板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「顧客目線が足りない」

デフレが進行しています。

マクロ経済という全体を捉えれば、経済をつかさどる需要側と供給側それぞれの関係が「鶏と卵」ですから、どれが原因で、どれが結果であるかは、誰にもわかりません。

設備投資や人材投資を渋った結果、低品質の商品が提供され、顧客の購買意欲が衰退するという見方もできますが、景気低迷により消費性向が下がり、高品質の商品を提供しても売上に結びつかないと判断する結果、低金利にも関わらず様々な投資が行われず、価格競争でしかできない企業が増えているという見方もできます。

しかし、自分自身の生活や仕事を通じ、今、自分や社会が感じていることは・・・

「お金出してまで欲しいと思うモノやサービスが無い!」

ということが最も大きな景気低迷の原因の一つではないかと思います。

つまり、経済をつかさどるあらゆる人が「顧客の側面」で不満を持っていると。

 

従業員や取引先の立場では、「もっと買って!」、と不満を持つ一方で、同じ人間が、顧客の立場になると、「そんなもの(少なくともその価格では)要らないよ!」、ってことになる。

じゃあ、従業員や取引先の立場として、顧客が「欲しい!」と思うようなモノやサービスを作っているのか? と問えば、恐らく、「自身を持って作っているぞ!とは言えないかも」、となるのではないでしょうか。

経済が縮小均衡に向かうのは当然といえば当然。
必ずしも財政・金融政策「だけ」が問題だとは言い切れないわけです。

 

以上の因果の切れ目の無い鶏と卵論を無理やり因果に分解すれば・・・

先行き不透明だから消費を抑えるといった、「生活のダウンサイドリスクを抑えようとする行為」の原因は財政・金融政策にあり、
お金出してまで欲しい商品が無いから使わないといった、「生活のアップサイドを求めない習慣」は、企業の顧客目線の欠如に原因があるのではないかと思います。

これら二つに分けたデフレ要因のうち、巷では前者が特に注目され議論されていますが、後者については、さほど議論されていません。

供給が需要を上回っていることがデフレの一つの大きな原因ですが、それって「商品数を需要以上に作ってしまった」とか、「商品数を需要以上に作れる設備を持っている」とかの表面的なことが原因なのではなく、自らが供給サイドの立場のときに・・・

「自分自身が特に欲しいと思わないものを作っている」

つまり、「顧客目線が足りない」、ということに尽きるのではないでしょうか。

 

2010年3月18日 板倉雄一郎

 

PS:

ここで、「顧客目線とは何か」を説明する上で、僕が顧客として接した、「ひどいサービス」の例を一つ書きたいと思います・・・

僕は、某ホテル(←某って書いたって読者の方々にはどこだかわかってしまいますけれど)を頻繁に利用してきました。

過去には、結婚式もやりましたし、最近は規模を縮小していますが毎年年末になるとクリスマスパーティーもこのホテルで開催してきました。

そして、その年によってばらつきもありますが、多い年で年間100泊(週に2泊)程度、宿泊しています。

つまり、個人顧客としては、自分で言うのもなんですが、かなりの上客だと思います。

このホテルには、様々な特典サービスを受けられるブラック会員制度があります。

宿泊料金が半額以下になったり、スイートルームへの無料アップグレードがあったり、リラクゼーション施設を無料で利用できたりするのが主な内容です。

入会金100万以上、年会費40万円ほどを支払う必要がありますが、僕のようにたくさん宿泊し、たくさんリラクゼーション施設を利用する顧客にとって、その価値は明らかに価格以上です。

事実、制度がマイナーチェンジされた後も、僕は会員を継続しています。

と、ここまではよいのですが!

