板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURA's EYE  > ITAKURA’s EYE 「元々無いお金で回っていた世界経済」

ITAKURA’s EYE 「元々無いお金で回っていた世界経済」

またまたクレジットカード業界の損失の話です・・・

一般論として、有利子負債を利用する(ある程度のレバレッジをかける)ことは、個人であれ企業であれ、その資本コスト(および税負担)を抑制する効果があり、一概に「借金はだめ!」とはいえません。

当該事業が薄利多売である場合は、なおさら資本コストを抑制するために「適正な範囲の(=最適なD/E比率の範囲の)」レバレッジは合理的だといえます。

しかし、「当たり前のこと」ですが、その有利子負債を何らかの形で担保できる場合に限ります。

古典的な日本の銀行の融資基準のように、「今日現在バランスシートに載っている資産(=既に持っている資産)」を担保にするような「後ろ向き」の担保設定に限らず、当該事業が将来生み出すであろうキャッシュフローを担保に設定する場合(←たとえばLBO)も、広義で担保された有利子負債ということになります。

「将来生み出すであろうキャッシュフロー」を担保にした融資が行われることが、すなわち「信用拡大」であり、この行為が経済を加速度的に発展させる上でのお金の面での原動力になります。

以上から、表題の「元々無いお金で回っていた世界経済」という表現は、一概に「だめな経済システム」というわけではありません。

しかし!

クレジットカードの利用であれ、住宅ローンであれ、その有利子負債が実質的になんら担保されていない(または、担保されているように見えるギミック)とすれば、それは行き過ぎた信用拡大といえます。

担保設定については、貸す側にも、借りる側にも、互いの利益のために互いがしっかり検討をすべきなのは言うまでもありません。

サブプライムローンの場合、ローン設定から数年後、「本当の返済」が始まるわけですが、そもそもそんな返済ができるような状態ではない個人が、「どうせその頃には住宅価格が上昇するから大丈夫さ」なんてことで融資が拡大されましたが、これは明らかに「担保されていない融資」だったわけです。

クレジットカードの場合は、過去の個人のクレジット(←信用情報)を元に、「割と簡単に融資枠を設定する」関係で、カードを利用する個人の側の「自己管理」が、クレジットカードシステムを支える上で極めて重要なのですが、カード会社が目先の金利を稼ぐことを目的にした「使った後のリボルビング払い」などのシステムによって、カード利用者の自己管理が甘くなる傾向にあります。

そんなシステム・・・つまり実質的に担保されていない有利子負債が積み上がり、現在のクレジットカード会社の損失の元凶となっているわけです。

もし、巷で言われているように、全世界のクレジット市場(←サブプライムローンやらクレジットカードやらなにやらすべての債券市場)の損失額が1,000兆円だとすれば、その金額は、日本のGDP約二年分ですし、アメリカのGDP約一年分に相当する莫大な金額です。

1,000兆円のすべてが実質的に担保されていなかったとすれば、表題の「元々無いお金で回っていた世界経済」という表現は、信用拡大ではなく、世界中が世界中をだました巨大詐欺事件といっても過言ではないと思います。
(そのおかげで、この10年ほどの世界のインチキな経済成長があったわけです)

「日本のダメージは(相対的に)軽微だ」という表現を見聞きしますが、「一次的(←金融への直接の影響)」においては確かにそうだと思います。

その原因は、日本人の「借金を嫌う気質」にあるのだろうと思います。
欧米人の場合、「借りられるなら借りて人生を楽しもう!」って感じのノリが、少なくとも日本人よりありますから。
(言うまでもありませんが、副次的(←実際の経済の回り方)からすれば、日本経済が輸出入によって成り立っている以上、世界の景気の影響は「多少タイムラグがあるが」、日本経済にも及ぶことになるのは必至です。)

