板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「成熟社会でのケインズ経済学」

結論から書きますが、経済や社会が成熟した国家(・・・北米、欧州、日本など)では、ケインズ経済学(・・・不景気のバラマキ効果)は機能しない。と思います。

経済誌の紙面上、そして、株価・・・それらは、「持ち直してるぞ!」と感じさせるような数値、指標、コメントが載ることが多くなりました。

で、本当に経済、とりわけ日本経済は「底打ち」しているのでしょうか?

僕は、「肌感覚」で感じる範囲・・・交通渋滞状況、生活のアップサイド(たとえばホテル利用など)の状況などから・・・

「底打ちどころか、益々悪くなっている」

と感じますし、そういわざるを得ません。
(具体的ケースは割愛します。)

 

バラマキには、大きく分けて三つの方法があります。
一つは、減税や「子育て支援」など、生活者のキャッシュフローをダイレクトに刺激しようとする政策。
二つは、低金利政策や量的緩和、強いては現在の中国が行っているような金融機関に対する融資積極化目標といった間接的に景気を刺激「しよう」とする政策です。
三つは、公共事業。

一つめの場合、生活者がどれほど足元のキャッシュフローの支援を受けたとしても、「先行き不安」がある以上、それを消費に回す前に、将来のダウンサイドリスクを回避するために「貯蓄」に回してしまうために、バラマいた資金以上の成長が期待できない可能性があります。
(日本の場合、国民によって貯蓄された資金は、間接的に「バラマキ原資」としての国債購入に回されるので、グルグル回るだけで、「国債価格の底上げ(=国債利回りの抑え込み)」に貢献しているだけです。)
また、二つめの場合、ITAKURA’s EYE 「必要条件と十分条件」で書いたとおり、どれほど金融機関の融資環境が改善しても、焦げ付く恐れの高い企業や個人には融資しないわけで、本当に資金の必要な企業や個人には資金が回らないわけです。
それどころか、本来事業継続のための資金など必要の無い財務的に優良な企業や個人にばかり資金が行き渡る結果、その資金が株式、不動産、コモディティーなど、いわゆる投機的な運用に回り、その結果、実態に合致しない株価、不動産価格、コモディティー価格などの上昇となって現れ、最悪の場合には、資源を諸外国に依存する(←自給率の低い)日本などの輸入インフレ⇒スタグフレーションに至る可能性さえあります。
さらに、三つめの場合、言わずもがな、事業の業務を請け負う特定の者に対するバラマキに限定され、運が良ければ、その事業による間接的な経済効果を、国民が受けられる場合もあるが、投資額に見合った経済効果が得られる場合は極めて少ない(笑)

いずれにしても、成熟社会(=過度な成長を期待できない社会)の場合、ケインズ風バラマキは、経済浮揚への効果が薄いと考えます。

 

以上を包括的に捉え、行く末を予測すれば、「益々格差が拡大する」ということになろうかと思います。
財務的に健全な企業や個人(←本来追加の資金調達など必要の無い企業や個人)は、潤沢で資本コストの極めて低い資金を手に入れ、運用に回し⇒それなりの運用益を得る。
しかし、事業継続や生活継続のために資金が必要な企業や個人には資金が回らない。
結果として格差が拡大する。

 

話が飛びますが、世界的に観て、日本が最もその経済モデルの上で、不利な条件が揃っていると感じます。
自給率の低さがゆえに、輸出に頼らざるを得ず、したがって諸外国の経済状況に翻弄される。
少子高齢化人口減少を前提にすれば、内需も期待できず、さらに内需を政策によって浮揚させれば、自給率の低さから(資源確保のための資金流出として)国富の流出となる。
食糧や資源ばかりではなく国防においても、外国(この場合米国)に依存する上に、地理的な周辺には様々なリスクが存在する=日米対等などありえない。
国民の将来を最低限保証するはずの公的年金や社会保障の原資が危ぶまれている。
政府の借金(は、幸いにしてその債権者が同国民であるけれど)は、若い世代に負わされている。
そして、そもそも先行きに対する希望など持てるはずも無い政策や社会の状態。

 

日本は、その経済モデルそのものを根本から改革しなければ、先が無い。

僕はそう思います。
でも、そういったことを主張したり、改善したりするのは、僕の仕事ではなく政治家の仕事です。
けれど、そんな声は聞こえてきません。
聞こえてくるようになることを、期待します。

 

2009年9月16日 新政権の組閣に添えて 板倉雄一郎

PS:
こういった大上段に構えた風の話って、ウケ無いんですよね(笑)
「自分のお金の増やし方」みたいに、個人的で、すぐにお金が稼げる話にばかり興味を持つ人が大多数。
だからこそ、訴える必要がありますし、だからこそ、経済の失策は繰り返されるんですですよね。

このところ、ウォール街では、金融危機など昔の話とばかりに投機活動を楽しむ輩が復活しているようですし。

まっ、こんなことを繰り返しながら、人類は自らの首を絞めつづけるのでしょうけれど。

 

PS^2:
最も根本的に日本モデルを改善する方法は、ぶっちゃけ「人口減少」しかないのだと思います。
それを国民が肌で感じ、その結果の少子高齢化人口減少という現象となって現れているのだと思います。
一人当たりのGDPを維持または向上させつつ、無理な人口増加策をとらない。
そんなことを票田を意識しながら仕事する政治「屋」が言うわけ無いですけれど(笑)

もちろん、人口減少の過程では、人口ピラミッドが歪になり、若年層の負担が極端に増えるでしょう。
けれど、もし「子々孫々のことを考える」のであれば、現在の若年層の先にも、これから生まれてくるであろう更なる若年層もあるわけですから、彼らのことも考えつつ、国土が許容する範囲の人口にとどめるという考え方も長期的な視点に立てば「あり」だと思います。

どれほど技術や社会が成熟しても、人間は所詮人間。
食べたり(水を)飲んだり、電気つけたり、移動したりしなければ生きていけないわけです。
技術進歩による社会的な恩恵が人口増加によって打ち消され、一人ひとりの生活の豊かさは変わらない。
人口が減少する社会というのは、そもそも、人口を減少させなければ成り立たないという一人ひとりの肌勘のなせる「業」なのだと思います。

GDPが中国に抜かれたからってどうってこと無いじゃないですか。
要は、一人ひとりの豊かさですから。

でも、一旦豊かになり始めると、人口が増えだして、結局同じなんですけれどね(笑)





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