板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「あなたの顧客はだれですか?」

共に仕事をする人から、それが同僚であれ、部下であれ、上司であれ、

「この件、どうしますか?」

などと、無条件かつ無提案に聞かれると、僕の場合、無性にイライラする(笑/誇張あり)
この組織は軍隊じゃあるまいし、
質問する人間は機械でもない「はず」だし、
そして僕はプラモデルの手順書でもないのだから、

「自分の意志を持って仕事しろよ!」

と言いたくなるのだが、そこはぐっとこらえて、こう返す・・・

「どうすればいいと思う?」

すると、それなりの答えが返ってくるが、このような「自分で気が付け的指導」だと、よほどデキル人じゃない限り、次回も「この件、どうしますか?」と聞いてくる。
というか、そもそもデキル人の場合、最初から「提案」を含めるだろうから、職人向け指導とも言える「自分で気が付け的指導」は効果的ではない。

こういった「非デキル人」(敢えて「デキナイ人」とは表現しない)ばかりの組織は、活気がなく、効率が悪く、業績も悪い。
なぜなら、「作業する人」ばかりで「考える人」が全然居ないからだ。
状況が悪くて当然。

さて、こういった「非デキル人」と「デキル人」の違いは何だろう。

結論から書けば「誰を顧客だと認識しているか」に違いがあるのだと思う・・・

例えばウェッブデザインを行っている技術者(というかデザイナー)が、もし、そのサイトを閲覧/利用する人こそ「自分の顧客だ」と認識していたら――この認識こそ正しいのですが――上司に「この件、どうしますか?」と【質問】する代わりに「この件、こうしたいと思うのですがOKですか?」と【提案】するのではないでしょうか。
この場合、提案の陰には、「私の顧客はこうすることを望んでいるはずなので」という【意思】が込められているというわけです。組織を構成する価値があるわけです。

一方、この技術者が、もし、上司を「自分の顧客だ」と思い込んでいた場合はどうでしょう。
この場合、上司に対して「この件、どうしましょうか?」と【質問】することの方が、ある意味、正しい行為と言えなくもないですよね。
何しろ顧客が目の前にいるわけですから、さっさとご意向を伺えばいい(笑)
しかし、これじゃ組織を構成する価値がない。
こういう組織を望む上司は、さらに上司を顧客だと思い込むから、お伺いの連鎖が続き意思決定が遅れる。一昔前に良く言われた「中間管理職不要説」に繋がる組織だ。
意思決定が遅れるだけならまだマシだが、そもそも誰が顧客なのか認識できない状態では、意思決定そのものの判断基準が無いと言っても過言ではないから意思決定そのものが不能な組織というわけだ。


数年前、実践・企業価値評価シリーズセミナーが活況の頃、パートナー間でこんな会話があった・・・

A氏「板倉さん、CFOの顧客って誰ですかね? CEOなんですかね?」
僕「そりゃ投資家に決まってるだろ。」
A氏「なるほどぉ~、そう考えると優秀なCFOの姿がわかりそうですね。」

まさにその通り。
優秀か否か、または、どれ程報酬を支払う価値のある人材かを計る基準は個別企業によって様々だが、いずれの企業にも当てはまる人物の価値評価の正しい方法とは「顧客から観た価値がどれほどであるか」ではないだろうか。


残念なことに、世の中「上司を観ながら仕事をする人」が大半を占めていると僕は感じます。
こういう人に、「あなたの顧客は誰ですか?」と聞いても何を聞かれているのかさえわからない場合がほとんどです。
自分の顧客が誰であるかがわからないところで、仕事の評価さえできないというのに。

自分が属する組織が「非デキル人」に占められないように、常に「あなたの顧客は誰ですか」を頭で、言葉で、態度で、仕事で――自分に対して、組織内の同僚や部下に対して、常に確認し続けなければならないのだと思います。

断っておきますが、以上は、顧客に対して「ぺこぺこする」、つまり「頭を下げる相手が誰であるか」を示している訳ではありません。「顧客=頭を下げる相手」という潜在意識が、金を払う立場のときにやたらと偉そーになり、金を頂戴する立場のときに必要以上にペコペコするという世にも奇妙な商習慣の基です。

2010年12月14日 板倉雄一郎




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