板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「肌で感じる景気減速」

このところ、東京都心での(遊びも含めた)活動比率が増えています。

結果、船橋の自宅でワンコと一緒に過ごすことより、都内のホテルで過ごす機会が増えています。

すると、必然的に(なんで?)都心の夜を徘徊する機会が増えるのですが・・・

1、交通渋滞の激減

首都高都心環状線の内側(港区、渋谷区など)の交通渋滞が昨年の同時期に比べ「激減」しています。

結果として、西麻布や広尾、六本木や白金などのいわゆる繁華街でも「駐車スペースに困ることは無い状態」です。
(コインパーキングなどの運営企業の業績は、きっと悪くなるでしょう)

2、飲食店の営業縮小

「ランチ営業の中止」とか「営業時間の短縮」などはよく見聞きします。

先日のデートでも、最初の鉄板焼き(割と高級)レストランは、「貸切状態」。
その後、深夜まで営業しているはずの白金あたりの(割と有名な)カフェレストランは、その営業時間がそれまでの深夜2時から、0時に短縮。

仕方なく近所の別の(割と有名な)カフェレストランに移動するも、席はガラガラ。
(飲食店を経営する企業の業績も、きっと相当悪くなるでしょう。)

現在の株式市場でも、「生活必需品に関わる企業(それを作る企業、売る企業)」の株価は、他の業種に比べ「比較的」下落率が低いわけですが、これは市場原理の中で合理的なことだと肌で感じます。

上記のケースのように「比較的高額な飲食店(=付加価値の高い)」程、客足が遠のいています。

ルックスルーすれば、
「“比較的”高額所得者」や「“比較的”純資産の多い方」の収入減少率や純資産の目減り率が、それ以外の一般の方々に比べ、相当に高い。
-ということの現われだと思います。

たとえば・・・。

「俺は一生遊んで暮らせるだけの純資産があるぜ!」

と、つい数ヶ月前まで豪語していた、(たとえば)外資金融機関に勤める方々などが、相場下落に伴い、ほとんどの「計算上の」資産を失うケースなどが多発しています。

彼らの場合、一般的な日本企業のデット・サラリーマン(…業績変動に対するサラリーの変動幅が少ない)とは異なり、イクイティー・サラリーマン(…報酬の大部分が成績に依存するボーナスなどで占められる結果、サラリーの変動幅が大きい)であるということが原因のひとつではありますが、これに限らず、そのボーナスの「受け取り方」と「運用のされ方」について、たとえば、「同社のストックオプション」や「退社するまでの期間、同社によって運用されるファンドへの預け入れ」であるとか、そんなカタチで「受け取ったことになっている資産」である場合が多く、あるケースでは、「一生遊んで暮らせるほどの資産があったはずなのに、一瞬にして『全く無くなった』」なんてコトが、実はたくさんあります。

特に、リーマン・ブラザーズなど破綻した企業に勤めていた方々などは、かなり厳しい状況ではないかと思います。(野村に吸収されても、給与体系などの不一致をどう解消するのか、他人事ですが心配だったりします。)

彼らの多くは、何とかヒルズ、何とかタウンといった家賃100万円/月のような豪華住宅に暮らしているわけですが、それらの「高付加価値住宅」も、今後空室率が増加するか、さもなければ、家賃を下げざるを得ない状況になるでしょう。

こうして、米住宅バブル崩壊から始まった波は、金融機関同士の「疑心暗鬼」に発展し、最終的には、一般の生活者へ、その影響がじわりじわりと広がっていくわけですよね。

東京都心は、日本全国の中で最も「景気のボラティリティーが高い地域」です。

調子の良いときはとんでもなく調子よく、調子が悪くなると全国に「先駆け」、且つ、「全国の景気より大きく」、縮まってしまうことをまさに肌で感じます。

もっとケースを羅列しましょう・・・

1、羽振りの良かったホステスさんが一等地から引っ越した話。
2、毎月数百万のお小遣いをもらっていた「囲われ愛人」が、お小遣いを頂けなくなった話。
3、高級自動車販売会社が、毎日のように「車が売れない」と嘆く話。
4、一方で、「走行数百キロメートル」なんていういわゆる「新古車」がとんでもなく安い価格で売り出されている話。
5、お食事会に毎度顔を出していた投資銀行マンが最近遊ばなくなった話。
いくらでもリストアップできますが、これらのポイントは、「お調子が良かった方々ほど、ダメージが大きい」ということです。

一方で、「全く業績に変動が無い(またはむしろ調子が良い)」という話もあります・・・

このサイトで珍しくリンクをしている友人が経営する「デリバリーワイン」の酒井社長は、「ウチはどうして売り上げ落ちないんですかねぇ…」などと合う度に言ってます。(笑)

恐らく、どれほど収入が減少しても、「一度覚えた味は止められない」という方々が、「飲食店で飲んだら大変な額になるが、デリバリーして自宅で飲むなら格安」ってことで、むしろ売り上げが伸びているのではないでしょうか。

デリバリーワインに限らず、いわゆる「生活必需品」を作ったり、売ったりしている企業の場合、高付加価値商品を提供する企業に比べ、業績の下落率が低いのは間違いないでしょう。
(とはいえ、人口減少を前提にすれば、長期の成長を大胆に見込める企業は数少なく、したがっていわゆるディフェンシブ対象として捉えることになります)

米政府や、各国の中央銀行による「テクニカルな対策」をいくら施したところで、「生活者全体の将来に対する不安」が消えるまで、世界の経済は収縮することになると思います。

とにかく、経済を動かすのは「人の心理」です。

将来に展望を持てれば、「今のお金は使いやすい」ですし、さらに良く観えれば、「今のお金で、将来のキャッシュフローを買い(=投資)やすい」わけです。

とにかく、「時間がかかる」わけです。

時間が経過するなかで何が起こるのかと言えば、歴史的に観ても、
「新規事業分野」、「新しいビジネスモデル」が、生み出されるわけです。

人や、お金や、資源が、新しく「将来に希望を持てるビジネス」にシフトすることによって、経済は再び活気を帯びてくるのではないでしょうか。

ある意味、「新規事業には絶好の時期」だといえるでしょう。

それは、新しい企業の場合もあれば、既存企業の新規事業部門の場合もあるでしょうし、既存企業のビジネスモデル転換の場合もあるでしょう。

2008年10月3日 板倉雄一郎

PS:
最近、心にしみる歌があります。
だれでも知ってる、様々なアーティストによって演じられてきたスガシカオの「夜空ノムコウ」。

「歩き出すことさえも、いちいち躊躇うくせに、つまらない常識など潰せると思ってた。」

なんか、自分のことのようで・・・





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