板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「ネットビジネスモデルの条件(その2)」

(米)FOMCの声明は、景気判断と見通しに付いて、概ね、慎重というかネガティブでした。
(新興国を除く)世界の失業率の高止まり、PIGSを起源とするユーロ圏の金融システム不安の再燃、中国人民元相場の非市場性などなど、FOMCの声明があろうがなかろうが、先行き不安のタネは多岐に渡ります。
振り返ってみれば、今に限らずその昔から経済は常に不安定、不確実、不透明だったわけですが、グローバリズム・・・特に情報と金融・・・により、様々な事象が世界経済に与える影響にレバレッジが効く傾向は、今後益々強くなるように感じます。
つまり、世界経済の見通しは、今後益々「不確実性が高まる」と言っても過言ではないでしょう。

そんな経済環境を前提にした場合、「どんなビジネスモデルが有利であるか」、について僕なりの考えを書いてみたいと思います。

「高い不確実性」を前提にしたビジネスモデルの要素とは・・・(過去にも書いてきたことですが)

1、ダウンサイド限定
2、レバレッジとアップサイドの可能性

に集約されると考えます。


1の「ダウンサイド限定」とは言わずもがな、「計画通りに事が運ばなかった場合に想定される損失が限定的である」という意味ですが、具体的には・・・

(1)、変動比率の高いビジネスモデル

不確実性が高いということは、個々の事業における需要が不安定であるということですから、事業開始当初から「売上高が変動する可能性が高い」ということになります。
売上高が計画を下回ることがあった場合、利益が減少することはあっても、損失を最小限に留めることができれば、少なくとも事業の継続性は維持されます。
そのためには、「変動比率の高い(=固定費率の小さい)」ビジネスモデルが有利であることは疑いがありません。

(「変動費」・・・売上高の増減に連動して増減する費用)
(「変動比率」・・・費用に占める変動費の割合)

変動比率が高ければ、計画通りの売り上げを達成できなくとも、大きな損失を抱える必要がありません。
もし、計画以上の売り上げが達成できた場合、変動比率の高いビジネスモデルは、変動比率の低いビジネスモデルに比べ、得られる利益は減少しますが、「高い不確実性」を念頭に置けば、変動比率の高いビジネスモデルが合理的です。
高い不確実性の前では、変動比率の低いビジネスモデルの利点は、「取らぬ狸の皮算用」ということになるでしょう。

(2)、ノンレバレッジ(=有利子負債に依存しない)の資金調達

これは言うまでもありません。
ノンレバレッジの資金調達は、もし計画以上の売り上げが達成できた場合、高レバレッジの資金調達に比べ、得られる利益は減少しますが、「高い不確実性」を念頭に置けば、ノンレバレッジの資金調達が合理的であり、高レバレッジの資金調達は上記同様「トラタヌ」ということになります。

(3)、ショートポジションではなくロングポジション

あくまで理論的なことではありますが、金融取引において、ショートポジション(=売りポジション)は、アップサイド(=キャピタルゲイン)が限定的であり、ダウンサイド(=キャピタルロス)は無限大です。

たとえば、、株価の上限は「理論的に」無限大ですから、株式売買におけるショートポジションは目論見が外れた場合の損失を限定できません。
(もちろん、ロスカットによる損失限定はできます)
また、株価の下限は「1円」であって「ゼロやマイナス」はありませんから、ショートポジションの利益は限定されてしまいます。
つまり、高い不確実性を前提にした場合、ショートポジションは非合理的なポジションであるといえます。

一方、ロングポジション(=買い)は、株価の上限が「理論的には」無限大・・・それが当てはまる会社は無いのですが(笑)・・・ですから利益の可能性は無限大ですし、株価の下限が1円ですから、損失は限定できるわけです。
(もちろん、投資資金のレバレッジ次第では、ロングもショートもリスクを増幅してしまいます)

以上は、「株価が上昇トレンドでなければ手出しができない」ということを意味しません。
たとえば、オプション取引の場合、プットオプションのロングポジションであれば、株価下落見通しにおいても、ロングポジションによるキャピタルゲインを得る可能性がありますし、損失も限定されます。


もう一つのビジネスモデルの条件である「レバレッジとアップサイド可能性」とは、商品販売におけるレバレッジを得ることにより、アップサイドの場合の利益を最大化するということですが、具体的には・・・

