板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「不確実性と向き合う(ブラックスワン)」

それ以前にもそうであったといえば、そうであったといえなくもありませんが、2008年リーマンショック以降の世界経済は、「大きな問題」が少なくとも年に1度は発生していますし、「中ぐらいの問題」が少なくとも1クオータに一度は発生しています。

たとえ経済規模が小さくとも一国の国債がデフォルトするとか、デフォルトしないまでも世界各国のソブリンリスクという言葉が一般的に煩雑に使われるような事態は、確率論的にいえば、「そう滅多に起こりえることではない(=「確率の正規分布のはしっこの方に位置する事態」)ということになろうかと思います。

しかし、それらの一見滅多に起こりえないことは、実は、「実際には結構起こること(=ファットテール)」、ということが多くの人にとって認識可能になっていると思います。

また、市場参加者らにとって、「滅多に起こりえないこと」、とされることは、滅多に起こりえないと認識されるから、その事象の発生に備えたリスクヘッジに多くのコストが割かれることは無く、したがって、「滅多に起こりえないこと」が一度起こってしまうと、その影響は、グローバリズムも手伝って、広範囲に拡大する傾向が増すわけです。
(ロシア通貨危機に端を発するLTCMの破綻が顕著な例です)

つまり、正規分布を参考に、「滅多に起こりえないこと」であるか、「しょっちゅう起こること」であるか・・・事象の発生確率がいかほどであるか・・・を把握したところで、「起こったときにどれほどの影響があるか」についての把握が成されなければ意味が無い、といえるのだと思います。

(想定されるそれぞれの事態の) 「発生確率」 × 「影響の度合い」

をベースとして、投資判断やリスクヘッジの具体的な方法を考え実行することが、2008年以降、極めて重要になっているのだと思います。

簡単に表現すれば・・・

起こる確率が「高いか低いか」だけに着目したところで、ほとんど何の意味も無いばかりか、起こる確率が低いことを「起こりえないから考慮しなくても良い」とする結果、実際に起こったときは取り返しのつかないことになるリスクを抱えることになるから、起こる確率に着目するより、起こったときに「どれほどの影響があるか」について十分に考慮することの方が重要だ、ということです。

たとえば・・・

JGBは、その保有主体の属性・・・95%以上が日本人による保有で、且つ、円建てであること・・・から考えて、デフォルトすることは考えにくいわけです。なぜなら、最悪でも日銀が円札を刷り、政府のファイナンスを直接行えば、過度のインフレ、および、過度の円安は免れませんが、形式上はデフォルトを避けられるわけですから。
しかし、「特別な政策(・・・極端な例では預金封鎖など)」が、「ありえない」とは言えないですよね。少なくとも数学的確率として「ゼロ」とは言えないわけです。

そういった、事象の発生前であれば、「あるわけ無いじゃん」、と評価されるようなことについても、「それなりのヘッジ」・・・JGBの危機を例にすれば、総資産の1/3は、在外資産として保有するなど・・・は常に意識すべきだと思います。

以上の話は、確かに「悲観的」な部分もありますが、リスクには常にダウンサイドばかりではなくアップサイドもあるわけですから、アップサイドについても同様に意識すべきだと思うわけです・・・少々上端のような例ですが、宝くじを総資産の0.00...01%程毎月買うとか(笑)

「安全安定」がハッピーの重要な条件だと思う方にとって、以上の話は心地よくないかもしれませんが、人生って、なにが起こるかわからないからこそ、生きて居られるのだと僕は思います。
何歳のときに、何が原因で死ぬとか、何歳のときに破産するとか(笑)、そんなことが予め決まっていたとしたら、なんにも楽しめないですよね。
そんな悪いスケジュールではなく、何歳のときに如何程の資産を持っているとか、何歳のときにビジネスで大成功するとか、何歳から何歳まで異性にモテまくりだとかの良いスケジュールであったとしても、やはりそれが予め確定しているとすれば、つまらない人生だと思います。

資産運用においても、人生の幸福感においても、「不確実性に向き合う」のではなく、「不確実性を素直に受け入れること」が最も重要なことだと思います。

2010年6月3日 板倉雄一郎


PS:
「格付け機関」に対する不満が世界で広がっているようですが、これおかしな話ですよね。
自ら判断をすることこそ投資家たる所以だとすれば、格付け機関が何を言おうが関係ないじゃないでしょうか。

PS^2:
免停に入ってまだ1週間・・・あと3週間もクルマに乗れない(涙)
予定が無いとき、「今日は何をしようかな」を自由に考えていたころが懐かしいです^^
クルマベースの生活を25年も続けている僕にとって、運転ができないことは、行動のオプションが極めて限られてしまって、本当に不便です。
免停明けたら、安全運転に勤めます。です。はい。




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