゃない!」とは絶対にいえない(笑)

かくして、個人も、企業も、銀行も、手元にある政府紙幣を「納税」や「社会保障費」の支払いに充てるようになる。

で、どうなるか・・・日本国政府に納税されるお金の「大部分」が、自らが発行した政府紙幣となる。

日本銀行券としての収入がなくなってしまう。

政府紙幣が政府に集まっても、公共事業費、社会保障費、公務員の給与、地方交付税などなど、いわゆる政府の支出を、舞い戻ってきてしまった政府紙幣で支払えば問題ない。

しかし問題のある支払いが一つ残る。

国債費。つまり、国債(JGB)の償還と利払い。

ただでさえ税収が枯渇する経済状況の中で、政府が得られるのは政府紙幣ばかり。

慌てた政府は、新たに法律を作る・・・

「今後は、国債費の支払いも、政府紙幣によって行う」

この瞬間、日本国債はデフォルトする。

日本銀行円建て国債の利払いや償還が、日本銀行券ではないモノ(?)で行われることをデフォルトと呼ばなくてなんて呼ぶのでしょうか。

かくして、GDP世界第2位の日本国は、国家破綻する。

ちゃんちゃん。おしまい。

<何をやっても必ずツケが残る>

以上は、かなりはしょった箇条書きですから、いろいろ突っ込みどころはあろうかと思います。そして、あくまでフィクションとしてデフォルメしていますから、現実には起こり得ないこと、または、起こる順番が異なること、さらには他の想定シナリオなどあろうかと思います。

例えば、政府が本当に政府紙幣を発行するとなれば、以上のような問題は想定できるはずですから、それなりの「法整備」を事前に行うことになるでしょう。

しかし、「ここが重要なのですが」、これほど法整備を行ったところで、「市場の意思」は、そう簡単に政府の意向に沿うことにはならない可能性が高いのです。
それが自由民主党による政府であれ、民主党の政府であれ。

たとえば、法律的に、日本銀行券と政府紙幣を1:1で交換することを決めたとしても、実際の通用過程では、「日本銀行券でお支払いの方には、ポイント10%還元!」なんてやることによって、実質交換レートは、「日本銀行券 > 政府紙幣」となることは容易に予測できます。

政府紙幣とは、要するに、「通貨の番人の居ない通貨」です。

どの国にも、政府から独立した中央銀行が存在する意味は、「通貨価値を維持すること」に他ならないわけです。

国債を裏づけにした日本銀行券であるからこそ、日本銀行券の価値をコントロールすることができるわけです。

政府にとっても、国債に「利子」があるからこそ、好き勝手に日本銀行券を刷りまくることができないわけです。

日本銀行券には、それを裏付ける「利子のある」国債がありますが、他方の政府紙幣には、印刷費以外のコストが無い。

そんな、お金として根本的に性質の異なる両者を、1:1に対応させるなんてことは、絶対に不可能なのです。

 

以上、フィクションに基づいて書いてきましたが、最も力説したいことは、「どんなテクニカルな方法でも、必ず将来にツケを残す」ということです。

大きな政府大好き!の(米)民主党は、やりたい放題(←議会には共和党も居ますからちょっと言いすぎですが)です。

しかし、現在行おうとしているバラマキが、将来の成長期待に繋がらなければ、とんでもない通貨下落に繋がる可能性があります。

また、バラマキによって経済が上向いたときにも、将来の過度なインフレの可能性を否定できません。

(ちなみに、政府紙幣の場合は、実はインフレ対策は容易です。政府に集まった政府紙幣を政府の手で焼いてしまえばいいわけですから。)

<世界経済は未知の領域>

景気が底を打つ時期について、なんとかミストだとかが適当な時期を表現しています。
過去にも書いたことですが、いつ頃から景気が回復するかなんてことを表現する人間ほど、経済についての理解が浅いといわざるを得ません。

世界経済は、全く未知の世界に突入しています。
100年に一度なんて、全くの嘘です。
100年前と現在では、インフラも、技術も、国家間の通商も、まるで異なるわけです。

現在の不況の「ある部分・・・たとえば株価の推移だとか」が、過去のいずれかの時点に似ているからという理由だけで、「こんなことは以前にもあったよ」と片付けるのは大変危険なことです。
特に、「これまでは」長期に渡って投資家として成功してきた人などが、このような見解をする傾向があります。ある意味「成功体験の弊害」です。
(僕は、バフェットさえも、その例外ではないと思います。まあ、うまくやっているほうだと思いますけれど。)

