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ITAKURA’s EYE 「(国債発行)絶対額より金利変動が問題」

新規国債発行額が50兆円台に上ると、本日(2009年10月20日)の日本経済新聞(本紙)1面トップで扱われています。
記事の内容を見ても、国債発行の「絶対額の大きさ」についての記述が大部分を占めます。

さて、その絶対額を、税収との比較、GDPとの比較などから見て、「そりゃ大変だ!」と感覚的に理解できる人って、一部の経済通以外に居るのかなぁ?と思います。

赤字国債の発行は今に始まったことではありませんから、毎年騒いでも仕方ないのですが、毎年騒ぐ割には、一般庶民にとって、「さて、一体何が問題なんだろう???」、と、「?」がいくつも付くような感覚なのだと推測します。

「毎年騒いでいるけれど、税率が高くなったわけじゃないよね」とか、
「いろんな支援が受けられそうだから、いいんじゃない!?」とか、
そんなところが一般庶民(←とはいえ有権者であり納税者)の感覚なのだろうと推測します。

また、幸いにして、「今のところ(←国債が消化されているうち)は」、国債保有者(←債権者)の大部分(90%以上)が、日本国民もしくは、日本人がその利害関係者の大部分を占める企業(またはその年金など)であって、「対外債務」ではありませんから、為替の影響を少なくとも直接は受けることも無く、日本全体を会計単位としてみれば、「一家の中で、じーちゃんばーちゃんが、息子家族にお金を貸している」だけの話ですから、過去のブラジルやアルゼンチンのような結末には至らないわけです。
その上、国債発行によって調達したお金がバラまかれる対象にとっては、「国の借金増なんかより目の前のお金」の方により興味がありますから、なおさら、「何が問題なの???」、となっても不思議ではありません。

せいぜい、「国債は買わないほうがいいのかなぁ???」、ぐらいが関の山でしょう。

確かに、「新発国債が市場によって消化されている間」、は、そんな一般庶民の感覚は変わらないのだと思います。

しかし・・・

ひとたび、国債消化が順調に行われない事態になったとしたら・・・

長期金利上昇(←国債価格下落)」が発生します。

長期金利が上昇するということは、「その国で、最もリスクが低い(とされる)投資対象の利回りが上昇する」ということを意味しますから、よりリスクの高い投資対象(・・・個別企業の株式、個別企業の債券、住宅ローン、そして短期金利)の金利上昇、または投資家の期待収益率の上昇に伴う価格下落が発生することになります。

当然ながら、国債費もその支払利息の増大によって増加します。
(ただし、過去に発行された利率固定の国債の利払いは満期まで一定ですから、その分に関しての政府のキャッシュアウトは増加しません。しかしその後の新発国債の表面利率は上昇します。)

この金利上昇によって初めて一般庶民が、「あっ痛ててててぇ~~」と、「実感」するわけです。

「金利上昇は、預金金利も上昇させるから、一般庶民においてもマイナスばかりではない」

とかいう主張を聞くことがありますが、そもそも預金金利によって懐が暖かくなるような人は、主に、じーさんばーさん(ごく一部の富裕層)ですから、それが経済活性化に繋がるはずもありません。

多くの消費意欲のある世代の家計において、金利上昇=家計圧迫となると推測します。

金利上昇して初めて、一般庶民が、「大変だぁ!」、となるわけであって、「〇〇兆円の赤字国債発行!」とか、「国債残高〇〇〇兆円!!!」、なんて気が遠くなるようなスージは、少なくとも一般庶民がピンと来るわけじゃないですから。

それでも、メディアでは、新発国債の「絶対額」、国債残高の「絶対額」ばかりが取り上げられる傾向にあるのが不思議です。

「まだまだ、買い手が居るから」、ってことなのでしょうか?
「金融機関に無理やり買わせるから」、ってことなのでしょうか?
「ゆうちょ」のお金を自由に使えるとでも言うのでしょうか?

でも、「いずれ」買い手は居なくなります。
(あるいは、日銀が一時的に市場に資金を大量に供給し、そのときに政府が国債を市場で売却し、直後に日銀が国債を買うというスキームをとった事実上の「日銀による政府へのファイナンス」を行えば、国債発行そのものは継続できます。もちろんとんでもないインフレになって今以上に経済が混乱すると思いますけれど。)

そのとき慌てて、消費税増税! とか言い出しても、どうにもならなくなります。

「絶対額」より「金利変動」に着目した議論がされなければならないのではないでしょうか。

 

僕の少々乱暴な意見は、過去に書いたように、「お金は持っているが消費意欲の無いジーさんバーさんのお金」を、次世代に受け渡すこと・・・つまり、「一定期間の生前相続無税化&その期間経過後の100%に近い相続税」の立法だと思います。

