板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「日本株出遅れの原因」

世界の上場株式価格推移を見れば、誰もが「日本株が出遅れている」と認識できるでしょう。

日本株の出遅れ原因については、様々な方が、様々な意見を述べていますので、この場でそれらの意見を羅列することは控えますが、僕が思うところの日本株出遅れの「一つの大きな原因」として注目したいのが、「企業に国民生活の様々な負担を押し付けようとする政策」、です。

1、被雇用者を解雇しにくい政策

「もうだめ潰れそう」とでもなら無い限り、従業員を「実質」首にできないわけです。
「首にできなくすれば、雇用が確保される」という短絡的でマヌケな発想が根底にあると思われますが、こんな政策は、経営者をして、むしろ、「能力不足でも首にできないなら、最初から雇いたくない」という経営方針を後押しするだけで、実質的な雇用対策になどなるはずもありません。

2、非正規雇用の排除政策

小泉政権下での非正規雇用に関する規制緩和が原因で、需要の変化が直ちに非正規雇用者の生活にダメージを及ぼすという、「現象のダウンサイドリスクだけを評価した分析」に基づき、派遣労働の禁止という愚策に至ったのだろうと思いますが、需要変動という予測の非常に難しい現在のグローバルマーケットを前提にすれば、「一時的と(経営者が)思う需要増に対して妥当な範囲の供給増を行うこと」が難しくなり、一時的にせよ需要増を生産拡大に結びつけづらくなってしまうわけです。

このことは、過去のエッセイ:ITAKURA’s EYE 「雇用問題」に詳しく書きました。

つまり、需要減少による非正規雇用の減少(首切り)というダウンサイドリスクばかりを評価するのではなく、一時的な需要増による一時的な雇用増というアップサイドリスクも同等に評価しなければならないと思うわけです。

ぜんぜん仕事が無いこと、より、一時的にでも仕事があること、の方が遥かにマシですから。

3、最低賃金規制

これについては、説明の必要すら感じません。

 

以上の政策は、国民生活のセーフティーネットを「企業に押し付ける政策」です。

こんな政策に縛られる企業と、そうでない企業があるとすれば、投資家はそんな政策に縛られない企業に対して将来性を感じるのは当然です。
こと日本の輸出依存の高い企業に関しては、日本国内の景気がどうであるかは、少なくとも投資家にとっては、さほど大きな因数ではないわけです。

雇用保証を企業に負わようとする政策は、日本株の出遅れの「一つの」大きな原因になっていると僕は思います。

 

では、国民生活はどうでもいいのか! というと決してそんなことはありません。

本来、生活保護、社会保障、セーフティーネットなるものは、企業が直接負担すべき類のものではなく、国家が税の再配分という手段によって率先して行うべきものです。

少子高齢化人口減少&デフレ状況にある日本モデルの場合、大手輸出企業「と、それにぶら下がる中小企業」の活躍によって初めて、資源の乏しい日本の継続性と、それら企業の従業員の収入が確保できるわけですから、企業の国際競争力を高めるような政策でなければならないはずです。

以上から、(過去にも書いたことですが)、上記の馬鹿げた企業いじめをとっとと止め、社会保障の原資となる消費税率の段階的引き上げ、および、法人税率の引き下げを行い、稼ぎ頭であるところの企業を伸ばし、国家財政規律に対する不安の払拭を行う必要があると思います。

さらに付け加えれば、先のエッセイITAKURA’s EYE 「わくわく公共事業」でも書いたとおり、どこかの田舎のバラマキを主な目的とした公共事業ではなく、日本の国際競争力を伸ばすことに直結する(・・・つまりバラマキ&成長に寄与する)公共事業のために起債する国債を増発すべきだと考えます。

また、ITAKURA’s EYE 「自給率アップ政策」、に書いたとおり、エネルギー資源、食糧などの自給率アップのための公共事業も諸外国の経済に翻弄される日本経済の安定化のために、長期的視点に立ち、実行すべきだと思います。

 

なぁ~んて、こんなところで主張したところであんまり役に立たないかもですが(笑)、いずれにしても、「将来に対する国民の不安」を取り除くことが、消費を刺激し、生産を拡大し、現在の閉塞感を払拭できる唯一の方法だと僕は思います。

将来に不安があれば、今あるお金を温存したくなりますし、したがって経済は縮小均衡に成らざるを得ないのだと思います。

 

2010年2月9日 板倉雄一郎

 

PS:

高度な社会保障を実現している北欧の場合でも、企業は「その企業では使えない人」の首切りは、日本より遥かに自由にできます。
その一方で、消費税を原資とした社会保障が実現されているわけです。
決して、社会保障の一端としての雇用確保を企業に負わせているわけではないのです。

その結果、国際競争力のあるグローバル企業が育つ一方で、社会保障も充実し、国民の将来(特に老後や病気など)に対する不安が、少なくとも現在の日本より少ないわけです。

日本は、相変わらずの、「企業は一流、政治は三流」、から抜け出したいところですね。

僕個人的には、民主党には全く期待できません。

だって、彼らから真っ当なマクロ経済政策なんて、全く聞こえてきませんから。





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