少なくともこの1年間、その特典を利用して宿泊しようとしても・・・

「当日はスイートルームを含め全館満室です。」とか、

「ご希望のお部屋タイプに空きはございません。」とか、

(あくまで感覚的数値ですが)3回に1度程度は以上のような理由で宿泊を断られますし、週末予約の場合には、2回に1度程度、宿泊を断られました。

部屋が取れないことだけではなく、こちらが何者であるかを名乗る前に、代表電話のオペレーターから、

「何日のご宿泊予定ですか?」と聞かれ、日程を伝えると、

「当日は全館満室です。」と一方的に代表電話オペレーターの時点でシャットアウトされてしまうという対応です。

ブラック会員として決して安くない入会金と年会費を払っている僕としては納得いかないですから、ブラック会員だと名乗ってみることにしましたが、何も変わりません。

そこで僕がぶちきれると、慌てたオペレーターはフロントに電話を回しますが、そこではじめて、「板倉様いつもありがとうございます。」とかなんとか、初めてブラック会員扱いの対応になるというお粗末さです。

このぶちきれなければ真っ当な対応ができないのは、本当に毎回ぶちきれる必要があるので後味も悪いし疲れます。サービス業としてサイテーです。

(ブラック会員専用電話を用意すべきだ!と何度も言っているのですが、全く対応なしです。専用電話なんて、人件費が増えるわけじゃないわけです。単にフツーの代表電話の隣に回線を1本引いて、その電話への着信の場合の対応をちょいと変えるだけで顧客満足度が上がるというのに、それがぜんぜんわかっていないわけです。
それなのに、ブラック会員専用のチェックインフロントなる無駄なものを結構な設備投資費をかけて設置するも、フロントマンは一般チェックインに追われ、ブラック会員専用フロントには、いつも誰も居ないという有様です。
僕の主張と提案は、明らかに、彼らの利益を増やし、顧客満足度を高める一石二鳥を、ほぼノーコストで実現できるというのにねぇ・・・)

電話対応の問題はさておき、実際に宿泊予約が取れない問題についてです。

部屋が取れない話は、他の会員からも聞くところです。

もちろん、いくらブラック会員だからと言って、「常に」部屋が取れなければならないなどと我がままを言うつもりはありませんが、少なくとも僕の感覚では、「ったくつかえねぇなぁ」と思うぐらい予約が取れない場合が多いと感じるわけです。

このご時勢にずいぶんと景気のいい話だなと思いきや、なんてことは無い、何とか無料宿泊クーポンだとかの割引サービスキャンペーンを、「ブラック会員の都合そっちのけで」、行っている影響だと知り、僕はさらに腹が立ちました。

つまり、彼らのやっていることは、様々な「実際にはその特典の行使すらおぼつかない」特典をちらつかせながら、彼らとしての安定収入源であるブラック会費を巻き上げ、さらに、常連でも会員でもなく、「価格が安いという理由だけで宿泊する一般客」を押し込んで儲けようとするインチキ経営です。

安定顧客を失って当然だと思いますし、事実会員は年々減少しています。

その上、一昨年までは、ブラック会員向けの優待宿泊料金より安い宿泊料金が、ネット予約割引として一般客にも提供されていることまでありました。さすがにこれは僕以外のブラック会員も不満を漏らしていましたから、昨年から改善されましたが・・・

1、顧客目線で見て当たり前のことを、顧客からブーブー言われるまで実行できない姿勢。

(固定費を支払うリスクを取るブラック会員より安い価格を一般客に提示する馬鹿げたサービスを、ブラック会員複数からのクレームがされるまで修正しない姿勢)

2、顧客から指摘された「部分」だけを修正し、本質的に全く同じ不手際を続ける姿勢。

(ブラック会員より安い価格をネットで提供することも、販促のためのなんとか無料クーポンによって満室になり、ブラック会員が部屋を予約できないことも、本質的には同じことです)

