板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「自己主張のリスク」

巷にある商品やサービスを「自己主張」で分けると、
「自己主張系」と「顧客に媚びる系」にわけられると思います。

アップルなどのような「ライフスタイル提案」という自己主張と、
日系企業の特にケータイやスマホのような「機能詰め込み型」という顧客に媚びる系と対比すればわかりやすいかと思います。

TVCFなどで見る最近の日系企業が提供するスマホは、それはそれは「これでもかぁ!」と「従来の機能」を詰め込んだ機種が目立つように感じます。

お財布機能あり、高機能カメラあり、タッチパネルもあるがプッシュボタンもあり、ワンセグあり、スマホだがi-modeメールもあり、アンドロイドアプリもあるがi-modeアプリもあり、一部機種には「それが特徴なのだ!」ということで万歩計やゴルフのスイングチェックもあり、Wi-Fiも赤外線もあるがBluetoothもあり、とにかくなんでもあり。

確かに全ての顧客の「調査上の」リクエストに応えた場合の正しい答えだと言えなくもありませんし、これらの機能の網羅性を購入の理由にする方も少なからずいらっしゃると思います。

しかし・・・

1、そんなケータイは「どこの企業でも作れる」わけですから競争優位性は見つけにくい。

2、沢山の機能を組み込んだは良いが、ユーザーインターフェイスという最も大切なデザインに優れた機種を見た事が無い・・・つまり購入条件をまんべんなく機能として提供しているが、購入後に結局使いにくく、中長期的に顧客を逃す可能性もある。

3、新しい機能を追加し続けなければ商品価値が時間経過とともに減少するから、次々に新商品を提供し続けなければならない・・・つまり開発費が継続的に大きくなる。

つまり、商品やサービスを提供する企業が「一体何をしたいのかさっぱり分からない」という傾向が見て取れます。
一つ分かる事は「お金儲けがしたいのね」だけです(笑)

他方、自己主張型は、例えばアップルであれば「なるほどライフスタイル提案がしたいのね」と、その企業が顧客に対して何をしたいのかが割と明確です。

幸い、その提案が顧客に受け入れられれば
「あの機能も無いし、この機能もないけど、でもカッコいいから欲しい!」という、その商品を使う事による自らの「新しいライフスタイルを買う」という付加価値を提供できるのだと思います。

その結果、
1、ブランド・ロイヤルティーの高い顧客を創造できる。
2、その結果、割と高額の付加価値料を請求する事ができる。
3、その結果、多大な営業キャッシュフローを手に入れる事ができる。
4、その結果、十分な投資キャッシュフローを割く事ができる。
5、と同時に、何に投資キャッシュフローをつぎ込むべきか自明である。

つまり、顧客を含む当該企業の成長が期待できるというわけです。

なんだかいい事だらけですよね。

しかし、どんなスタイルの経営にもリスクはあります。
先に「その提案が顧客に受け入れられれば」と註釈した通り、自己主張の強い企業が生み出す商品は、すなわち「エッジが立っている」わけですから、もしそれが顧客に受け入れられなければ、多大な損失を被りますし、下手すると倒産する可能性もかなり高い確率であります。

つまり、自己主張型はリスクが高く、顧客に媚びる系はリスクが小さい。

いつも断っている事ですが、「リスク」とは「不確実性」を意味します。
ウマく行った場合のアップサイドも大きいが、
ウマく行かなかった場合のダウンサイドも​大きい。

どちらのスタイルが「優れた経営」であるかは、実は良く分からないのです。

しかし、自己主張型というリスクテイク方式をポジティブに捉えれば、そのエッジの立った提案が顧客に受け入れられれば、ブランドロイヤルティーの高い顧客に恵まれることになり、それは将来に渡り、比較的安定した成長を期待でき、結果としてローリスク・ハイリターンの成長を得られる可能性があると言えます。

また、顧客に媚びる系というリスクヘッジ方式をネガティブに捉えれば、大失敗したり倒産したりするような事は無いにしても、将来に渡り、ひたすら「媚びる人」を演じ続けなければならないという問題を排除できないわけです。

どちらが優れた経営であるかは、このように「見方」、つまり経営者が「何をしたいのか」に依存するわけですが、一つ最も主張したい事は、

「日本企業には、リスクテイクの姿勢が少なすぎる」

ということです。

集団合議を最重要とし、誰かエッジの立ったワガママ君を排除する傾向がその根底にあるのだと思います。
「あの馬鹿」ばかりでは困ったことになりますが、
「あの馬鹿にやらせてみよう」の要素をもっと採用すべきではないでしょうか。

足下のリスクから逃げてばかりいれば、リスクの貯金ができてしまい、将来のある時点で貯まったリスクが顕在化するというリスクを忘れてはならないのだと思います。

はっきりお断りしておきますが、僕は「日本企業も日本もダメ!」と主張したいのではないのです。日本企業が持つ技術力を、もっと上手に生かそうではないか!と主張しています。
また、アップルの真似をすべきだ!と主張しているのではないのです。
アップルのような企業を創りたければ、アップルの真似をしない事なのです。
それがアップルがアップルたる所以ですから。

日本企業は、日本企業らしい方向性を見つけなければならないのです。
このままじゃ、東南アジアに間違いなく負けてしまいます。


2011年7月21日 板倉雄一郎

PS:
エッジの立った個人に委ねるケースとしてアップルを取り上げた記事・・・

PS^2:
金融システム的にも、日本は未だにイクイテイーよりデッドに頼る傾向が強いですよね。
これも「あの馬鹿にやらせる可能性」を排除する、決して小さくない原因です。


PS^3:
比喩が適切かどうか分かりませんが、AKB48の「愛実」は、CGによる「いいとこ寄せ集め」だから、確かに「奇麗」だと感じますが、いわゆる「そそられる魅力」は感じません。
「愛実」のように「奇麗」ならまだ良いですが、ただただ便利機能を寄せ集めただけでは奇麗にさえならないのではないでしょうか。

PS^4:
まだ完成していない段階ですが【Google+】を見ていると、「あれ?Googleも媚びる系に突入?」と感じなくもありません。

PS^5:
どんな企業も、規模の拡大と共に、いずれは「媚びる系」に移行して行くのですけれど、規模が拡大しても「自己主張系」を貫いているところが、アップルのスゴイところだと僕は感じます。




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