板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「1兆ドル!って?」

(米)不良資産買取策の規模は、1兆ドル! だそうです。
1兆ドル≒98兆円! と聞くと、なんだかとんでもなく大きな金額のようですが・・・

(米)GDPのおよそ10%。
IMFの推計スージによれば、世界の不良資産の総額、およそ20兆ドル!

などと比較して、どうなんでしょう・・・
(笑)どうなんでしょう、じゃ話にならないですよね。
ただこの1兆ドルというスージは、この政策の想定利害関係者が「乗った場合の最大規模」に過ぎない点を忘れて、「すげえ政策だぜ!」と、ぬか喜びするのは危険ですよね。

どんな仕組みであれ、売り手と買い手の「価格の折り合い」が付かなければ、売買は成立しないわけです。
インチキ証券化による潜在的な不良資産が、不良資産として顕在化した背景が、「そもそも」、価格が付かない=果てしなく価値の無い債権、ということだったのを忘れちゃいけないですよね。
今回の政策でも、資産の売り手(=金融機関)と買い手(=民間投資家および米政府、そして政府系機関の保証)の価格の折り合いが付かなければ、結局、売買不成立になってしまうわけです。
特に不良資産の売り手である金融機関にとって見れば、下手に価格が付くことによって、バランスシートが一層痛む(というかそれが本当の姿なのですが)わけで、なかなか機能しない感じがします。
金融機関でも、個人でも、「損切り」はしたくないという心理は一緒ですね。
もし、現在のあらゆる政策や自立的な経済浮揚が数年内の「近い将来」にあるとすれば、今の損切りは、もったいないと思うのは当然ですし、また、不良資産を買い取る側にプラスの利回りが生じるとすれば、その利益は、金融機関が損した分ということになりますから、結局ゼロサムの範囲でしかない政策です。

ITAKURA’s EYE 「必要条件と十分条件」にて書いたFRBによる資金供給策(TALF)についても、ぜんぜん申し込みがないようです。

植木鉢に、どんなに水を注いでも、植物が吸収できる水には限界がありますよね。
陽を受け、光合成ができる状態じゃないと、水を注いでも意味無いし。

で、そんな「金融システム正常化」が、実体経済に対してさほど機能していない段階なのに、ポツポツと「割と良いニュース」が聞こえてきています。
もちろん、「底打ちが迫っている」という程度の良さであって、いきなり反転となるはずもありませんが、今後は、「この底がいつまで続くのか」ということが焦点になることでしょう。

実は、何もしなくても、「いずれ」、景気はそれなりに回復するものだと思います。
むしろ、政府が経済に深く関与しすぎたり、中央銀行が「通貨の番人」の枠を超えて民間リスクを取り過ぎたりすることは、その直接の効果より、後遺症の方がずっと大きいように思うわけです。

ダメなものは、どんなギミックを使ってもダメ。
いいものは、放っておいても時間が経てば育つ。
そういうものだと思います。

経済は、政府や中央銀行が動かしているのではなく、あらゆる人々の活動が動かしているわけですから。

2009年3月25日 板倉雄一郎

PS:
この金融危機によって、あらゆる「契約形態の変化」を感じます。
金曜日のエッセイで詳しく書こうと思いますが・・・

長期契約より短期、または、一時契約へ

それは、「所有」より「賃貸」という側面もありますし、「所有」のメリットは、キャッシュフローの所有以外になくなるということでもあります。
たとえば、「家具付き、敷金礼金ゼロ!」なんていう賃貸不動産物件が増えてきましたが、これって要するに、「賃貸回転率の上昇」へのバイアスになっていますよね。
そんな経済の変化があり、その変化に対応できる企業や個人が、次の景気浮揚時に成長するのではないかと思います。
今までと同じビジネスモデルは、どんなに救済してもダメ。

PS^2:
最近、20代の若い女性が、オッサンを求める傾向になってきていると感じるのですが、それって、自分がオッサンになって始めて気がついただけで、実は自分が20代のころから、同じような現象があって、当時は気がつかなかっただけなのだろうか・・・と、そのあたりの研究(笑)に熱心だったりする今日この頃です。
もしかしたら、不景気のせいかも知れなし、もしかしたら、昔から変わらないことなのかもしれないし・・・
それが解けたからといって、何がどうなるってわけでもないのですけれど(笑)




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