(1)商品を需要に応じて低コストでコピーできること

たとえば書籍の作家というビジネスモデルであれば、「もし」ベストセラーになれば印税ガッポリですが、書籍の販売部数が増加することによる変動費の増加は(作家サイドには)全くありませんから、アップサイドは理論的に無限大です。
その書籍を扱う出版社においては、書籍の販売部数が増加すれば、印刷費用などの費用が増大しますが、あくまで変動費ですから、出版社においてもアップサイドは理論的に無限大です。
(ただし、出版社はたくさんの固定費を抱えていますけれど^^)

この「商品におけるレバレッジ(=ローコストコピー)効果」が最大化するのが、本題であるところの「ネットビジネス」であり、「ソフトウェアビジネス」であることは言うまでもありません。

スマートフォン用であれ、ゲーム専用機用であれ、ケータイ用であれ、それらのアプリケーションを商品とし、パッケージ販売ではなくネット配信に限定すれば、書籍の場合の印刷費用に該当するコストも、パッケージコストも必要ないわけですから、「アップサイド無限大」を実現できます。
また、開発費用をノンレバレッジの資金調達によって行えば、ダウンサイドも限定されます。
(このビジネスモデルの場合、変動比率が低く(=固定費の占める割合が多く)なりますが、変動費が極めて小さいことにより、計算上の変動比率が低いだけですから、否定的要因にはならないでしょう。)

<少々余談ですが本題に絡めて最も言いたいこと>

不確実性を前提にした場合のビジネスモデルの条件・・・商品のレバレッジによるアップサイドとダウンサイドの限定・・・を満たす上で、ネットビジネスが最適なのは、言うまでもないことなのですが、それがわかっていないビジネスマン、起業家が、「めちゃくちゃ」多い現実があります。

かく言う僕の場合も、思ったほど儲からない現実を見るまで「わかっていない口」でした^^
ソフトウェアビジネスは、ローコストコピーによる商品のレバレッジこそビジネス上の有利な点であるにもかかわらず、僕が20代前半に行っていたゲームソフト開発の「請負仕事」は、その有利な点を全く生かせず、単なる家内制手工業に過ぎませんでした。

ソフトウェアの「請負仕事」をビジネスモデルとして比ゆすれば、それは美容室と同じです。
美容室というビジネスを馬鹿にしているわけではありません。
ビジネスモデルの比ゆとしては、マッサージ師でも、ネイリストでもソフトウェア「請負仕事」と同じで、レバレッジが効きません。
それらのビジネスモデルで収入または利益を増やそうと思えば、自らの働く時間を長くするか、がんばって単価を上げる(=上げらるようにする)しかないわけですが、どちらの効果も自ずと限界があることはいうまでもありません。

ソフトウェアビジネスやコンテンツビジネスの場合、レバレッジの恩恵を受けるビジネスモデルで無い限り、「やらないほうがマシ」です。

(2)規模の大小に依存しない労力であること

この条件は、(1)とダブル内容ですが、わかりやすい例として金融取引があります。
為替トレードの場合でも、株式トレードの場合でも、100万円の取引と1億の取引では、規模が100倍も違うのに、労力の違いは、キーボードの「ゼロ」2ストローク分だけです(笑)
これこそが、金融機関の個人報酬が高額であることの大きな理由でもあるわけです^^
一方、運送業を比較例にすれば、ニンジンを100万個運ぶ場合と1億個運ぶ場合では、その労力は、おそらく100倍近く違うでしょう。


以上が僕が考えるところの「ネットビジネスモデルの条件」ですが、今後、現在進行中のIT環境リニューアルが完成し、様々なネットビジネスに今以上に触れることによって、様々な分析や評価をこの場で表現できるようにしたいと思います。

今日はこんなところで。

2010年6月24日 板倉雄一郎


PS:
以上のビジネスモデルの条件は、たとえば株式投資における投資対象の企業価値評価の際にも、当該企業の成長性や継続性・・・つまり将来キャッシュフローの見通しを測る上でも十分に使えると考えます。
長期投資であれば・・・最近そんな方法は人気がありませんが(笑)・・・ビジネスモデルの分析は、極めて重要です。





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