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ITAKURA’s EYE 「妄想ってことで」

現在の長期定期預金(10年)金利は条件にも因りますが、概ね0.5%前後。
一方の長期国債(10年)利回りは、1.5%前後。
引き算すれば、両者の間にはおよそ1%ほどのスプレッドがあります。

民間企業や個人への貸出など、個別リスク管理が必要な「人手の必要な業務」など一切せず、預金を集めるために他の金融機関より多少高めの定期預金金利を設定し、集めたお金(←資本コスト0.5%)は、ほぼ100%日本国債で運用する。

機械的に儲かりますよね。

法律論を無視して、「10年間は引き出せない」とか、もしくは、「満期前の引き出しは(預金者が)かなり損をする」なんて契約にしておけば、国債価格変動(←長期金利変動)リスクも回避できます。

これいいなぁ・・・なんて思ったりしませんか?

しますよね。いやいやもちろんそれなりのコストもかかりますし、様々な法律上の制約もありますが、まあザックリ言えば。

誰かやらないかなぁ・・・

 

いやいやもうやってますね。それも誰でも知ってて巨大な組織が。

それは、世界一の金融機関「郵便貯金」(笑)

ちなみに、こちらに、財務資料がありますのでお時間のあるときにでも。

 

冗談はさておき、「なぜ、JGB(←日本国債)の利回り(=長期金利)は低いままなの?」、について考えて見ましょう・・・

僕の結論は、「JGBは、市場原理の枠外で取引されているから」、となります。

収入40兆円、支出90兆円、有利子負債残高900兆円。
しかもその財務状態は益々悪くなる一方。
こんな財務状態の「会計単位(←日本国)」が発行主体となる債券が安定して消化され、特に売り込まれることも無い。
したがって長期金利も上昇しない。

不思議ですよね。

健全な市場原理からすればデフォルトリスクを考慮して当然ですが、そんなことは「少なくとも現時点では」国債価格(←つまり長期金利)には現れていないわけです。

なぜ???

一つには、後数年分だけ、「買ってくれる人が居るから」、ですが、その本質は、直接的に国債を保有する者も、間接的(郵貯など金融機関が仲立ちして)に国債を保有する者も、「市場原理なんかわからない者」ばかり、だからです。

市場原理が働けば、「危ない感じ」は、直ちに債券価格に反映されるわけですが、それを成せるのは国債保有者が「危ないから今のうちに売っちゃおう」と思える「市場原理の知識」があってこそですから。

だって、もし、JGBをゴールドマンサックスが保有していたとしたらどうなると思いますか?
彼ら、たたき売りますよね(笑・・・その以前に、投機対象とはしますが、基本的に保有しないわけですけれど)

JGBの保有者の9割以上は直接的にも間接的にも日本国民。
しかも、消費意欲も無ければ、市場原理などさっぱりわからない方々。
だから、「痛い思い」をするまで、「信じ続ける」、ということなのだろうと思います。

しかも、これまでにも増して、「わからない人からの搾取」、がしやすいような政策が実現されようとしています。
それはすなわち、国債発行主体が国債の受け皿を管理運営しようとする政策なのですが。

 

このまま、ずうっと、「平穏な状態」、つまりJGB保有者が「痛い思い」をしなくて済むのなら、市場原理の枠外にあろうが問題にはなりません。
平穏な状態が続くとするならば、ですけれど。
JGBの保有者が痛い思いをするということは、すなわちJGBの保有者以外も結構痛い思いをするってことになります。

 

10年ぐらいかなぁ・・・10年以内かなぁ・・・市場原理にさらされるか、もしくは、市場原理に益々逆行するような「追い込まれたが故の政策」を実現せざるを得なくなるのは・・・

 

もし、僕の「妄想」が現実に起こったら、そりゃあ大変な経済的混乱になります。
でも、ひところ騒がれた「借金大国」の話題は、どういうわけか「単年度の支出と収入の問題」としてしか取り上げられず、構造的な問題にはメディアも触れようとしない感じがします。

不思議です。

大変なことになる・・・あくまで僕の「妄想」の範囲ですけれど。

 

仮に、3年以内にプライマリーバランスをプラスにできたとします。
(大増税と緊縮財政を組み合わせても、そんなことできるはずが無いと思いますけれど)
それでも過去に発行した国債の利払いと償還は延々続きます。
僕の「妄想」の範囲では、もう手遅れです。あくまで妄想ですけれど。

いつも書いているように、日本の財政は過去のアルゼンチンなどのように「対外債務」があるわけではありませんし、そもそもJGBは「円建て」です。
したがって、為替変動による債務増大(または縮小)はありませんし、債権者債務者ともに国内に居るわけですから、日本全体としてみれば「問題なし」なのです。
けれど、国内の資産バランスは、大幅に(もしかしたらよい方になる可能性もありますが)変動することによって混乱が生じるのは間違いないと思います。

 

2009年11月9日 板倉雄一郎

 

PS:
最近、仕事しながら「BGVとして」予算委員会のテレビ中継を観てい(?)ます。
本文に書いたような妄想危機に対応すべきは「こいつら」しか居ないのに、「こいつら」の議論していることといったら・・・





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