板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「組織の競争優位性」

「企業の根源的な競争優位性は、その組織構成と業務運営にある。」

と僕はつくづく思うのです。

商品の技術的優位性・・・それは確かに優位性としてあります。しかし誤解を恐れずに表現すれば「技術はお金で買える」わけです。

フランチャイズ権(=営業権)・・・わかり易く表現すれば「信頼されるブランド」ということになりますが、これもお金で買うことができます。もちろん買収後にそのブランド価値が毀損されてしまうことも多々ありますが。

マーケティングの優位性・・・それは確かに優位性としてあります。しかしマーケティングである以上、市場との対話方法ですから、その秘密を知ろうとすれば知ることができ、真似することができます。

その他「一見」その企業の優位性だと見なされていることの大部分は、実は真似ができたり、お金で買えたりすることばかりなのです。

では、以上のように真似したり、お金で買うことができない優位性とは・・・

当該企業の「組織の優位性」なのだと思うのです。

平たく言ってしまえば「企業は人なり」ということです。


すごく身近で「些細な」例を挙げてみたいと思います・・・

ある企業の企業内IT部門の従業員が、社内に新しくできたサーバーへのアクセス方法を、このサーバーにアクセスする必要のある従業員全員にメールを使って伝えたとしましょう。
暫くして、何人かから、
「頂いた情報ではアクセスできないのですけれど、どうすれば良いですか?」
といったメールが届きました。
アクセス方法を配布した従業員は、このクレームを得て初めて、自分が作成したアクセス方法に間違いが無いか調べたところチョットした「本当にチョットした間違い」に気づきました。
すぐさま訂正のメールを従業員全員に送り無事解決し「ことなきを得」ました。

良くある風景ですよね。
ところで、この一連の流れは本当に「ことなきを得た」のでしょうか。

間違った情報を受け取った他の従業員の中には、サーバーへアクセスができない原因を「自分の設定方法が間違っているから」と考え、何度も何度も試した場合もあるでしょう。
この設定のために、多くの従業員が就労時間を費やしたばかりではなく、せっかく集中して効率の良い状態になっていたのに、その効率の良い状態を放棄してサーバーへのアクセスに奮闘した従業員も居るでしょう。
つまり「ことなきを得た」とは、とても言えないわけです。

「些細なこと」であるからこそ、見逃され、同じような組織内部ロスが日に3回も起こっているとすれば、月に約100回起こるということです。結構大きなロスになるわけです。

このような「組織内部ロス」は、残念ながら損益計算書にはリストされません。
従って計器操縦を得意とする現代の経営者の目には留まりません。
この事態を知らなかった経営者は、組織効率を上げる余地があるにもかかわらず、それに気が付くことは無いでしょう。
つまり以上のような「組織内部ロス」は、「見えないロス」というわけです。

業務のIT化とは、業務の「レバレッジ」と表現することもできると思います。
レバレッジとは言わずもがな「リスク増大マシン」です。
アップサイドとして、生産的なことがより生産的になりますが、同時に、ダウンサイドとして、損失もまたより大きな損失に繋がるわけです。
従って、一従業員の「チョットしたミス」が「チョットしたミスで終わらない」という結果になるわけです。
(数年前、株式の誤発注によって多額の損失を被った証券会社があったことは記憶に新しいですよね。一方で一躍有名になったトレーダーも居るわけですが(笑))

【じゃあどうすればいいのだ!?】

このような問題が起こると、
大変だ!
だれが悪いんだ!
何が足りないんだ!
ほら予算割くからセーフティーネットをさっさと作れ!

となっていって結果は、

「見えるコスト増」と「増加するルール」

となる場合が多いのではないでしょうか。

従業員はどんどん増えるルールを「遵守」するために、より多くの時間を割かなければならなくなり、組織効率はどんどん低下するわけです。
そんなコストを支払うことによって得られる価値は、

「過去に起こった固有の問題が起こらなくなるだけ」

なのです。残念ながら。

ああ、ばかばかしい。

本当は「ある、たった一つの方法」を行い続けることが、実は最も効率が良いし、従業員も気持ちよく仕事ができるのに・・・

その方法とは、従業員に対する「教育」に他なりません。

自らが誰を顧客として捉えるべきで、
自らの業務が誰にどのような影響を与えることになるのか。
だからどうすれば良いのか自分で考えよう。

といったことの教育を「し続ける」ことが最も効率が良いのではないでしょうか。
こんな当たり前のことを十分に理解している従業員ばかりの組織であったなら、その組織はきっと素晴らしい組織だと僕は思います。
経営者にとっても、従業員自身にとっても。
そんな組織を実現するのは、言うまでもなく経営者の意思なのです。

ルール作れば問題を解決できるなんて考えは、経営者として浅はかすぎると思うのは僕だけではないでしょう。
経営に限らず、今、日本全体が「コンプライアンス」という言葉に翻弄され、どんどん効率悪くなり、つまらなくなっているのではないかと思うのです。

経営者も政治家も親も【人の潜在的能力】に目を向けてみる必要があると思うのです。
【人の潜在的能力】に目を向けることができれば、ルールより【教育】が何より重要であることに気が付けるのではないでしょうか。


2011年2月9日 板倉雄一郎

PS:
問題が「完全になくなる方法」なんて、この世にありませんのであしからず。
教育は「し続ける」ことが大切です。


PS^2:
なんだかね、何か問題が発生すると、
「本当にそれが原因?それを断てば問題は起こらないの?」
って思うようなヘンテコルール作りが目立ちます。

たとえば、秋葉原の無差別殺人は歩行者天国が本質的な原因ではないと思うわけです。
確かに歩行者天国によるレバレッジは働いたとは思いますけれど。
なのに歩行者天国を止めたと思ったら、今度は本質的な原因の何も解決していないのに、やたらと厳しいルールの元で再開したり・・・はぁ?って感じるのは僕だけではないでしょう。

「教育の力」=「人の潜在的能力」を信じられなくなっている世の中だと感じます。




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