これらの「無いお金」によって成り立った世界経済の清算に「どれほどの時間がかかり」、清算が終わり再び成長が始まるのは「いつ頃なのか」ということに関して、少なくとも僕には「さっぱりわかりません」。

しかし、世界経済が持ち直す「条件」を予測することはできます。

それは、アジア(および新興資源国)が、これまでの欧米に代わるほどの消費を行う(か、または、そうなる現実的な見込みが立つ)ほど経済が成長するという条件が整えば、世界経済は再び成長をはじめるのだと思います。

それには相当な時間を要すると思います。

今世界各国で行われているような、「通貨の希薄化を無視したバラマキ」は、もしかすると「一時的な」回復に効果を発揮するかもしれませんが、そんなのは、立たなくなった男にバイアグラを与えるようなもので、その効果はすぐに切れてしまいます。
それでも、継続的にバイアグラを与えられれば良いですが、通貨の希薄化によってバイアグラの効果も徐々に薄れていくわけです。

やはり本質的に、元気な人間が、元気に働き、社会に価値を提供し、その見返りに得たキャッシュを投資や消費によって再び社会に還元する「元気なシステム」が構築されなければ、本質的な解決を見ることはないわけです。

機能不全に陥った欧米が、再び元気を取り戻すことが無いとはいえませんが、それは数十年先にあるかもしれない、といったところではないでしょうか。

長期的な視点では、「日本のチャンス」がまさに目の前にあるといえると思います。

過去のヨーロッパにおけるロンドン。昨年まで(笑)の世界におけるニューヨーク。の次は、アジアにおける東京も、ありだと思います。

私たちが、そう思えば、それも現実になりうると思います。

2008年12月1日 板倉雄一郎

PS:
株価については、割と下げ止まっています。
その大きな原因の一つに、「塩漬け組み」の存在があります。

「60%もさがっちゃったよぉ~、これじゃ売れない・・・」

そんな声を良く聞きます。
行動ファイナンス的に言うところの、「処置効果」です。
利益確定は早く、損切りは遅い。

今起こっていることを十分に理解できていない人が、「そのうち戻るでしょ、それまで我慢」ってことなのでしょう。
そのうち戻ればいいですけどね。

こういう方々は、損失が80%ぐらいになったときに、「60%の損失で売っておけばよかった」なんて後悔する場合が多いわけです。
そのとき、本当の大暴落になるわけです。

「価値 << 価格」の状態でロスカットせずにアホルダーするぐらいなら、相場下落が伴ってでも現金化して、その現金で飲んだり食ったりした方がよっぽど経済にプラスに働くはずです。

どんな状況でも、「価値と価格」の概念は絶対に必要です。
現在の株価水準をバリュエーション的にザックリ表現すれば、「1~3年ほど業績下落が続き、その後徐々に戻る」という将来業績予測に基づいた水準だといえます。
本当にそうなるのであれば、今の株価は「買い」です。
もちろん、僕は、「そうはならない」と思いますから、「買わない」ですけれど。

PS^2:
とはいえ、僕個人的には、大暴落や大恐慌なんて嫌ですから、それなりに個人で、できることはやっています。
「社会に対する価値提供なんてぜんぜん伴わない」オプション取引などでせっせと稼いで、そのお金をお遊びでどんどん使っています。
だって、稼ぐ人が使わなければ、経済は回りませんから。
(このところ、あんまり稼ぎの調子はよくないですけれど・・・)

(↑ ってイイワケで遊んでいるだけなんですけれどね(笑)。
僕にとってのチャンスが明確に見えれば、遊びは終わりにしようと思っています。
まだまだ、何をすべきなのか、イマイチよく見えていないのですけれど。)

PS^3:
ああ、また、MSCBなんて発行する企業が出てきましたね。
MSCB発行する企業経営者は、馬鹿丸出しです。それこそ経営者のクズです。
しっかり覚えておきましょう・・・なんとかメモリ(笑)





エッセイカテゴリ

ITAKURA's EYEインデックス