板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「経済成長の条件」

「経済成長の条件とは、倒産件数の抑制ではなく、起業件数の増加である。」

と僕は思います。

つまり、失敗を防ぐことや助けること(≒所得保証やROIの低い公共事業などのバラマキ)を止め、スタートアップを妨げる制度の廃止やスタートアップを容易にする法制度(エンジェル税制など)の充実こそ、経済成長に貢献する政策だということです。

同時に「スタートアップの増加」=「(近い将来の)経営破綻の増加」でもあるので、失敗を吸収できる仕組み(主に金融)の実現も必要です。


現在、世界規模で観て経済的に「元気な地域」として「シリコンバレー」が挙げられます。
乱暴に表現すれば、マイクロソフト以外のIT関連企業のほとんどがこの地域に集約していると言っても「過言ではあるが」怒られはしないでしょう。

シリコンバレーで起業したベンチャーが3年後に残っている率がどれほどであるかご存知でしょうか。
僕が知っている10年ほど前の統計(どこの統計だったか失念)では、わずか3%!
つまり100のスタートアップのうち3年後に残っているのは3社だけ!
というわけです。
(統計を取る時期や統計の取り方そのものによって結果は異なるでしょうけれど、大多数のスタートアップが失敗に終わるということは間違いない事実です。)

それでもかの地域は元気です。なぜでしょう・・・

話を簡単にするために・・・
1、スタートアップのファイナンスは全てイクイティー(資本)による
2、VCから100社の全てに1億円を均等に投資する
3、生き残った企業はスタートアップから5年後に100倍の企業価値を創造する。
としましょう。
(この条件の理由を一つ一つ説明すると長くなるので割愛しますが、非現実的な条件ではないこを保証します。)

ベンチャーキャピタルが100社それぞれに1億円出資するわけですから当初のキャピタルは総額100億円です。
3年後、統計に従って97社が倒産(もしくはM&A)し、97億円分の株式が紙切れ(M&A分をのぞく)になります。
しかしながら生き残った3社がスタートアップから5年後にスタートアップ時の100倍の企業価値(=有利子負債が無いので企業価値=株主価値)に成るので、1社100億、3社で300億の株主価値に成ります。
従って、スタートアップした100社のうち97社が失敗したにもかかわらず、ベンチャーキャピタルは5年間で200億(=5年後の時価300億ー初期投資額100億)のキャピタルゲインを得ることができるというわけです。(このケースの場合のキャピタル全体の利回りは年率およそ30%となります。)

これを僕は「イクイティーマジック」と表現していますが、まさにデット(Debt=有利子負債)では実現不可能な仕組みです。
(ちなみにデットの場合、融資額の数パーセント分が倒産しただけで儲けがなくなってしまいますし、自己資本比率の低さから融資額の10%分も倒産すれば自らも破綻します。従って「失敗を許容できません」=「チャレンジを受け入れません」)

このイクイティーマジックでは「お金」の部分だけを表現しましたが、実はその背後に、人(雇用と労働力)、モノ(物理オフィスや通信インフラなど)も同様に「地域内で生かされている」という事実があります。

たとえば、人については、倒産することになるスタートアップに帰属していたとしても(個人の能力次第では)生き残った企業に吸収され、労働力を提供し賃金を頂くことを継続できますし、イクイティーマジックの一効能としてストックオプションによる資産形成も夢ではないわけです。

また、モノについては言うまでもなく、所有者に変更があるだけで機能は継続される訳です。

つまり、
経済が停滞した「結果として」倒産件数や倒産額の増加は統計上認められるが、会計単位の破綻件数や破綻額が経済停滞の「原因ではない」。
のです。
また、企業が倒産する理由は「資金繰り破綻」にあるわけですが、資金繰りが破綻するということは、それだけの資金を「使った」=「社会にバラまいた」わけです。当該企業の利害関係社にとっては損失であり残念なことではありますが、地域や社会全体に取ってみれば「お金が動いた」という事実となり、経済成長の一役割を果たしているとさえ言えるわけです。

以上から、冒頭で述べた、

「経済成長の条件とは、倒産件数の抑制ではなく、起業件数の増加である。」

がおわかりいただけるのではないかと思います。

今、この国に必要なことは、スタートアップの増加です。
古いパラダイムを内部から変化させることより、新たなスタートアップの方が遥かに効率が良いのです。

2010年11月30日 板倉雄一郎




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