板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURA's EYE  > ITAKURA’s EYE 「JANAL!?」

ITAKURA’s EYE 「JANAL!?」

老舗企業の業績不振の原因を細かく指摘すれば、本業に必要な内部投資を行ってこなかったこと、業績好調のときに本業以外の事業に投資し過ぎたことなどたくさん挙げることができますが、その根底には老舗であることの「ブランド価値」を経営陣が過大に評価し、そのブランドの上に「あぐらをかいていたこと」が原因である場合がほとんどです。

日本航空の業績不振は、全日本空輸との合併の噂から「JANALの誕生か!?」とまで言われていますが、まずは「経営責任の追及」から始める必要があると思います。
そうでなければ、老舗企業の経営者の怠慢が原因の経営破たんが今後も続々と発生する可能性が高まると思うからです。
経営破たんする老舗企業が現れるたびに、「国民全体での支援(=公的資金による資本注入)」をしていたのでは、納税者としてはたまったものではありません。

お食事会の席で、JALからANAへ転職したCA、ANAからJALへ転職したCA、どちらの話も聞いたことがあります。
彼女たちの意見は大まかに・・・

「従業員としてならJAL、お客様としてならANAがいい」

だそうで、彼女たちの意見を聞くだけでも、「JALってだめだね」と、現在のようにその業績不振が政治問題にまで発展し、連日メディアで報道される前から、誰でも感じ取れることだったと思い返します。

上記のCAによる感想をもう少し詳しく説明すると・・・

「従業員として『楽』なのはJAL(・・・つまり殿様商売)」

「お客様に対するサービス向上に努める結果、従業員が『楽ではない』のがANA」

ということですから、企業の利害関係者(顧客、従業員、取引先、債権者、株主)間の「配分」において、従業員への配分が多すぎた結果といえるでしょう。
他の利害関係者への配分に比べ従業員への配分が競合他社に比べ多いということは、単に給与水準が比較的高い(JAL874万円、ANA799万円・・・会社四季報より)ということだけではなく、就労時間や従業員に対する住居、退職金をはじめとした様々な待遇、そして、サービス業であればサービスの質を高めるための「努力」など間接的なことも含まれます。

まあ突き詰めれば、現在株価下落により大きな損失を蒙っている「株主」が馬鹿だったということになろうかと思います。
決して、現在の従業員が馬鹿だったわけでは無いでしょう。
もちろん、「こっちの方が楽だからさ」とか、「こっちのほうがブランドよね」とかいった理由で選んでしまった「ツケ」は解雇というカタチで払わされることにはなろうかと思いますけれど。

こういった経営陣の失態による企業体質の悪化は、事業規模縮小&資金援助ではどうにもなら無いことは、過去のケース(金融機関の場合が多いのですが・・・世界の金融機関で公的支援を受けなかった企業を探す方が難しい(笑))を見ても明らかです。
企業体質改善は、追加資金を調達してくることより「遥かに」難しいわけです。
特に、労組の力が強い航空業界の場合、なおさらです。

この際、「利用者の安全が確保されること」、および、「過去の経営責任を追及すること」を条件にした、放置プレイが最も経済合理性が高いと思います。

 

言うまでも無く世界経済は大きく「変化」しています。
シュリンクしているという側面だけ見れば、「暫く我慢すれば元に戻るかも」といった解決策(?)があるように思いますが、シュリンクは一側面に過ぎず、本質的には、モノやサービスに対する最終消費者の価値観の「変化」です。
最終消費者価値感の変化の過程において、変化した需要に企業が応えられるようになるまでの間、経済がシュリンクしているのですから、企業が「変化」しなければ経済が元に戻ることもありません。
そんな変化の時代に、ブランドにあぐらをかいた経営体質⇒従業員まで巻き込んだ怠慢な企業体質の企業が経営再建などできるはずが無いと思います。

ぶっ壊して、ゼロから作り直す。

それしか無いでしょう。

 

2009年9月25日 板倉雄一郎

 

PS:
ちなみに、僕が良く使っている「ホテル日航東京」は、東京ヒューマニアエンタープライズという企業の運営によるもので、発足当時は日本航空や伊藤忠などが株主でしたが、2007年(だったかな?)の時点で、外資ファンドへ全株式が譲渡され、現在では「日航」というのは「名前だけ」で、日本航空とは何の関係も無い(・・・いやマイレッジとかは関係ありますけれど)わけです。
近い将来、名称が及ぼす悪影響を回避するために、ホテル名称が変更される可能性がありますよね。

ちなみに、そのマイレッジですが、このサイトの読者であれば皆さんご存知だと思いますが、現在のJALマイレッジ発行残高(バランスシート上の「ポイント引当金」として確認できます)は、すなわち日本航空の顧客に対する「無利子の負債」です。
「ポイント取りつけ騒ぎ」が発生しても不思議ではありませんし、その場合、日本航空の財務状況は、マイレッジ保有者の他社のポイントへの交換の場合、発行元(日本航空)のキャッシュアウトを伴いますので益々悪化することになります。

 

PS^2:
来週日曜日は、めちゃくちゃ久しぶりの「オープンセミナー」です。
オープンセミナーに次いで、10月下旬~11月上旬には、これまた久しぶりの「実践・企業価値評価シリーズ1日セミナー」を開催予定です。
まだ募集行ってますので、興味のある方は是非お申し込みください。
読者の皆様に直にお会いすることを、パートナー一同楽しみにしています。
どうぞよろしくお願いいたします。





エッセイカテゴリ

ITAKURA's EYEインデックス