板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「転用する価値」

 I don’t care what anything was designed to do.
  I care what it CAN DO. 

 何のために設計されたのかなんてことは、どうでもいい。
 それで何が出来るかに関心がある。

この言葉は、僕の大好きな、実話に基づいた映画『アポロ13』にて、アポロ指令船の一つの危機を回避するための方法を模索するために、ヒューストンの管制官が発した言葉です。

現在の日本は、金融危機をきっかけにした世界的な景気後退によって需要が落ち込み、生産設備、販売設備、そして人員の「過剰」が一つの大きな問題になっています。

先日、あるテレビ番組で、「工場転用」なるテーマのコンテンツが放映されていました。

元々「半導体生産用」として作られたその工場は、半導体需要が落ち込んだ結果、稼働率が極端に下がってしまいました。
半導体は、その製造過程において「ホコリ」を極端に嫌いますから、半導体工場といえば、空調管理は当然のことながら、作業員の身体からのホコリを押さえるための特殊な作業着、そして、その作業着を着た作業員が工場に入る前に浴びるエアシャワーなど、「半導体を作ることを目的にした設備と規律」があります。
つまり工場内は、かなり「清潔」に保たれるわけです。

この工場を抱える経営者は、「なんとか他に使えないものか」と考えたのでしょう。
現在では、半導体を作ることを目的にした工場設備と従業員教育をベースに、「クッキー」(だったかな・・・とにかく食べ物)の生産を行っているというレポートでした。

半導体工場ほどの厳密なクリーン管理は、食品を作るためには「過剰」なのかもしれませんが、それでも、食品を作るためには「十分」な設備と従業員教育があったために、すんなり「食品工場」へと工場転用が可能だったというわけです。

それまで半導体を保護するシールを、半導体ひとつ一つにピンセットで貼り付ける作業をしていた作業員は、今では、クッキーの素になるクリームを、ひとつ一つトレーの上に並べているというわけです。

見方によっては、滑稽(こっけい)ではありますし、食品加工では設備投資の回収は難しいのかもしれません。
それでも、設備稼働率ゼロより、少しでも利益が出るのであれば稼動させた方が良いわけですし、従業員を解雇せずに済むわけです。
こうして「良い意味での延命」を続けられれば、再び半導体需要が回復すれば、元の目的どおり(←元の利益計画どおり)の半導体製造に復帰することができるわけですよね。

僕の過去にも同じような「転用」の経験がいくつかあります・・・

元は、ダイヤルQ2サービスのために投資した「コンピュータ制御の音声応答装置(まあ要するに留守番電話装置のお化け)」は、ダイヤルQ2の様々な規制のおかげで需要が激減し、まるでキャッシュを稼げない粗大ごみになってしまいました。
それでも、ダイヤルQ2事業を行っていたときの経験・・・それは電話の量により広告効果を測定することができるということ、そして、ダイヤルQ2事業に使っていた上記の設備を、広告効果測定と同時に、広告を見た消費者からの音声やタッチトーンレスポンスを元に「見込み客データ」を作成するサービス(当時はこれをIMSと呼んでいました)に転用することに成功し、初年度200万円の売上は、3年後には3億円を超える程にまで成長しました。
(その後、ネット広告システムに過剰な投資を行った結果、この会社自体は倒産することになりますが、このIMSサービスは、常にキャッシュを生み出していました・・・詳しくは、僕の著書『社長失格』にて)

このような経験、というか、苦肉の策は、僕の過去にはたくさんあります。
というか、それが僕のビジネスモデルと言っても過言ではありません。

失敗という過去は、失敗した時点では確かに失敗に過ぎませんが、その経験を将来に向けて「どう生かすか」・・・つまり生かし方次第では、次の成功のための原因になりうるわけです。

経験・・・それが図らずしてであっても、設備・・・それが元々の目的が何であっても、これから先の将来に向けて、「何に使えるか」を考え、可能な限り「転用」する。
これ、今の日本経済にとって極めて重要な一つの解決策になりうるのではないでしょうか。

読者の皆さんの職場においても、生活においても、そんな転用可能なモノや経験、実はたくさんあるのではないでしょうか。
過去の判断の失敗は失敗として、(事実、日本企業はこの10年ほどの間、営業キャッシュフローに占める投資キャッシュフローが過大だったと、今となってはそう判断するほかありません。)、それが今後のどのような需要に転用できるかを積極的に考えるべきだと思います。

バラマキ政策は、表面的なスージを一時的に改善することができるかもしれません。
しかし、その一方で、長期金利の上昇圧力になり、表面上のスージが改善しても、金利上昇による景気抑制によって、元の木阿弥になる可能性が十分にあります。

抜本的な解決のためには、有り余るモノや機能を、今後の需要にあわせしっかり「稼動させる」ことではないでしょうか。

人は過去に縛られる傾向にあります。
だったら、しっかり過去を見つめて、過去を「利用する」とスイッチすることが合理的だと思います。

2009年4月20日 板倉雄一郎

PS:
週末は、当事務所プレミアムクラブの懇親会でした。
久しぶりにオフで会う彼らの顔を見て、久しぶりのセミナー会場で過ごし、セミナー全盛期のことを少し懐かしく思いながら過ごしました。

う~ん、あの頃の僕はとっても元気でした。
(今は、別のことで元気ですが(笑))

また、次のプロジェクト、始めたいなぁ~と僕をして思わせるのに十分な機会でした。

お集まりいただいたプレミア会員の皆様、ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

PS^2:
そういえば、800名以上のセミナー卒業生の中から希望者を募って始めた「NEWBIZ会」から、ようやく一つの事業がスタートしました。
事業企画に関わった方もセミナー卒業生、出資者すべてがセミナー卒業生、代表取締役をはじめ取締役もすべてセミナー卒業生の企業です。

何がいいかって、この企業のミーティングは、ファイナンス教育、企業とは何か、などセミナーの知識を持つ者ばかりなので、かなりすんなり結論が出る、というところにあります。

企業の力、それはつまるところ利害関係者の知識と経験によるのだと、「実績を持って言える将来」を作り上げたいと思います。





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