板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURA's EYE  > ITAKURA’s EYE 「良い借金、悪い借金」

ITAKURA’s EYE 「良い借金、悪い借金」

先週、FRBによる米国債の買取が発表されました。
その結果は、皆さんご存知の通り・・・

米国債利回り低下(=米長期金利低下=米国債価格上昇)
ドル安(≒円高)

と、教科書どおりの動きになりました。

各国政府の財政出動のための原資は、(税収減もあり)各国政府の「借金(=国債発行)」に頼らざるを得ないわけですが、国債発行が益々増加する可能性が高い現在、その「買い手」が、「中央銀行しかない!」ってことになる前兆でもあります。

特に経常赤字が続くアメリカの場合、垂れ流したドルを資本流入として取り戻さなければ継続不能な国家経済モデルですから、日本や中国など対米黒字国による米国債購入が絶対に必要なわけです。
ところが、業績不振の企業に対し債権者である金融機関が厳しい条件をつけることと同様に、アメリカに対する最も「融資額」の大きい中国あたりから、「あんた本当に米国債の価値を維持し続けられるんですか?」といちゃもんが付き始めているわけですね。
アメリカは、大規模な財政出動による景気刺激を行わなければならない一方で、米国債の価値を何が何でも維持しなければならないわけですから、大変です。
で、FRBが「カードを切った」わけですね。

短期的には、「政策主導の相場」ですから、どうなるかさっぱりわかりませんが、長期的には、だらだらとドルの価値は下落傾向をたどるのではないかと思います。
経済とは良くできたもので、FRBのカードのおかげで、米ドルのダイリューションは進み、結局、海外から見た場合の米国債の価値は、「そんなギミックでは変わらない」というわけです。
(ただし、安易に「ドル安」とは言い切れません。為替は常に「相対的」に動きますから)
もちろん、現在の金融緩和策、財政出動が、早期に景気を回復させることができ、追加対策を必要としないという見通しができるような状況になれば話は別ですが、逆に、カードを切り続けなければならない状況に追い込まれたら・・・

借金と一言で言っても、その性格は大きく分けて二つあります・・・

一つは、「成長のため」、「儲けを拡大するため」といった前向きの借金。
もう一つは、「延命のため(=倒産しないため=資金ショートしそう)」のしょーがない借金。

前者は、「レバレッジ」と呼ばれるわけですが、そのレバレッジをやり過ぎ、見込みがはずれ、現在の金融危機の原因となったことは周知の事実で、その結果、後者のしょーがない借金を、世界中の企業や個人、そして、政府までもが行うことになってしまったわけです。

成長のための借金の場合、結果がどうなるかは別にして、それ自体が返済原資を伴う計画ですが、しょーがない借金をする状況では、「将来、その借金をどうやって返すのか」についての思考はされない場合がほとんどです。
実際、過去に資金繰りに行き詰った経験が「何度もある」僕自身がそうでしたから、そんな状況の方の気持ちは痛いほどわかります。

「今を生き延びるために全精力を注ぐ」

これ確かに必要なことなのですが、将来の負担を考慮できないという負の側面が付きまといます。

だってほら、世界中の誰もが足元のことばかり考えているじゃないですか。
そもそも、現在の金融危機を引き起こした元凶こそ、「足元の利益」ばかりを世界中が考えた結果だというのに。

アメリカは、G20にて、各国に「米国同様の財政出動」を呼びかけました。
そりゃそうですよね。
アメリカだけが財政出動がんばってたら、米ドルの希薄化ばかりが進み、ドル安が加速してしまいますから。
「みんなでバラマキすれば為替も怖くない」ってことですね。

「バラマキ」とは、それをルックスルーすれば・・・

金融機関や、特定の個別企業や、特定の個人にあるリスクを、政府や中央銀行を経由して、「将来の」国民全体に分散させ、「リスクを薄める」ということです。
おや、金融危機のシステム上の元凶である「証券化」とあんまり変わらないですね(笑)

今週、詳細が発表される予定の「(米)バットバンク構想」は、正に「(将来の)国民へのリスクのバラマキ」そのものですが、どこの国の国民も、「政府という人間が自分達とは別に存在する」と勘違いしているように思います。

将来、過度なインフレにならなけりゃいいですけどね。
そうなったらなったで、インフレ率以上の運用をすればよいことですが、それができる人とできない人、つまり知識や情報がある人と、そうで無い人の格差は、とんでもなく広がること間違いなしです。
それが先行きの最も懸念すべきことではないでしょうか。

2009年3月23日 板倉雄一郎

PS:
三連休の中日(土曜日)は、都心の渋滞を久々に経験しました。
そういえば、2007年までは、毎日こんなだったなぁと。
原因は・・・
天候が土曜日だけ良いという予報、
日曜日は東京マラソンで道路が使えないから土曜日のうちに、
アクアラインの割引、
春の兆し、
などでしょうが、いずれにしても、「一時的」ですよね。





エッセイカテゴリ

ITAKURA's EYEインデックス