板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「特効薬は無い」

先週の木曜日、ニューヨークで暮らすお友達(“お”をつける場合は女性)と電話で話していました。

会話の中で、

「Lehman Brothersのオフィス前に報道陣がたっくさんいる」

という話が出ました。
この件に関して、それ以上の話はしなかったのですが、なんとなく気になり、先週金曜日、10月限N225プット12,000円を少々「買い」ました。

もちろん、この時点では、OTM(←Out of the Money.)

(僕は、オプション取引などいわゆるデリバティブについては、日本市場ではあまり発達していないこともあり、ほとんど取引しませんが、価格変動予測が「ほぼ確実」な場合には、純資産のほんのわずかを投じる場合もあります。
しかし、損失がどこまで膨らむかわからない「売り」は絶対に行いません。)

週末、リーマンがChapter 11(←連邦破産法11条)の申請を行ったというニュースが流れました。

正直な話、「ラッキー!」

火曜日、わずか四日間(営業日数にして二日間)で、ITM(←In the Money)、投資額は2.5倍。

およそ一年分の「お食事会費用」を捻出することができました(笑)

読者の皆様には、詳しくお伝えしていませんでしたが、ここ一年(正確には、2007年11月以降)は、Long Term Long positionという投資の王道を行う環境にはありませんでしたから、ちょこちょここうした「投機」に勤しんでいます。

ただし、朝から晩まで、ニュースフローと価格変動を追いかけながらトレードを繰り返すようなことは、そもそも僕には不向きですから、「価格変動がほぼ確実に予測できる」状態を見つけたときにだけ、純資産のほんのわずかを博打に投じる程度です。

現在の米不動産バブル崩壊から始まった世界的な経済の混乱に対して、各国の政府や中央銀行などが、財政出動、公的資金注入、金融政策、為替介入、口先介入などを、行ったり、行おうとしたり、行うフリをしたりしています。

また、「こんなことになったのは誰のせいだ!」などと犯人探しをする向きもあります。

しかし、誰か一人、や、一つの組織、や、一つの業界だけの仕業が原因となり、世界経済が致命的なダメージを受けるという思考に問題があると思います。
同様に、各国の政府、や、著名投資家(たとえばバフェット氏が次なる火種AIGの救済をするとかしないとかがニュースになっています)が、世界的な経済混乱を解決する!なんてこともありえない、と僕は思います。

世界の人々(特に金融に関わる方々)が、貪欲に富を求め、「みんなで渡れば怖くない」という比ゆがぴったりの順張りトレードが本質的な投資リスクを忘れさせた結果、こんなことになっちゃったわけです。

したがって、「誰かが何とかしてくれる」という考えも通用しません。

つまり、「特効薬は無い」のです。

世界の投資家が、これまでの損失を消化し、清算し、再びシコシコ働くことに回帰する過程で、やっとこさっとこ、「先行き明るいかも!」と思えるような環境になるのだと思います。

つまり、「時間がかかる」わけです。

エコノミストの多くは、「株価の底入れは11月~1月」という予測を発表しています。
僕も、もろもろの情報や統計をあわせて考えると、確かにその時期に「一旦」底入れすると思います。
けれど、その後、順調に世界の株価が回復「し続ける」とはぜんぜん思いません。

高度に発達した金融システムのおかげで、世界経済は「カップリング」しています。
(「デカップリング」なんて話は、寝ぼけた話だと以前から思っていましたし、関連するエッセイも複数記述してきました。)
どこかの国のローカルな問題は、あっという間に(程度の差こそあれ)世界に伝播します。
その「どこかの国」が、GDP世界最大のアメリカとなれば、それが1年やそこらで解決の糸口が見つかるなんてことも考えにくいと僕は思います。
経済が金融システムを通して、複雑にリンクしていることを前提にすれば、リーマンの破綻は、あらゆる無謀な経済活動の「結果」でもあり、更なる混乱の「原因」でもあるでしょう。

とてもとても、「これが最後の膿だし」だなんて思えません。

悲観的なことばかり書きましたが、見方を変えれば、「投資チャンス(価格 << 価値)は、確実に近づいている」と言えます。

現在の相場は、様々な投資対象の「本質的な価値の下落」が、なんらかのニュースによって表面化し、それを市場価格が「追いかける」状況になっていますが、市場価格とは「常に行き過ぎる」ものですから、次第に、「本質的な価値」を大幅に下回る市場価格が形成される時期は来るものです。

それまでは、「お食事会」ですかね(笑・・・冗談です。そろそろお食事会にも疲れてきました)

(自分のモードを振り返ると、現在のようなお食事会モードは、過去においては「懲りないくん」時代ですが、当時(=2001年~2002年)も、現在のように株式相場は低迷していましたよね。2002年に相場が底入れした頃から、仕事モードになったことを思い出します。)

売れないときに、無理して売らない。
儲けられないときに、無理して儲けようとしない。
しかし、売れるチャンスには、たっくさん作ってたっくさん売る。
儲けられるときには、(多少の)レバレッジを効かせても儲ける。

こんな合理的な態度で臨むためには、「固定費」を抑えるビジネスモデルを構築することです。

たとえば僕の場合、ホテルにも宿泊しますし、割と高級な車を複数台所有しています。
そして、毎夜お食事会にて浪費もしていますし、その後のデートにも相当お金を使います。
けれど、以上は、「いつでも思い立ったその日から自粛することができる費用」です。
生きていくために必要な「生活固定費」は、恐ろしく小額です。

板倉雄一郎事務所のビジネスモデルも、「完全なイクイティー組織」ですから、固定費はほとんどありません。
パートナーミーティングは、土曜日の早朝に、お台場から東京のビル群を眺めながら、ブレックファーストミーティングという「一見贅沢」をやっていますが、一方で、固定費としてのオフィスは持っていません。

固定費が少なければ、無理して売らなくても大丈夫です。
あらゆるチャンスを、焦ることなく「客観的に見守る姿勢」を維持することができます。
チャンスを待つ間、いろんなことを勉強することができます。
稼ぎに直結した作業に没頭することなく、自分の知識や経験を増やすことができます。
それは、将来の(チャンスがめぐってきたときの)効率的な稼ぎに繋がります。

僕は「稼ぎたいなら、まずは勉強しようよ」と思います。
けれど、「資金繰りに追い回されている人」、「他人の稼ぎに嫉妬する人」の多くは、自分に対する投資をする時間的資金的余裕が無い人ばかりだと思います。

2008年9月17日 板倉雄一郎





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