板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「日本企業には作れないiPhone」

巷では・・・

「なぜ日本企業にiPhoneが作れなかったのか?」とか、

「技術力なら日本企業にだって作れたはずだ!」とか、
(っていうか、中身は、Macの初期から日本製なのですけれど)

そんな話が聞かれます。

今日は、そのあたりのことについて僕なりの意見を書かせていただきます・・・

 

結論:日本企業のシステムは、自分が欲しいと思うモノを作ろうとする独善的なリーダーを許さないから。

 

僕は10代からAppleのファンでありユーザでした。

高校生の頃、Apple II に出会い、欲しくて欲しくてたまらなくて、でも高くて(当時は、東レが独占輸入していて70万円ぐらいしました)買えずに、仕方なく、Sharp MZシリーズやFujitsu FMシリーズを、自分主催のコンサートからの利益や母親を騙したお金などを原資に買い、僕のコンピュータ人生がスタートしました。
(当時は8bitCPU・・・Z80やMC6809、6502など・・・にマックスで64kbyteメモリー、カラーは最高で16色という、今ではケータイ端末にも及ばないスペックでした。)

この頃、単なるユーザという側面だけではなく、ゲイツ氏やジョブス氏など、その後アメリカンドリームを実現することになるアントレプレナーにも憧れを頂くようになりました。

いつかゲイツ氏やジョブ氏に会えるような人間に成りたい!と。

(その15年後、ゲイツ氏から「お前に会いたい」とアプローチがあり、実際に1時間ほど商談をすることが現実になりましたが、ジョブス氏にはお会いする機会はありませんでした。詳しくは、僕の著書「社長失格」にて。)

ですから、彼らの商品ばかりではなく、アントレプレナーとしての彼らと彼らの経営する企業について深い関心があり、その後現在まで彼らの情報には特に注目してきました。

ジョブス氏とヴォズニアック氏が出会い、Appleが誕生したこと。

ジョブス氏が、Xerox社が提案するSmallTalkというGUI(Graphical User Interface・・・まあ要するに現在我々がマウスを使ってアイコンをぐりぐりやってる方式です)に感動し、後にLisaでカタチにし、Macintoshでビジネスとして成功させたこと。

ジョブス氏が、ハード&ソフトの「垂直統合モデル」であるMacを大成功させる一方で、ゲイツ氏は、ソフトウェアに特化した「水平統合モデル」を、DOS-V~Windowsと成功させ、後にシェアが逆転したこと。

(よく、「MicrosoftがMacのGUIをぱくった」と言われることがありますが、そもそもはZeroxのSmallTalkをジョブス氏がぱくったのが現在のGUIの始まりです)

ジョブス氏が、「経営はめんどくさい」ってことで(笑)、ペプシコから、「決してコンピュータオタクでもヘビーユーザでも技術に対する理解があるわけでもない」スカリー氏をヘッドハントし、その後、スカリー氏にジョブス氏がアップルから追い出されてしまったこと。

アップルの業績が低迷し、倒産寸前のところでジョブス氏が返り咲き、その後iPod iPhoneとヒットを連発し、現在に至ること。

そんな歴史を振り返ると、日本企業には技術はあっても組織の特性上、iPhoneのようなイノベイティブな商品を作り出すことは出来ないと思うわけです。

 

先日のエッセイで、今の日本企業には「顧客目線が足りない」と主張しました。

そして、「供給側に顧客が存在しないこと」を理由としました。

では、アップルの場合はどうなのか?

アップルには、顧客目線があるどころか、最高意思決定者(=ジョブス氏)自身が、コンピュータ、音楽、コミュニケーションという現在のICT分野における・・・

1、ヘビーユーザであり、オタクであり・・・つまり顧客目線を持っている
2、技術に強く・・・つまり「何が出来るのか」を熟知している。
3、理想が高く・・・つまり自分が納得する商品を作るまでがんばる。
4、先見性がある

という素性を持っているがゆえに、表面上は供給サイドから、「これでどうだ!」と唐突に出てきたように見える商品でも、その実、素晴らしい感性と知識と技術と先見性に基づいた顧客目線が確実に反映されているのだと思います。

つまり、供給サイドの人間が、「自らが欲しい!と思うモノを作っている」、というわけです。

 

