先日のエッセイ、ITAKURA’s EYE 「消費税率引き上げないとね」、にて、消費税率の段階的引き上げにより・・・
1、国家財政規律の建て直しロードマップが可能になり、
2、その結果、国民の将来に対する(社会保障の低下や増税などの)不安を払拭し、
3、さらに、消費税の段階的引き上げにより、インフレと同等の効果が期待でき、
4、3の結果、消費性向が上がり、
5、経済が穏やかに浮揚する。
といった意見を書きました。
これ、「非ケインズ効果」、って言うんですね。
僕は不勉強なので知りませんでした(笑)
(その経済的メカニズムを学問的にどう表現するのかという点については、「学校」などでの教育が必要なのだと思いますが、経済学部にもビジネススクールにも通ったことの無い僕は、経済のメカニズムについて思考実験などを通じて自らの足りない脳みそで考えるだけなので知らなくて当然ですよね(笑)。
ぶっちゃけ名称なんてどうでもいいとも思いますけれど。)
ケインズの理論では、経済が停滞しデフレが進行していることへの対応策として、金利を下げ、財政支出を増やすことにより、投資や消費を促進し、経済成長へ向かわせるということですが、ケインズが「恐らく」想定していなかったほどの「借金漬け財政」の元では、その効果が得られない・・・という現実から・・・むしろ増税によって財政規律維持のロードマップを国民に示した方が経済成長する可能性があるとするのが「非ケインズ効果」であり、事実、債務大国の北欧では、この非ケインズ効果が現実となったケースがあるというわけです。
「非ケインズ効果」は、ケインズが生きていた頃に比べ、格段に実効性が高くなっていると僕は思います。
経済に関する情報の即効性と伝達力が、ケインズの時代に比べ格段に高くなっている現在では、非ケインズ効果の実効性は高まっていると推測します。
ケインズの時代は、消費者一人ひとりが、目の前のモノの価格を見て、「昨年より安いから買う」とか、「昨年より高いから控える」とか、または、「金利が安いから借りる」とか、「金利が高いから借りない」、といった短絡的な行動の集合が投資や消費動向を左右し、結果としてマクロ経済が回っていたのだと思います。
しかし現在は、マスメディアやネットから連日、「国家財政が大変だ!」、「先行き大変なことになる!」、「長期金利が上昇して借金の負担が増えるぞ!」、「デフレ状態だから先行きモノの価格が安くなる!」、「将来の社会保障は充てにならないぞ!」と、マクロ経済や財政状態とその将来について伝えられているわけですから、消費者をして・・・
1、買い控えよう
2、将来のために、老後のために貯蓄しよう
3、政策上バラマかれたモノには(自分だけが損をするようなことにならないために)飛びついておこう
4、先行き金利上昇懸念があるから、お金借りて投資するより自己資金の範囲でやろう
となっておかしくないわけです。
人が最も怖がる事・・・それは、「正体の不明なモノ」、ではないでしょうか。
「財政状況が益々悪くなるとすれば、それはいつ頃、どのようなカタチで、どのような額の負担が私たちの生活にのしかかるのだろう?」
それが不明な段階では、人々の将来に対する不安が益々増え、上記のような経済メカニズムの下、経済停滞が続くのではないかと思います。
人々の将来に対する不安を払拭するために、財政規律維持のためのロードマップを示し・・・
「これだけ負担が増えます(= この範囲の負担で財政は正常化に向かいます)
皆さんの理解が得られれば、将来の社会保障も実現できます。
その結果、経済成長すれば、皆さんの将来の収入についても安心できるはずです。」
と、「政治が」、国民にロードマップを示すことによって、国民の将来に対する不安の原因を、「得体の知れない化け物」、から、「駆除できる害虫」程度にすることが必要なのだと思います。
このところ冬眠したくなるほどの寒さでしたが、その寒さは・・・
「地球の公転と地軸の傾きから生まれる季節変化であって、いずれ春がやってくる」
と皆が知っているからこそ、
「一体いつになったら暖かくなるのだ? もしかしたらドンドン寒くなるのか!」
なんていう余計な不安を抱えずに春を待つことができるわけですよね。
将来に対する漠然とした不安がぬぐえない限り、どれほどバラマいても、貯蓄に回るだけだと僕は思います。
米中の経済成長による日本経済の浮揚という「他力本願」では、一時的に良くなることがあっても、今度は、「中国がくしゃみをしたら日本が風邪を引く」、という諸外国の経済に翻弄され続ける日本からの脱却はできないのではないでしょうか。
得体の知れないモノが一番怖い・・・これこそが日本経済の閉塞感の根本的な原因なのだと思います。
2010年2月22日 板倉雄一郎
PS:
先週末の米FRBによる「公定歩合の(ほんのちょっとの)引き上げ」、に対して、市場は過剰反応を示しましたよね。
現代において、「公定歩合(=中央銀行から市中銀行への貸付金利」なんてのは、よほどの危機の最中(←金融機関の資金繰りが悪化するような事態)でもなければ、市場に与える影響はほとんど無いわけです。
現代においては、インターバンク取引(=銀行間取引)によって、民間金融機関同士で資金の融通ができるわけですから、注目すべきはインターバンク取引の実勢金利(・・・東京であればTIBOR、ロンドンであればLIBORなど)の変動、および、中央銀行によるインターバンク取引金利の誘導目標こそ注目すべきです。
FRBは、出口戦略に対する市場の反応を、「とりあえず市場に大きな影響を与えないであろう」公定歩合の引き上げによって、「様子見」をしている程度だと思います。
PS^2:
民主党政権には日本の将来を任せられないと僕は思います。
たとえば、JALの倒産~再生への過程を見ると・・・
「責任を取らされたのは、債権者と株主(=投資家)だけであって、倒産したにも関わらず、年金は(減額されたとは言え)継続する・・・こんなの僕にとっては非常識、(労働組合が支持基盤の彼らにとっては常識(笑))」、ですね。
僕は、労働組合が馬鹿ばかりだと言いたいわけではありません。
経済も、企業も、資金があって(=投資家が居て)、且つ、労働力があって(=労働者が居て)、初めて機能するわけですから、「自分のサイドだけが良ければ良い」と、どちらか一方に意見が偏る集団によって運営されれば破綻するわけです。
彼らの政策は、労働組合に偏りすぎていると感じます。
JALの過程は、どう考えてもおかしい。
その割りに、ワーワー言う人、少ないですよね。不思議です。
だから、消費税率の議論や、財政規律の議論など、「労働組合には直接負担になるだけに見える」政策の議論は、後回しになるんですよね。
結局、自らの首を絞めるだけなのが、彼らには理解できない・・・とても残念なことです。
参考エッセイ:ITAKURA’s EYE 「政局?」