板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「できレース」

たとえば、過去数年間の長期に渡り、営業利益がマイナスの「事業」があったとします。
この事業のバランスシートの資産には、市場価値10億円ほどの不動産が含めれていたとします。

この場合の、「事業価値」は、事業がキャッシュフローを生み出していないわけですから、事業を継続する以上、ほぼゼロ。
むしろ、「ただでもいいから売っぱらってしまえ!」、というのが事業価値の視点で観れば合理的な判断だといえます。
売ってしまえば、少なくとも営業赤字によるキャッシュアウトを防ぐことができるわけですから。

しかし、事業を分解バラバラにした場合の売却可能な「資産価値」は、上記の定義にあるように、不動産だけで10億円ほどで第三者に売却可能だとすれば、少なくとも10億円はあるわけです。

 

「かんぽの宿」の問題は、もはやファイナンス上の話ではなく、人事、郵政民営化の是非、そして政局にまで発展してしまっていますが、「お金」の面で観れば・・・

1、買い手にとって、過去にその事業にどれほど投資されたかは、価値算定に無関係。
2、買い手にとって、事業継続が売り手の条件であるとすれば、事業の妥当な価格は限りなくゼロ。
3、売り手にとって、「事業価値」 < 「(分解バラバラの)資産価値」 であれば、「資産価値」に基づく価格で売却することが合理的。

ということになります。

「かんぽの宿」のケースでは、「事業継続(≒従業員の一定期間の雇用義務)」という条件を郵政側がつけたことによって、事業価値が限りなくゼロに近づき、資産価値を無視した「事業価値」に基づく価格での売却の話が進んでいたわけですが、これは、買い手にとって観れば、「事業継続のお約束期間が過ぎるまで、ちょっと我慢してれば、価格以上の資産が手に入る」、というメリットがあります。
事業継続期間が過ぎた頃に、当初引き継いだ事業を止めてしまえば、純粋に不動産が手に入るわけです。
もう少し詳細に表現すれば・・・

「事業継続期間に垂れ流すであろうキャッシュフローの割引現在価値」・・・(a)

「事業の買収価格」・・・(b)

に対して、

「不動産価値」・・・(c)

が十分に高ければ、買い手にとって、「やったぜ!」って話になるわけです。

僕が、ザックリ外部から見える範囲で評価すれば、

(a) + (b) <<<<< (c)

と、あまりにも不動産価値の方が大きいと思います。

価値と価格の裁定余地が十分にあるわけです。

なんだか、「できレース」な感じが否めません。

そんなところが、鳩山氏が気に入らなかったことなのだろうと思います。
しかし、鳩山氏は、このような「論理的説明」ができなかったことがまずかった。

論理的説明ができなかったばかりではなく、

「過去に〇千億円かけて作った『かんぽの宿』が、〇百億円なんておかしい!」

とかなんとか、少なくとも、買い手にとってはどーでもいいこと、というか、経済価値を算定する上で何の根拠にもならないことを訴えていたことも、財界から相手にされなくなった原因では無いでしょうか。

 

 

最初から、事業の継続条件など付けずに、事業を停止し、純粋な「不動産価値」として入札し、売却すればクリアだったのではないでしょうか。
もちろん、その場合、かんぽの宿の従業員は、首になるか、郵政の他の部門への異動になるか、一部は売却される不動産と共に、買い手に再雇用され事業を継続するのか、いずれにしても、彼ら従業員にとって好ましくない結果になろうかと思いますが、この際、「しかたのないこと」の範囲だと思います。

純粋に、お金の面、として公に議論されていれば、現在のような面倒な問題に発展しなかったと僕は思います。

経済的な取引に、余計な思惑や人事などが絡むことは「良くあること」ですが、そういった「売買契約書に明記されない暗黙の了解」がたくさんあると、売り手にとっても、買い手にとっても、後遺症に悩むことになるわけです。

こういう暗黙の了解系の話、僕はめんどくさくて嫌だなぁ~と思います。

国会政治って、本質的には、国民≒有権者≒納税者が主役じゃ無いのでしょうかねぇ。

 

2009年6月15日 板倉雄一郎

 

PS:
「かんぽの宿」の問題は、本質的に「経済的取引」なはずですが、テレビ番組などでは、本エッセイの本文のような「経済的取引の検証」という側面はまるで扱われず、「政局」の話ばかりですよね。
そんなメディアの体質(≒視聴者の趣味嗜好≒有権者の判断基準)が、政治を「劇場化」し、問題の本質を忘れさせ、結果として、「一部の者の儲け」が確実になっていくわけです。

PS^2:
そういえば、GM破綻で、担当する「弁護士事務所」は、どんだけ稼ぐことになるんでしょうかねぇ・・・

いつでも、世論の注目の外で、たんまり稼ぐ人がいるものです。

それ、常に忘れないようにしないとですね。

「これって、一体誰がたんまり儲かる事件かなぁ?」って。





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