しかし、以上の彼の素性は、あくまで素性であり、それだけでは「想い」をカタチにすることは出来ません。

彼の場合、以上の素性に加え・・・

「アップルの最高経営責任者という立場がある」

これが「想い」をカタチにする上で、極めて重要なことだと思います。

自分が想い描いた事業を実現するために・・・

1、納期がなんだとかより、納得するまで作る。
2、経営資源を最大限投入できる。
3、組織を都合よく編成できる(・・・その昔、彼は、エレベーターで出くわした社員が気に入らない場合、その場で「お前首」などとやっていて社内から嫌われてしまったぐらいです。)

そんな立場があったことです。

 

しかし、まだそれだけでも足りません。

自らが技術を理解し、お金を動せたとしても、「人を動かす」ことが実は極めて重要で、そして最も難しいことだからです。

この点において、ジョブス氏の場合は、それこそ彼の講演内容(←皆さんも読まれたことがあると思いますがスタンフォードでの有名な講演です)が世界中で読まれるほど、彼の「信者」を集めることが出来るという人格をも兼ね備えているというわけですから、「(優秀でセンスの良い)人を動かす」という点において極めて優位性があったといわざるを得ません。

 

以上のような、いくつもの「特異性」によって、彼らのビジネスは成功しているのだと思います。

 

さて、日本企業の場合はどうでしょうか・・・

予定調和の中で、合議を最重要と考え、誰か飛びぬけた才能を持った人間は煙たがられ排除され、企業のトップどころか、一プロジェクトのトップでさえ商品開発に没頭できずに組織の中で自由に活動させてもらえないのではないでしょうか。

その上、経営的判断を行う人間のほとんどが、技術も知らず、顧客も知らず、先見性も無く・・・ジョブス氏やアップルとの違いを書き出したらキリが無いですよね(笑)

そりゃ、iPhoneなんか作れなくて当然だと思います。

 

もちろん、日本型組織にも利点はあります。

たとえば、「システムとしての新幹線」などは良い例です。

誰か一人の才能や閃きに依存したのでは、危なっかしくて乗ってられないですよね(笑)

逆に言えば、アップルのような経営は、極めてリスキーだということも出来ます。

ジョブス氏のセンスが的外れだったらどうなっていただろうかと。

また、ジョブス氏が、オタクであり、ヘビーユーザであることの弊害も無くは無いと思います。

たとえば、iPhoneを実際にヘビーに使いこなす人が居る一方で、「楽しそうだから」と買ってはみたものの結局使いこなせなくてフツーの端末に戻る人も居ます。

 

つまり、日本型経営が常に劣勢であるわけでもなく、アップル型経営が常に優位であるわけでもなく、「商品の種類によって最適な組織がある」ということになろうかと思います。

ただ、閉塞感たっぷりの現在の日本経済において、そのバランスは、アップル型へ傾ける必要があると感じます。

つまり、「リスクを取る姿勢」が、現在の日本企業には足りないのだと思います。

 

企業人の皆さん、自らが「欲しい!」と思うようなものを作っていますか?

 

2010年3月19日 板倉雄一郎

 

PS:

ある意味、リスクたっぷりのビジネスから生まれた「結果としての成功策」を、ビジネスに取り入れたソフトバンクのやり方はポジに評価できると思います。
もちろん、アップルに結構ピンハネされるのですけれど。

 

PS^2:

金融の世界にも「一人の才能」が優位になっているケースがあります。

バークシャーハサウェイは、マンガー氏がアシストするものの、ほとんどの意思決定はバフェット氏一人に委ねられています。

だから数々の失敗が業績に影響を与えることはありますが、失敗を超える成功を常にたたきだしていますよね。

もし、バークシャーが複数のファンドマネージャによる合議・・・つまりそれはリスクヘッジという名の責任逃れの準備に過ぎないのですが・・・だったとしたら、今日までの超長期に渡る成功は不可能だったと思います。

 

PS^3:

先日のエッセイ ITAKURA’s EYE 「顧客目線が足りない」に対し、読者の方々から・・・

「iPhoneはどうなるんだ。供給側からの提案だろ」とか、

「顧客の意見を聞き過ぎるのも問題だ」などといった意見を頂きました。

僕は、あのエッセイで、「マーケットリサーチをやれ」といったような言い尽くされた小手先の手法について言及したのではありません。
(てかそんな風に読めるのかなぁ・・・当事務所のプレミアクラブのメーリングでは、特に注釈なしに以下の要点について議論されているんだけどなぁ・・・)

あのエッセイでも最も重要なフレーズは・・・

「従業員や取引先の立場として、顧客が「欲しい!」と思うようなモノやサービスを作っているのか?」

というところです。

本日のエッセイでお伝えできたのではないかと思いますけれど。





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