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ITAKURA’s EYE 「頭でっかちが経済をダメにする」

「政府紙幣」に関する話題が、メディアで取り上げられています。
僕の結論は、「政府紙幣は日本経済を破壊する」です。
詳しくは、つい最近のエッセイ・・・

【参考エッセイ】
 ⇒ITAKURA's EYE 「エコノミック・フィクション・政府紙幣で国家破綻」
 ⇒ITAKURA's EYE 「政府紙幣だってさ」

をお読みいただければ、僕の主張がお分かりいただけると思います。

新聞、テレビなどのメディアの出演する「専門屋」のコメント、昨日の日銀・白川総裁のコメント、議員のコメントなどを見ていて思うことは・・・

政府紙幣に反対の立場の方も、賛成の立場の方も、どちらの意見も「机上の空論」。

ということです。

政府紙幣に賛成の立場の主張は・・・

1、インフレ圧力によってデフレを払拭できる可能性がある。
2、インフレ圧力によって円安を招き、輸出企業の業績回復に貢献する。
3、バラマキによる消費増が期待できる

などです。
また、政府紙幣に反対の立場の主張は・・・

1、通貨価値の下落により、過度なインフレの可能性がある。
2、国債発行と根源的には変わらない。

などです。

はっきり言って、どちらの立場の意見も・・・

「マクロ経済学的には教科書どおりの『正しい』意見だが、実態経済を見ていない」=「頭でっかち」

といわざるを得ません。

慣れ親しみ、
他国通貨との交換市場も成熟していて、
インフラも対応できていて、
通貨自体の裏づけ(国債によるバランス、および日銀という通貨の番人が存在する)のある、「日本銀行券」と、

通貨の裏付けが無く(←賛成派が「デメリットが無い」主張する根拠でもあります)、
インフラも対応しておらず、
他国通貨との交換市場も存在せず、
皆が嫌がる可能性の非常に高い、「政府紙幣」では、

その価値を、同様に扱った議論には、全く意味がありません。

このことに、政治家、経済「専門屋」は、さっさと気がつくべきです。

経済は、「学問が動かすわけではありません」し、「理論が動かすわけではありません」。
私たち生活者の心が動かすのです。

彼らの議論の中には、先に僕が指摘した・・・

「消費者も、銀行も、企業も、政府紙幣より日本銀行券を選択する」=「政府紙幣を皆が嫌がる」

という、実態経済の通貨通用過程における「人の行動」の観点がすっぽり抜け落ちていると思います。

政府紙幣に限らず、現在の各国の景気浮揚政策や金融政策は、すべからく「頭でっかち」です。

どれほどお金をばら撒いても、消費者が「継続的なキャッシュフロー」を期待できなければ、いくらお金があっても、消費より、投資より、貯蓄に回ることは、学問なくして容易に想像できることです。

「ファイナンスが付くなら『どうしても必要なわけではないが』買ってみようかな。」

なんていう程度の消費欲が支えてきた世界経済は、金融危機を「きっかけに」、トレンド変化を起こしているのは、明らかです。

今となっては、「古典的」としか言いようの無い、上記の「専門屋」のマクロ経済理論では、現在の世界的なデフレスパイラルを解決することはできないと思います。
なぜなら、世界が、「未知の経済状態」に突入しているからです。

「古典的な理論をベースにした政策」では無く、根源的に経済を動かす「人々の心」に着眼した政策が必要なのだと思います。

このご時勢において、現在のマクロ経済理論の視点では、
「めちゃくちゃ時代錯誤」で、、
「めちゃくちゃ非理論的」で、
「めちゃくちゃ非現実的」だと思われることを承知で書きますが・・・

今こそ、人々の「心」を満足させる、魅力的なサービス、魅力的なモノ・・・つまり「高付加価値」な商品が経済を支えるのではないかと思います。

つまり、簡単な話、「本当に欲しいと思う商品が無い」ことが、ファイナンス以前に、金融政策以前に、経済を停滞させているのだということです。

先にも書いたとおり、デフレは「買い控えによる通貨価値の増大」を意味しますが、それでもなお、「今欲しい!」と思わせる商品があれば、人は消費するものです。
行動ファイナンスも持ち出すまでも無く、人は、理論どおりには動かないものです。
僕も含め、人の行動とは、「欲しい!」と思う「感情」が、常に「理屈」を上回るものです。

つまり、ITAKURA’s EYE 「エロさの経済価値」にて書いたとおりです。
(人は、男と女のことになると、合理性も経済性も度外視して金を使うものです。)

この視点、だれも語っていません。
でも、これが経済を動かす「大きな力」といって過言ではないと思います。

マクロ経済政策に意味が無いと主張しているのではありません。
「生活者一人ひとりの心」と、それが集積した結果の「マクロ経済」は、どちらが最初ということは無く、それこそ「鶏と卵」の関係にあります。
マクロ経済政策「だけ」では、デフレを解決することはできないと主張したいわけです。

だとえば、このご時勢でも、「Wiiで遊びたい!」と思う人は、世界中にたくさん居るわけですよね。
だってあれ、(僕は持っていませんが)、楽しいですもん(笑)

こういった「単純な人の心」が集積して、マクロ経済という「結果」を生むという因果も、マクロ経済政策が人の心に影響を与える因果と「同等程度」重要だと思います。

そこんところ、経済や政治を担う人間が、すっかり忘れてしまっていると思います。

2009年2月4日 板倉雄一郎





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