参考エッセイ:ITKAURA’s EYE 「子育て支援」

確かに、かなりドラスティックな手法だと思います。
けれど、確実なこと(・・・それはいずれ新発国債が消化できなくなることや、現在の国債残高がGDPや税収に対して極めて大きいことなど)から想定できる未来は、今のドラスティックな政策を求めていると思います。

 

この国の構造上の問題の一つは、「格差」です。
しかし、メディアなどで良く取り上げられる「若者の間の格差」ではなく、「世代間格差」が元凶なのだと思います。
公的年金の支払と受け取りの倍率は、現在公的年金を受け取っているジーさんバーさんの場合は、6倍程度ですが、現在の20代の場合、その倍率は1.1倍とも言われますし、それでも本当に支払われるかどうか不確実性が高いわけです。
また、国債発行によって得られた資金は、ジーさんバーさんを含め、現存する人間に対してメリットを与えますが、その借りを返すのは、ジーさんバーさんではなく、公的年金を支払っている側の若者です。
さらに、その借りに対する金利は、政府を経由して、ジーさんバーさんの懐に入るわけです。

つまり、ジーさんバーさん(の内の富裕層の話ですけれど)は、

1、バラマキの恩恵を受ける
2、バラマキ原資を「有利子で」提供するが、負担はしない。
3、(現在の若い世代が将来受けるであろう社会保障に比べ)遥かに手厚い社会保障を受けている
4、これまで常に将来に希望を持てる時代を生きてきた
であるにも関わらず、消費はせず、「自分の残り少ない人生の安心安定」しか考えないわけですからしょーもないです。


そんなバカバカしい国家構造を根本から是正しなければ、どれほど子育て支援しても、どれほどバラマキしても意味無いです。

歪な人口ピラミッドは確かに直接の問題ではあります。
でも本当に大切なことは、「なぜ少子化が進んでいるのか」って事ですよね。
それってものすごく簡単じゃないでしょうか・・・

「若い世代が、先代からのツケ回しを受けるだけで、将来への希望を持てない」

からです。

その構造上の問題は、「世代間格差」・・・つまり過去の自民党政治に元凶があるわけです。
(まあ、仕方ないといえば仕方ない・・・だって彼らの票田が、数の上ではジーさんバーさんだったわけですからね。その意味では、若い世代にも票を投じなかった自己責任がありますね。)

 

とはいえ、僕の提案を直ちに実行したら、相続を受けた世代がそのお金を消費に向けようと、ユウチョなどから現金を引き出そうとしても、日本円ではなく、「国債」が出てきたりしちゃいますけどね(笑)

だからこそ、「成長しなくてはならない!」、と、「成長」という言葉でごまかそうとしてきたんですよね、過去の政治は。

成長・・・そりゃ技術のある日本ですから輸出産業に関しては努力次第で可能ですが、内需については今のままでは「成長なんてありえない」と思います。

 

ということで、「次回に回す」とした、株価上昇の継続性についてですが、

「輸出企業においては、持続性する可能性が割りと高い」

とだけ記しておきます。
もちろん、「可能性」、なのであって、諸外国の政策次第ではどうなるかさっぱりわかりません。

 

2009年10月20日 板倉雄一郎

 

PS:
しつこいですが、「実践・企業価値評価シリーズ1日セミナー」の募集中です。
個別企業の経営を通じて、経済を知る・・・それってものすごく価値のあることですし、一生モノの知識ですし、これからの生活のうえで、優位に立つために最も重要なことだと思います。

なんだかんだ言って、「知識は金なり」、ですから。
そして、なんだかんだ言って、「お金がなくちゃ始まらない」、わけですから。

 

PS^2:
石川遼の活躍を見て、若い世代の元気が出るといいなぁ~

と思いましたが、あそこまで飛びぬけていると、「よし俺もがんばろう!」、に繋がらないかもですね。

ただ、彼の言動から万人が学べることはあります。
それは、彼がゴルフを好きで、どんな舞台でも、「楽しんでいる」、ことです。

この部分は、万人が真似できることですよね。

「だって俺の仕事、楽しい仕事じゃないもん」とか言っちゃダメです。
楽しめる仕事かどうかではなく、どんな仕事も、「楽しむこと」、が大切です。

僕だって、受身では到底楽しめない場面があります。
たとえば、「あれぇ?お食事会で会ったときは、かわいいと思ったんだけどなぁ???」なんて場合がわかりやすいですが(笑)、そんなときは、積極的に楽しむために、「相手が誰であろうと楽しいこと」をするようにしてます・・・たとえにならない・・・ですか・・・失礼。





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