板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「日本の技術の売り込み方・磨き方」

何か重大な事故や問題が「発生した後」に、その解決のために貢献した人物は、世間から注目を浴び賞賛されるでしょう。

しかし、何か重大な事故や問題が「発生しないよう」に、貢献した人物は、世間から注目を浴びる事は少なく、また賞賛される機会も少ないのではないでしょうか。
その人物のおかげで重大な事故や問題が「発生しなかった」というのに。

たとえば、混雑する駅のホームから線路に転落しそうな人の腕を掴んで、線路に落ちないようにした人の場合、賞賛される事など恐らくありませんし、下手すると助けられた人からも迷惑がられる場合があると予測します。
しかし、ホームに誤って転落した人を、列車がくる前に助け上げた人は、周囲からも、場合によってはマスメディア上でも賞賛される場合はありますよね。

このように、助ける人が居た場合と居なかった場合の「比較」が容易ではないケースでは、助けた人を高く評価する事はありませんが、もし、ある程度の「比較」が可能な場合は、助けた人が高く評価される場合もあるではないでしょうか。

割と「比較」できる事象が、今回の中国の痛ましい高速列車事故だと思います。
過去の様々な経緯・・・
中国の高速列車の「ハードウェア」が日本の新幹線「はやて」を参考に作られている事。
この技術を含むか含まないか知りませんが、中国が中国高速列車の特許を出願している事。
日本が新幹線網を敷く期間に比べ、中国は極めて短期間に日本の新幹線総延長を遥かに超える長さの建築を急いでいる事。
これらが結果として日本の新幹線と中国の高速鉄道の「比較」を容易にしていると思います。

その結果、50年以上に渡り死亡事故を起こしていない日本の新幹線が、世界から高く評価されることになるのだろうと思います。

つまり「比較」ができる場合、初めて「日本の技術力」のセールスポイントを強くアピールできるのではないか、と思うわけです。

かといって、今回の事故のような事を「積極的に起こす」わけにいきませんから、世界のバイサイドの意思決定者が理解できる「想定問題」や「想定事故」を、少なくともシミュレーションの上で起こし「比較」し、日本の技術の本質的価値をアピールするしか無い・・・という、プレゼンテーションとしては、ちと弱い方法しかとれないところが残念ではありますが。

このように「プレゼンの弱さ」という問題はあるのですが、もし「比較」によって、隠れた貢献者の評価が高まる可能性が上がるとすれば、問題や事故を未然に防ぐという効果だけではなく、隠れた貢献者に「なろうとする人」が増え、なお一層の「日本の技術力を磨く環境」を構築できるのではないでしょうか。

その結果、日本の技術力は、これまで以上に「高く売れる」。
日本が「高く」売るべきは「モノ」ではなく、モノを作ったり運用したりする「システム」である事が、これまで以上に浮き彫りになったと思います。

以上は、世界の中で相対的に縮小する日本経済を再生させる上で、欧米の価値観を真似る事だけに頼るのではなく、日本独特の得意な方法で再生させる一つの方法だと思います。

2011年7月26日 板倉雄一郎

PS:
中国の列車事故の被害者の方々のご冥福をお祈りいたします。

PS^2:
中国のネット掲示板に、
「中国は日本の新幹線をパクって無いことが証明された」
というブラックジョークがあるとの報道を見かけました。
(2011年7月25日テレビ朝日「スーパーモーニング」)

様々な意味を含んだ、中国人による投稿ですね。
これをどう捉えるかは、様々な意見があろうかとおもいますので、差し控えます。




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