 

世界中が、力づくでも景気を支えようと躍起になっています。
本質的な「成長期待」や、「消費意欲」に基づかない「マクロ・テクニカル」な方法は、それがどんなに考えられた方法であっても将来に何らかのツケを残します。
ツケの残らない方法なんて、存在しません。
だから、「大きなツケ」を残さないように、今こそ慎重に政策を行って欲しいと思います。

経済は、世界で繋がっているばかりではなく、過去~現在~未来へと間違いなく繋がっています。
足元がダメなら将来も無いわけですが、足元を何とかしようとするあまり、将来を犠牲にしてしまったら、取り返しの付かないことになります。

そもそも、アイデアレベルであったとしても「政府紙幣」なんて話が出てくるんですから、それだけ経済が悪いということです。

2008年度の税収、2009年度の税収・・・ほとんど見込めないでしょう。
だからこそ、消費税アップの話が出てくるわけです。
「消費税アップは、景気が好転してからね」なんて余裕は既に無いわけです。

だからといって、政府紙幣で解決しよう!なんて話になってしまったら、とんでもないことになってしまいます。
政府が「円天(笑)」を始めるような馬鹿馬鹿しい政府紙幣に関する話題を、2回も書いた理由は、他でもなく、割と視聴率の高いテレビ番組(朝日新聞系列)で、割と影響力のある複数の出演者が・・・

「政府紙幣には何のデメリットも無い。インフレも心配ない。だからさっさと70兆円ぐらいやればいいんだ」

と表現していたことを見聞きして、ぞっとしたからです。

ちなみに、僕の知っている範囲では、これらの出演者の職業や経歴からして、「経済に関する知識」を持っているとはとても思えない方々ばかりでした。

2005年に、メディアが堀江君のインチキを見抜けぬまま、彼を賞賛していた頃と同様の感情がわいてきてしまったわけです。

メディアによる偏った報道が、国民をミスリードしなければ良いのですが。

以上、こうして書いている僕自身にも、一定のバイアスがありますし、経済についてそのすべてを知っているわけではありません。
一人ひとりが、様々な意見を、「自らが吟味して」、その後の判断を行う必要があります。

今年は選挙がありますから。
この選挙は、とんでもなく重要な選挙になるだろうと思います。

2009年1月30日 板倉雄一郎

PS:
中国経済に対する期待が高まっています。
確かに中国以外に消費が拡大しそうな経済圏って、今の時点では無いですからね。
けれど、中国は、既に、食糧や資源やエネルギーの「純輸入国」です。
その上人口が果てしなく多いですから、その傾向は中国経済が内需によって成長すればするほど顕著になります。
だから、なんらかの商品を輸出して、国際通用力のあるドルやユーロを継続的に手に入れなければ続かないのです。
それとも、これまでのアメリカが、ドルによって輸入超過分を支払っていたように、中国も「元」によって支払うことにでもするのでしょうか。
そうなったら、「元」が基軸通貨になりますね。

とか、暇なときに考えながら、エッセイのネタを調達するわけですが、次回は中国についてフィクションを書いてみようと思います。(気が向いたらね)

PS^2:
今週末は、雨だというのに、伊豆の温泉旅館にて、このところ始めた「経営者会議」の予定です。
40代の経営者が集まり、あーでもない、こーでもないと、経済や社会の「将来」について夜中まで議論する会合です。
クローズドですが、とても楽しみです。

PS^3:
「二千円札」、一体どこに行ったんでしょうね(笑)
政府紙幣を皆が嫌う可能性については、2千円札を振り返ればわかると思います。
ただし、二千円札それ自体には何の問題もありません。
日本銀行に舞い戻ってきた2千円札を焼いて、新たに千円札二枚を渡せばいいわけです。

なんのバランスも崩れませんし、「あ~あ、二千円札は失敗だったね」でおしまいです。

けれど、政府紙幣はそうは行きませんよ。

PS^4:
そうそう、本日は、待ちに待ったTOYOTA iQの納車です!
母上へのプレゼントですが、本日はこいつで移動してみたいとおもいます。
ささやかな日本経済への協力でもあります。(飲み代の方が遥かに多いけれど(笑))
またレポートしますね。





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