こんな顧客目線の足りないサービスはいただけませんよね。
彼らとしても、「安売りのどつぼ」、にハマってしまうかもしれません。

それとも、ブライダルで儲けてるからブラック会員なんてどーでもいいのでしょうかねぇ。

顧客としては、「ふざけんな!なめとんのか!」、という印象になりますが、彼らとしては決してブラック会員をなめているわけではないのでしょう。

単に、「顧客目線が足りない」のだと思います。

 

以上の具体例をベースに、「なぜ顧客目線が足りないのか?」、を一般化して考えてみたいと思います・・・

 

結論から書けば、「商品の作り手に顧客が居ない」、ということになろうかと思います。

商品を顧客に提供する上で、その作り手は、本来顧客ではない立場の人間ばかり・・・その企業における経営者や従業員・・・が占めています。

もちろん彼らは、顧客の立場を可能な限り「想像して」商品を作り上げてはいるのでしょうけれど、実際に「キャッシュを支払う立場」である顧客と、その立場を「想像するだけの立場」では、そこに大きなギャップがあります。

たとえば、商品価格について・・・
商品価格を決定する過程において、商品を作る上での努力やコストが見えている供給側は、自らの努力やコストが価格決定の上で重要となりますが、顧客にしてみれば、「そんなの関係ねぇ」わけです。どれほどコストがかかっていようが、どれほど素晴らしい技術が使われていようが、顧客は顧客の立場で、その価値と価格を比較するだけの話ですから、供給サイドの人の想像力だけで作られた商品では、完全な顧客目線の商品は作れません。
逆に言えば、ただ同然の原材料によって作られた商品であっても、顧客にとってそれなりの価値がある場合、その企業の利害関係者はすべてハッピーになる場合もあります。
(コカコーラなんかがこのケースに当てはまります。)

たとえば、商品評価について・・・
出版社に飲食代を負担してもらった上で飲食店を調査した「飲食店ガイド」は、自腹で飲食した上で書かれた個人ブログ上での評価を超えられないわけです(ただし、評価者の舌にどれほどの正確さがあるかは、別の問題ですが)。
これは、自動車会社から間接的直接的に収入を得ている自動車評論にも同じことが言えます。
(だって、あのトヨタiQがカーオブザイヤーとかですから、笑えます)。

たとえ話はきりが無いのでやめますが、

純粋な顧客の立場をもつ人を商品設計と運用の両面で採用する事が欠かせない・・・なんていうのは、「大昔から」言われ続けてきたことじゃないでしょうか。

そんな当たり前のことが、トヨタにせよ、上記のホテルにせよ、いつしか忘れ去られているのではないかと、僕は感じます。

トヨタや上記のホテルばかりではありません。こういったことに「特にうるさい僕(笑)」は、顧客として接するあらゆる企業に対して、このところ、強く感じるようになりました。

需要側の「安けりゃいい!」は、提供側の「安いんだから文句言うな!」に繋がり、
需要側の「機能していればいい!」は、提供側の「機能していないわけじゃないですよね!」といった顧客との低俗なコミュニケーションの原因になります。

そりゃデフレが進行するのも致し方ないことでしょう。

以上、このエッセイが、ホテル名で検索エンジンに引っかからないように(=このサイトの常連読者以外の方が同ホテルに悪い印象を持たないように)、ホテル名は控えました。

 

PS^2:

この3月末で、同ホテルの次年度のブラック会員会費の支払期限です。

さて、どうしようかな・・・

このホテルの立地や夜景、そして駐車スペースの広さなど「モノ」としては、他のホテルに比べて悪くないんですよねぇ・・・そして、僕と直接接するホテルマン個々人は、結構好きなんですよねぇ・・・

 

小話・・・

会員:「俺ってさぁ、あのホテルのブラック会員なんだぜ」
女性:「うわっスゴイ! じゃあ今晩は一緒に泊まりたいなぁ!」
会員:「任せとけ・・・(電話)・・・満室だってさ」
女性:「はぁ!あんた本当にブラック会員なの!? 
    本当は、ブラックリストに載っているんじゃないの!」

お粗末さまでした。





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