板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「長期金利上昇」

各国で長期金利(←国債利回り)が上昇しています。

極めて基礎的なことですが、念のため・・・

国債などの債券には、その債券に記載され、実際に支払われる「金利」をあらわす「利率」があります。
たとえば、額面100万円、満期10年の債券に対して1.5%の「利率」であれば、毎年1万5000円が満期まで支払われ、満期には金利と元本が支払われるということになります。
この債券が、100万円で流通(市場があるわけではなく、ブローカー同士で売買される実勢価格)されていれば、この債券の「利回り」も、1.5%です。

しかし、インフレや、債券発行元の信用リスクの増大などによって、「(この債券の)売り手の方が買い手より多い状態」になれば、債券価格は額面を下回る価格で取引されることになります。

仮に、90万円で取引されることになれば、90万円に対して15000円が金利として支払われることになるので、「利率」は1.5%と変化しませんが、「利回り」(←DCFの計算を文章で表現するとちょいと面倒なので割愛しますが・・・僕はエクセルでちょいちょいと計算しました)は、およそ2.6%に上昇します。
(以上は、あくまで、上記の設定(額面100万円、利率1.5%、満期10年)の場合の話です。)

長期金利とは、要するに、この設定にあるような満期10年以上の(それぞれの国の)国債の「利回り」のことを示します。

現在のように長期金利が上昇するということは、長期国債が売られ国債価格が下落傾向にある、ということを示しています。

各国の財政出動や税収減などによって、その財源としての国債が今後各国で増発されるであろうことは誰にでもわかることですが、そうなると・・・

1、増発される国債を買う人がいるの?とか
2、本当に債務執行(←利払い)がされるの?とか
3、そんなにたくさん国債が出てくるなら、買ったはいいけど、売れるの?とか
そんな、需給関係の悪化ともいえるし、信用リスクの増大ともいえる心理というかメカニズムから、国債が売られるということになります。

古典的な経済学の範囲では、その国で「最もリスクの低い債券」は国債です。
僕らが行う企業価値評価セミナーの中でも、長期金利(=長期国債利回り)を「リスクフリーレート」と表現しています。
企業の資本コスト(←将来キャッシュフローの割引率)も、リスクフリーレートをベースに、それぞれの企業の信用リスクを「プレミアム」として加算し、それとしています。

したがって、個別企業などへの投資は、国債への投資に比べ、「リスクが高い」分、利回りも高いということになります。
不景気の時には、リスク(不確実性)の内、「ダウンサイドリスク」が意識されることになりますから、不景気であればあるほど、利回りは小さいがダウンサイドリスクの少ない国債が買われる傾向にあり、したがって、不景気であればあるほど、長期金利が低下する傾向にあります。

しかし現在起こっている現象は、明らかに世界的な不景気なのに、長期金利がじわじわ上昇している(=国債価格が下落=国債が売られている)わけです。

「いくらリスクフリーであっても、バンバン発行しすぎなんじゃないの!大丈夫!」

ってことなわけです。

この市場原理の「良い部分」を表現すれば、「だから国債乱発が抑制される」わけです。
(過去のエッセイで書いた「政府紙幣」には、このような発行抑制メカニズムが働かないことも、政府紙幣に反対の大きな理由です。発行抑制メカニズムが働かなくても、同じ国の中央銀行券や国債への影響があるわけですから、いいこと何も無いわけです。)

不景気の中で長期金利が上昇してしまったら、益々景気を押し下げることになってしまいます。
何にもいいこと無いわけです。

国債を増発し、得られた資金で、「死に体の企業を延命する」ということでは、益々この傾向が強まるばかりです。
しかし、その資金を、「将来性の高い事業に投資する」ということであれば、この傾向はある程度抑えられます。
「借金増えるが、その金で将来を買う」ということであれば、借金=悪いこと、にはならないのはお分かりですよね。

今、世界(特にアメリカ)が行っている財政出動は、「死に体企業の延命策」です。
これじゃ国民の負担が増えるだけ。
だからこそ、将来にわたる「ヴィジョン」を打ち出し、そのヴィジョンに基づいた「お金の使い方」をしなければなら無いわけです。

ダウンサイドリスクを考えると・・・

「国債買いましょう!」なんてしつこく大々的に言い出す政府が出てきたらやばいです。
日本の場合には、「幸い」・・・
国債保有者(←債権者)の大部分が日本人で占められていて、
円建て(←自国通貨建て・・・為替の影響を受けづらい)の国債なので、「マシ」な方です。

米国債を大量に保有する中国が、「いよいよダメだな」と、米国債を売り始めたら米国債は暴落し、米国長期金利は急上昇してしまいます。
その「序章」として、中国は、外貨準備の運用を、「原油備蓄」だとか、「金(ゴールド)」だとかに、「今の段階では本の少しずつですが」、シフトしてきています。

でも、こちらも「今のところ」幸いなことに、世界各国が米国債を持ち、米ドルでの決済を行っていますから、「だれも米ドルの価値が下がって欲しくない」状態です。

が!

このところ「金(ゴールド)」が注目されています。
ここ数日は、金価格が下落傾向ですが、中長期では上昇し続けています。

金(ゴールド)には、利率がありません。
金(ゴールド)それ自体が、金(カネ、もしくは、ゴールド)を生み出すわけではありません。
なのに金(ゴールド)が上昇するということは、キャピタルゲイン(←金価格上昇益)を求めるということより、「資産保全」として捉えられていると考えられます。

「どこの国の通貨も信用できない」と。

2009年3月4日 板倉雄一郎

PS:
そういえば、「ジンバブエ・ドル」のハイパーインフレすごいですね。
現在では、「紙くず」になってしまったので、米ドルが通用されているようですが、末期には、年率2億パーセント!のインフレだったらしく(笑うしないですよね)

パン一つ買うにも、100兆ジンバブエ・ドルだとか(笑)
パンより大きく重い紙幣を抱えて、買い物するんですよ。

2億パーセントのインフレって、今100円のパンが、1年後には2億円!ってことですよ。

所詮、「紙」は、「紙」ですからね。
その裏づけ(株式であれば企業の収益力、紙幣であれば国力)がなければ、なんの価値も無いわけです。





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