板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「既得権」

既得権者から権利を奪うためなら既得権者を買収すればいい。
既得権者の権利を無効化するためなら新しい既得権を創造すればいい。
どちらにせよ成功したら、あなたも立派な既得権者になれる。
後は非既得権者からの攻撃をかわすために既得権を大いに利用すればいい。
既得権とはそれほど価値のあるものだ。
既得権の奪い合いこそ経済を活性化させる原動力なのかもしれない。

このところネットで情報・・・それはブログでも、ツイッターでも、掲示板でもなんでもいい・・・を観ていると、既得権者と非既得権者という構図が浮かび上がる。

ここでいう既得権を仮に「過去の努力によって得た何らかの優位性のある権利」とでもして話を進めたい。

通信や放送を司る電波をめぐる争いにおいても、
出版社や新聞社そしてテレビ局といった既得権者とネットインフラの間においても、
経済価値の大部分を所有する高齢者と持たざる若い世代の世代間においても、
官僚と政治家においても、(重鎮とされる政治家と若手政治家の間においても)
あらゆる議論の背景に、既得権者と非既得権者という構図が見受けられる。

非既得権者の主張は概ねこうだ・・・
「既得権者は、既得権に胡坐をかき、価値提供に見合わない報酬を得ている。価値提供に見合う報酬を誰もが得られるように既得権を開放し、自由競争による適正配分をするべきだ!」

他方の既得権者の主張は概ねこうだ・・・
「そんなことをしたら(情報などの)秩序が乱れ品質劣化が避けられない。」
という表向きの主張に加え、本音では・・・
「これまでの絶え間ない努力によってやっと現在の地位を手に入れたんだ。簡単に明け渡すわけにはいかない。」
という想いもあるのだろう。

さて、どちらが、どのような立場の人にとって、正しいのか?

非既得権者に見える者の中でも、それを高らかに主張する者の中には、資本や発言力や社会的地位など過去に築いた何らかの既得権を利用している者も少なくないし、そもそも彼らが目指しているのは、既得権の獲得の場合が多い。
他方の既得権者においても、過去に既得権者から既得権を奪うことにおいて何らかの努力を積み上げたからこそ現在の既得権を得ているのだろうと思う。
(もちろんどちらの場合にも例外はある。)

既得権者IBMからパーソナルコンピュータの覇権を奪ったMicrosoft。
しかしMicrosoftは、後発ベンチャーの立場から見れば、すでに既得権者である。
Yahoo!の下請け(と言っては失礼かもしれないが)だったGoogleもMicrosoft同様、ネットの覇権をYahoo!から奪い既得権者となり、今度はYahoo!の検索エンジンを「提供してあげる立場」になった。
このように、既得権者の懐に入り込み、そして既得権者から既得権を奪う競争がある一方で、Appleのように「自らが新たな市場を創造し、その既得権者になる」というケースもある。

こういった競争や争いを観察すれば、どちらが正しいかといった議論より、「既得権者と非既得権者の直接的・間接的な争いそれ自体が、経済を成長させる原動力」であることに気がつく。

したがって、「どちらが正しいか」とか、「自分はどちらの部類に属するのか」といった「VS構造」に巻き込まれても、本質的解決は得られないと思う。

たとえば電波の利用権について、それをオークション方式で割り当てればよいといった非既得権者による主張がある。
僕はこの考えに基本的に賛成ではあるが、つまるところこの方式であっても、資本という既得権の一種による支配を可能にするという点において、必ずしも非既得権者に有利な方法とはいえないのではないだろうか。
(余談だが、オークション価格が高騰すれば、国庫金の増収にもなるが、通信サービス価格に転嫁され、一般利用者の負担増に至る可能性もある。)

VS構造から何らかの解決を得ようとするより、より大きく構え「日本経済の成長のためには」という視点で捉えたとき、先のコンピュータ・ネット業界の例を参考にして見えてくるのが、「既得権者と非既得権者が適度な競争ができる力のバランス」が大切なのだと思う。

現在の閉塞感たっぷりの日本経済においては、そのバランスが少々既得権者に傾斜している。
どちらかといえば、非既得権者を本能的に応援したくなる性質の僕は、以上のように思う。

2010年8月6日 板倉雄一郎

PS:
現在8月6日07:00、Twitter止まってる!?
せっかくブログ更新したことをつぶやこうと思ったのに・・・




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